[2007_07_17_04]原発 鎮火に2時間 中越沖地震 国の指針 不明確 地震と火災 別々にマニュアル 揺れ680ガル想定2.5倍 安全確認まで再開認めず 東電社長に甘利経産相(毎日新聞2007年7月17日)
 
 新潟、長野両県で震度6強の強い揺れを観測した新潟県中越沖地盤。東京電力柏崎刈羽原発では国内で初めて、地震に伴う火災が発生する事態になった。北陸・信越地方では今年3月の能登半島地震に続く大地震で、新潟県は04年10月の新潟県中越地震からわずか2年9カ月で再び大地震に襲われたことになる。原発の地震対策は大丈夫なのか。なぜ、日本海側で地震が続くのか。
 原発の火災については、国の指針が原子力事業者に対し、発生防止や影響軽減などの措置をとることを求めている。しかし地震に伴う火災は明確に想定しておらず、各事業者は、地震と火災のマニュアルを別々に定めているのか現状だ。
 東京電力によると、火災が発生した場合、自衛消防隊を結成して対応することにしていたが、結成できなかった。地震時の火災は想定していなかったため人手が足りなかったからだ。同社は「計7基の原子炉の点検作業などにも追われて無理だった」と説明する。
 消火にあたったのは社員ら4人だけ。119番が話し中となったため、地元の消防署と連絡が取れるまでに12分もかかった。消防隊が到着したのも速報から1時間たってからで、鎮火までには2時間近くかかった。
 同社は「消防隊が来なくても、自衛消防隊で対応できると考えていた」と説明しており、地震時の火災に対処する体制が決して十分とは言えない現状が浮かぶ。原子力安全・保安院の森田深・事故対策室長は「問題があったかどうかを含め調査する」と話す。
 火災で燃えた変圧器の隣には、外部から電気を取り入れる別の変圧器もあり、延焼すれば原子炉の冷却に重要な外部電源が失われる危険性もあった。同社の寺津邦信・原子力運営管理部長は「最悪の場合でも非常用ディーゼル発電機がある。問題ないと考えている」と説明する。
 しかし、地震による火災のリスクは無視できないことを示す研究もある。松岡猛・宇都宮大学院工学研究科教授(システム工学)は、独立行政法人・海上技術安全研究所に勤務していた99年度から5年間、地震による火災リスクを想定する研究を進めた。
 想定は、分電盤などから発火し、火災によって79年の米スリーマイル島原発車故のような「炉心損傷事故」が起きる確率などを推計した。その結果、1カ所で火災が発生して炉心損傷率故が起きる確率は最大0.00002%だが、2カ所で同時に火災が起きた場合には0.002%と約100倍に急上昇した。
 地震によって発生する火災のリスクの評価は、国の安全審査でも取り上げていない。松岡教授は「今回のケースをもとにすれば、より正確に発火確率を推定できる。地震による火災のリスク評価を進め、必要なら対策も進めるべきだ」と話す。
【中村牧生、鯨岡秀紀】

 揺れ680ガル 想定2.5倍

 今回の地震では、同原発1号機の地下5階での揺れが最大で680ガル(ガルは加速度の単位)に達し、耐震設計上想定した揺れの約2・5倍だった。想定を上回る揺れが観測されたのは東北電力女川原発、北陸電力志賀原発に続いて3基目。原発で観測された揺れとしては過去最大で、原発の耐震想定の甘さが改めて問題になりそうだ。
 東京電力は88年、同原発の国への設置許可申請にあたり、大きな揺れをもたらす地震として、当時の国の指針に基づき、原発直下で起きるマグニチュード(M)6・5の地震や、内陸部の断層による地震などを想定した。しかし、今回は原発から9`でM6・8の地震が起きた。
 建設時の調査では、近くの海底に4本の断層が見つかったが、断層の長さが短いなどの理由で、大きな地震は起きないとみなされた。4本とも、今回の地震を予測させる断層ではなかった。
 指針は昨年9月に改定された。東京電力は「今回の震源は海底だが、原発建設時に想定した内陸の断層が海底までつながって動いた可能性もある。想定が甘かったという評価はあるかもしれない。新指針に沿って耐震性を調べ直している」と話している。
 この地震では、敷地内の土捨て場の一部も崩れた。同社は「原子炉から離れており、問題ない」と説明した。【高木昭午】

 安全確認まで再開認めず 東電社員に甘利経産相

 甘利明経済産業相は17日午前0時過ぎに、東電の勝俣恒久社長を経産省に呼び▽同社の消火活動の遅れの原因と対策を早急に報告すること▽地震の加速度が設計時の想定を超えたため安全が確認できるまで原発の運転は再開しないことーなど3点を指示した。
 甘利経産相は「消火活動が遅れたことで、原発の安全性への不安を増大させた」と話した。勝俣社長は報道陣に対し「全体の消火体制に弱点があった。大変申し訳ない」と話した。
【高木昭午、北川仁士】
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