[2009_03_19_01]「安全実現まで闘う」志賀原発逆転敗訴 高齢原告決意新た 新指針で再点検難航(朝日新聞2009年3月19日)
 
 原発の耐震性の危うさを争ってきた訴訟は、住民側の逆転敗訴になった。北陸電力志賀原発2号機(石川県志賀町)をめぐる控訴審判決。高齢化が進む原告らは落胆しつつも、訴訟を継続する決意を新たにした。

 午前10時半すぎ、裁判所前で、支持者らに向けて掲げられた垂れ幕は、逆転敗訴を知らせる「遺恨十年」だった。
 判決後、裁判所前にある北陸会館で関かれた記者会見で、原告弁護団長の岩淵正朋さん(58)は「今回の裁判は新指針にもとづく耐震安全性を判断する初めての判決で、一審のような判決であれば、新指針の妥当性の見直しが出てくる。だが、(今回の裁判長は)踏み込む勇気がまったくなかった」と述べた。
 「(判決は)地震国日本に立地する原発の危険性を一切無視している。上告して原発震災による放射能被曝の危険性のない安全な生活が実現されるまで、囲い抜く決意である」。原告団長として128人の原告団をまとめてきた堂下健一さん(54)は、原告団の声明を読み上げた。
 出身地・旧富来町(現志賀町)で原発に反対する住民と、29歳のときに出会って帰郷し、88年の1号機訴訟の提訴に参加。町議会議員も4年半務めた。一審勝訴の後、町の会合で経済団体の代表に「町は原発と能登中核工業団地でもっている。文句のあるやつは出ていけ」と言われた。町では原発が「日常」となっている。
 志賀町内に住む原告16人の平均年齢は65歳を超える。90歳以上の人もいる。堂下さんは「舞台は最高裁に移るが、変わらぬ信念を持って頑張りたい」と仲間に呼びかけた。

 新指針で再検討 難航

 志賀原発2号機運転差し止め控訴審では、一審判決後に見直された国の「耐震指針」の是非が、最大の争点になった。国は今年2月、新指針による2号機の再点検結果について「妥当」と判断、控訴審判決は国の「お墨付き」を追認した形になった。ただ、他の原発の再点検は継続中で、安全性、信頼性を保てるかは、新指針をいかに運用するかにかかっている。
 国は原発が守るべき耐震指針を定めている。一審判決が出た半年後の06年9月、28年ぶりに全面改定された。活断層調査を厳しくし、全国一律だった直下地震の想定は個別に見積もるようにした。
 電力各社は昨年3月、新指針による再点検の中間報告を一斉に国に提出。考慮すべき活断層の数が増えたり長さが延びたりした。想定する揺れの最大加速度は志賀原発で490ガルから600ガルになるなど、すべての原発で引き上げられた。
 一方、14基の原発などがある福井県周辺では、再点検が難航している。周辺には多数の活断層があり、国と電力会社側の評価の違いが以前から指摘されてきた。再点検の過程で、電力会社も活断層が敷地直下や真横にあることを認めた。ただ、なお断層を短く分けたり、隣り合う断層が連動しないとしたりする根拠を探っているのに対し、保安院の作業部会メンバーから疑問の声が相次いだ。結局、各社は今月、揺れの想定を引き上げた。
 原子力安全委員会で、新指針に基づく活断層審査の手引作成に携わった鈴木康弘・名古屋大教授(変動地形学)は「多くの活断層が過小評価されてきた反省から、今後は活断層の存在を示すグレーの証拠があればクロと判断して、その断層が起こす地震に十分備えられる設計にすべきことが新指針で明記された。この精神が確実に守られるか否かが、国民の信頼を得られるかどうかの鍵だ。第三者が調査自体を行うなど、より客観的な視点が必要だ」と話している。(佐々木英輔、田之畑仁)

 志賀原発2号機訴訟

 地元住民など17都府県の135人(現在16都府県128人)が、放射性物質が外部に漏れる危険性の高い原発の建設は人格権や環境権を侵害するとして、北陸電力を相手に建設差し止め(後に運転差し止めに変更)を求めて99年8月に提訴した。出力135万8千キロワット。1号機(沸騰水型炉、出力54万キロワット)に続いて99年8月に着エされ、国内55基目の商業用原発として06年3月に運転を開始した。
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