[1997_09_17_02]原発18基で虚偽データ 日立の下請け業者 配管溶接部167カ所 エネ庁調査方針(朝日新聞1997年9月17日)
 
 日立製作所(本社・東京)と日立エンジニアリングサービス(同・茨城県日立市)が施工、補修にかかわった全国の商業用原子力発電所の沸騰水型炉18基の配管溶接をめぐり、溶接後熱処理(焼鈍)の温度配録が虚偽のものに差し替えられていた疑いがあるとして、通産省・資源エネルギー庁は16日、事実関係の調査に乗り出すとともに各原子炉の海抜部の安全性を確認する、と発表した。配管の溶接部は熱処理で強度を高めることになっているが、作業に当たった下請け業者の伸光(本社・日立市)が、その温度配線とは別の配線を日立側に提出していた。同庁は溶接検査で強度に問題はないとしているが、18基を順次調査し、専門家で作る「溶接部健全性評価検討会」(仮称)で安全性を確かめるという。

 虚偽報告の疑いがあるのは、東京電力福島第一原発、中部電力浜岡原発、中国電力島根原発など、5電力会社の8発電所18基。最初にデータが差し替えられたのは1980年代前半とされている。
 資源エネルギー庁の調べによると、12日、日立製作所と電気機器の保守、管理を受け持つ日立エンジニアリングサービスから、配管溶接部の熱処理の温度記録が真正のものではなかったとの報告があった。このため同庁が二社から事情を聴いた結果、熱処理工事に当たった日立エンジニアリングサービスの下請け業者伸光が、温度記録のグラフに線の途切れなどがあったため、同じ条件で熱処理をした場合をコンピューターで模擬し、その数値を実際の記録に見せかけて、日立側に提出していたという。日立側の調べでは、タービン周辺の配管167カ所で、虚偽の報告があったという。
 日立製作所によると、今月5日、社長あてに告発文書が寄せられ、不正が発覚したという。
 放射能を含んだ冷却水などが通る配管の溶接部は、金属が弱くなるため、電気コイルで加熱・冷却して強度を高めることになっている。電気事業法で熱処理が義務づけられている溶接部の数は、一基の原発で約4000カ所といわれている。作業はすべてコンピューターで制御されており、設定が正しけれは、熱処理も正常にできるという。日立側では、そのプログラムの設定には立ち会っており、資源エネルギー庁でも「正常に近い温度で熱処理されていると思う」と話している。
 熱処理の温度記録は、電気事業法に基づき、国の指定検査機関の発電設備技術検査協会が実施する溶接検査の際に原子力発電所の施工企業が提出することになっている。だが、温度記録の虚偽報告については、電気事業法での罰則はない。溶接検査では、最高使用圧力を上回る圧力で耐圧試験をし、強度を確認している。
 資源エネルギー庁では、過去に熱処理を施した溶接部に関するトラブルがないため、すぐにも支障が生まれることはないとしている。しかし、真正な温度記録が提出されていなかった事実を重視。日立製作所、日立エンジニアリングサービス、伸光、発電設備技術検査協会の四カ所に十七日、立ち入り検査し、事実関係の把握に努める。また、現在定期検査に入っている島根原発1号機には溶接部の調査に入る。
 温度記録の虚偽報告について、伸光の鈴木光社長は「蛍光灯のインバーターなどで、温度を測定する機器のチャートが乱れることがある。汚いチャートでは日立側、通産省の検査で通らないと思ったので、いけないとは思いながら。違うきれいなのを提出した」と話している。

 溶接部は安全上大切
 技術評論家の桜井淳さん(システム安全論)の話

 溶接部が多いことは原発の特徴の一つだ。焼純する部分も膨大になるため、温度データを集めるのが大変なのは分かる。しかし、溶接部は原発の安全を守る大切な部分であり、虚偽報告は許されない。「過去にトラブルを起こしていない」ということは、何ら安全性を担保しない。これから原発の老朽化が進み、溶接部の信頼性が問題になった場合、正碓な基礎データがないと困るはずだ。
 動力炉・核燃料開発事業え団(動燃)の一連の不祥事など、原子力開発にかかわる組織のゆがみが露呈している。関係者は、自分が担当した部分が本当に安全なのかを、真摯(しんし)に考えてもらいたい。
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