[2012_04_15_01]再稼働以前の問題だ 連動地震の危機が迫っている1 (よせあつめ新聞2012年4月15日)

 若狭の海と原発

 日本海は閉じた海だ。放射性物質が拡散すれば津軽海峡以外に外に出る経路は無く、水深300m以下には日本海固有水と呼ばれる、外洋との海水交換の乏しい低温の海水がある。ここに放射能が流入すれば、いつまでも汚染が続くことになる。それは福島県沖とは全く違う状況になるだろう。さら沿岸域の国々との距離も近く、韓国、朝鮮民主主義人民共和国、ロシアとの国際海洋汚染問題に発展する。大変な補償を請求されることになる。
 日本がソ連、後にロシアによる放射性廃棄物海洋投棄を批判し、グリーンピースが監視船を出して実力阻止行動を取ったのも、日本海という海洋環境の特性を考えれば当然のことだった。
 次は日本が、大規模放射能汚染をもたらすことになるかもしれない。まさしく悪夢であろう。
 海洋汚染は、直ちに日本海の海産物を汚染する。その程度によっては、豊穣の海が死の海に変えられてしまう。
 日本海側の原発再稼働問題にはこういう視点も必要だ。

 プレート内地震と海溝型地震との連動 

 日本海側、特に北陸3県は地震の少ないところだと思われてきた。地元を歩けぱよく分かる。津波対策の護岸などは無い。あるのは高潮対策の防波堤とテトラポットだ。
 若狭湾にも、防潮堤は存在しない。耐震補強も進んでいない。金沢などの町屋は、観光地としては魅力的だが地震対策の目で見れば絶望的な密集状態だ。
 福井地震(1948年)や能登半島沖地震(2007年)はあったものの、大さな津波を伴う災害ではなかった。しかし歴史をさかのぼれば、北陸地方も大規模震災の経験がいくつもある。
 特に気になるのは、太平洋のプレート境界地震が起きる前後に集中して北陸地方で地震が起きていることだ。
 先の福井地震も、その前年に東南海地震が起きている。能登半島沖地震は今回の東北地方太平洋沖地震と時間的にとても近い。
 さらに、富山県と岐阜県にまたがる全長70キロに及ぶ跡津川断層こよる巨大地震は、1858年の安政年間、つまり安政東海地震の4年後に起きているし、北陸地方にも大被害を出した濃尾地震は1891年で明治三陸沖地震の5年前だ。
 数年の時間差をもって、太平洋の巨大地震と連動すると考えて不自然では無い。最近になって地震が増えたように感じるのは、たまたま50年続いた地震静穏期が終わったということだろう。
 2007年の岩手・宮城南部地震では、一平方キロメートルにわたり、100メートル以上もの深さで山体崩壊が起き、麓の温泉旅館が流され、大勢の犠牲者を出した。記録的な地震加速度も観測された。しかしこれが史上最大では無い。
 山体崩壊は跡津川断層の動いた飛越地震では立山カルデラ(鳶山)の崩壊として記録されており、現在も崩落が続いている。日本の三大崩落(といっても記録される限りではあるが)の全ては中部地方の地震に起因する。
 また、濃尾地震に匹敵する地震として知られる天正地震(1586年)は、庄川沿いの断層が動いたとわれるが、帰雲城を土石流により崩壊させた巨大崩壊を伴っている。この地震は、伊勢湾と若狭湾で大津波が発生したと記録されており、多数の断層が連動した可能性もある。ちなみにこの地震の19年後の1605年に南海トラフを震源とした慶長地震が、その6年後の1611年には今回の東北地方太平洋沖地震に似た、M9クラスの慶長三陸地震が起きている。
 若狭湾に目を移すと、ここにも大きな山体崩壊を引き起こした山がある。若狭富士として知られる青葉山がそうだ。この山体崩壊の原因は分かっていない。起きた時代も特定されていない。しかし標高1000メートルを超えたと思われる独立火山(ただし火山活動は170万年前こ終わっている)が、山頂から崩れるような大規模崩壊を起こしたのだから、地震に伴う崩壊であった可能性が高い。
 実際に、この位置には京都から続く上林川層が延びていると思われる。さらに近年明らかになった重力異常の分布では、若狭湾の海岸線に沿うように高重力異常と低重力異常の境界がある。このような重力異常が変化する地帯は地下に伏在断層が存在する場合があることも指摘されていることから、上林川断層を延長し、白木ー丹生断層につながる空白域に伏在断層が存在する可能性がある。これは熊川断層とFO断層群が切れている地点を通過していると思われる。
 大飯原発が乗っている大島半島は高重力異常地域に位置し、まさしく「固く脆い岩盤」であることを物語っているが、小浜湾側は急激に低重力異常を示す地域になっていて、これは軟弱地盤を意味する。地下のかなり浅い(5000メートル)ところに地盤の不連続な面があり、大島半島はいわば「泥の海に突き出した岩盤」のような状態になっているので、大きな地震波が太平洋側から水平方向に当たるような場合、この面を境に大きく地盤がずれ動く可能性がある。大島半島側が上がり、小浜湾側が落ちる。しかもその時にFO断層群と熊川断層を境に南側が上下する逆断層地震が起きれば、小浜湾の中で巨大な津波が発生するかもしれない。このような津波発生では、想定波高の意味が無い。いくらでも巨大津波が発生し得るのだ。
 内陸直下地震の特徴は震源が浅く真上にとても大きな上下動をもたらすことだ,これが堅く脆い岩盤を通じて、その上にある構造物を突き上げる。または、その上にある山に衝撃波を与える。これが山体崩壊を引き起こすことになれば、周囲に土石流被害が及ぶ。
 そのような目で大飯原発を見ると、原発のすぐ後背に高い山(崖)が見える。原発側はコンクリー卜に覆われているのでよく分からないが、反対側に回ってみると、崩落していることが分かる。岩屑雪崩が小規模に起きている。この原因はおそらく降雨だが、見るからに脆い。ここにに強力な地震が襲えば、崩落すると考えるほうが自然だ。
 真下に原子炉建屋と外部との送受電設備と非常用に設置した電源車がある。福島第一原発以上のとんでもない災害になるだろう。

 制御棒の挿入時間

 制御棒は「原発を止める」ための装置で、これが規定時間以内に入らなければ原発は止まらない。必要な時間は2秒余。
 柏崎刈羽原発では、距離18キロのM6.8の地震で原子炉スクラム信号が発信、2秒で全挿入できたという。そのため原子炉は「止まった」のだが、大飯原発でも可能だろうか。はなはだ疑問だ。
 まず、FO断層群など内陸直下地震を想定したら、柏崎に比べ震源距離がとても近い。上下動を「P波」というが、この波は速度が速く、秒速7000mもある。つまり、震源距離が7キロならばわずか1秒で到達する。さらに上下動は軟弱な地盤であれば減衰が期待できるが、固い岩盤だと減衰せずに原発に到達する。スクラム信号発信と強い縦揺れがほぼ同時に襲う。柏崎や福島のような時間差は、ほぼ無い。
 柏崎刈羽原発はBWRだ。このタイプは制御棒を圧力容器の下部から入れる。これは重力に逆らうことになるので、圧縮空気と水圧で強制的に押し込む。失敗すれぱ制御棒は入らないので、制御棒は一体ずつ制御棒駆動機構に接続されていて、これらは独立している。1本の制御棒が入らない場合でも原子炉は停止出来るとされている。
 一見すれば不利に見えるが、機能が正常に働くならば重力に逆らって押し込む能力がある分だけ、地震動の影響を排除できる。
 一方、大飯原発などPWRタイプは制御棒が上から入る。具体的には通常は電磁石でつり下げ、スクラム時には電流を切って自由落下するようにしている。確実に落ちる代わりに、速度は重力加速度に依存する。つまり、スクラムの瞬間に大きな下向きの加速度がかかってしまうと、相対的に挿入速度は落ちることになる。
 原発の地下にある固い岩盤の影響で最初に到達するP波により、大きく上下に揺さぶられれば、秒単位で挿入できなければならない装置で、これはかなり致命的だ。
 また、この大きな縦揺れは重力加速度を超えてしまうとすると、自重と同じ加重が上下方向に掛かることを意味する。鋼鉄製の容器のような構造物は、これで座屈することがある。実際に柏崎刈羽原発では、タンクが座屈しているが、中越地震では川口町(当時)の上越新幹線橋脚は、阪神高速などとは比べものにならない太くて頑丈な橋脚だったが、破壊された。ここでは震度7を記録している。(以下次号)

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