[2016_06_07_02]新規制基準で安全は確保できない  「適合」できるように作られた新規制基準 木原壯林(若狭の原発を考える会)(たんぽぽ舎メルマガ2016年6月7日)
 
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新規制基準で安全は確保できない  「適合」できるように作られた新規制基準 木原壯林(若狭の原発を考える会)

  熊本大地震発生後の4月18日、原子力規制委員会は、九州電力川内原発1、2号機について「今の段階で安全上問題はない」(田中俊一委員長)とした。19日には、四国電力伊方原発3号機の審査を終了し、四国電力は7月下旬にも再稼働しようとしている。また2月24日には運転開始から40年を超える関西電力高浜原発1、2号機の新規制基準適合を了承した。このように再稼働をつぎつぎと認めている規制委審査の問題点について、「若狭の原発を考える会」の木原壯林さんから詳しく話を聞いた。

 新規制基準の「目玉」といわれているのは、1.「過酷事故も起きうる」ことを前提にした安全対策の導入、2.フィルター付ベント(排気)装置の設置、3.移動式電源車や全電源喪失時に原子炉を冷却する注水車の装備などだ。じつはこれらは国際原子力機関(IAEA)が各国に対策を求めていたものばかりだ。
 ところが、日本の規制当局は「過酷事故は起こらない」という「安全神話」のもとに対策を怠ってきた。当然やるべきことを福島原発事故が起こるまでやっていなかったことこそ大問題だ。

 「適合」できるように作られた新規制基準

 新規制基準の問題点として以下の9点をあげたい。

(1)福島原発事故の原因を深く追及していない

 福島原発事故の事故炉内部は高放射線のため、その詳細はわからない。真の事故原因は不明のままだ。事故の原因は無数に考えられ、およそ現代の科学では制御できない。今まで「原発は完全に安全」と言ってきた同じ人物たちが根拠もなく「今度こそ安全」と言っているだけだ。

(2)実現が困難なことは要求しない

 まずあげられるのは、立地審査指針を廃止したことである。
 立地審査指針とは、1.重大な事故の発生を仮定しても、周辺の公衆に放射線障害を与えないこと、2.重大事故を超えるような、技術的見地からは起こるとは考えられない事故の発生を仮想しても、周辺に著しい放射線障害を与えないこと、というものだ。
 福島原発事故の結果を指針に反映させると、非居住区域を大きく拡大しなければならなくなる。しかし住民の立ち退きは現実的ではない。すると原発の廃止しかなくなるのだが、立地審査指針のほうを廃止して、原発を存続させる道を選んだ。
 また炉心溶融で溶け落ちた核燃料を受け止めるコアキャッチャーや、航空機落下に備えた二重ドームなど、海外の新型原子炉では標準装備されている設備についても設置不要としている。理由は、設置には多額の費用と時間を要するからだ。
 原子炉施設の周辺施設・機器の耐震基準も改定していない。福島第一原発事故では、水位計の機能喪失がメルトダウンの判断を困難にしたが、そのことがまったく教訓化されていない。さらに加圧水型原子炉(PWR)では、重要事故対策設備やフィルター付ベント装置の設置を5年間猶予するなど、規制基準を満たしていない施設でも「適合」となる。

(3)都合のよいデータを採用しても適合

 例えば、炉心溶融時の水素の爆轟(注)防止という必須事項でも次のようなことがおこなわれている。
 高浜3・4号機の審査書は、炉心溶融やコンクリート相互作用による水素発生量の不確かさの度合いを、同規模の川内1・2号機の審査書に比べて大幅に小さくしている。高浜原発の審査書では、炉心溶融やコンクリート相互作用による水素発生量の不確かさの影響を考慮したケースで格納容器内の水素濃度の最大値を約12.3%と計算しており、水素爆轟防止の判断基準の13%以下を満たしたことになっている。ところが川内原発の審査書と同じ評価をすれば、水素濃度の最大値は約14.8%となり、明らかに基準を超えている。 (中)に続く
   (注)爆轟(ばくごう) 気体の急速な熱膨張の速度が音速を超え衝撃波を伴いながら燃焼する現象。

(4)非科学的な事故対策でも容認

 格納容器が破損して空気中に放射性物質が飛散したときの対策として放水設備を用意するという。しかし放水で放射性物質の拡散を防げるのはほんの一部でしかない。放水した水は放射性物質とともに海に流れ込んでいく。汚染水流出にたいしては、吸着剤やシルト(沈泥)フェンスを用意するというが、これらでは効果がないことは福島第一原発事故で明らかになっている。まさに「子どもだまし」の対策と言わざるをえない。

(5)規制委の審査はずさんかつ手抜き

 規制委は、原子炉施設やその立地条件にかんして、事業者による評価をそのまま受け入れている。規制委によるチェックや独自調査はほとんどない。重大事故のシナリオも事業者が策定する。そこでは地震による配管破断はほとんど考慮されておらず、したがってその対策も講じられていない。
 地震対策についていえば、原発立地表層の活断層の有無が再稼働の大きな判断基準とされているが、大地震のほとんどは地中数十キロを震源としている。これらは「未知の深層活断層」と呼ばれており、その探査は不可能である。
 川内原発の審査書では、火山噴火をモニタリングで予知し、原子炉から核燃料を引き抜いて安全な状態を確保できるという申請書を認めている。核燃料の引き抜きをおこなえるだけの時間的余裕をもって地震や噴火の予知をおこなうのは不可能であると、専門家が指摘しているにもかかわらずである。
 また規制委員会は電力会社にたいしてストレステスト(耐性評価テスト)を義務付けている。これはコンピューター解析によるものだが、想定外の原因が多い原発事故を、人間が作成する計算プログラムよって解析するのは限界がある。
 コンピュータ解析は、前提条件とデータの質に強く依存する。現代科学は原発事故にかんして、実証された完全な条件やデータを持ち合わせていない。したがって、原発を稼働したいという解析者=電力会社の意図が結果に大きく反映されるのである。

(6)設置方針の審査をおこなうだけで、それが実行されるかどうかの検証はなし

 適合審査に実効性を持たせるためには、設置変更許可だけでは不十分である。詳細設計の内容を含めた具体的かつ詳細な工事計画の認可および設備を安全に運転・保守するための保安規定の認可が一体でおこなわれなければならない。

(7)新基準は、人間の能力の限界を現実的に検討していない
 原発事故は秒単位で進行し、瞬時に重大事態になる。事故の現状を把握しながら、その対処法を考える時間的余裕はない。
 新基準でも、「冷却剤喪失事故+全交流電源喪失(ECCS注入失敗+格納容器スプレイ注水失敗)」というもっとも過酷なケースでは、原子炉圧力容器破損までの時間的余裕は1.5時間しかないとしている。
 格納容器破損を防止するためには、この短い時間内で、代替非常用発電機の起動、炉心溶融の確認、代替格納容器スプレイの操作などを人間の手によっておこなわなければならない。福島原発事故、スリーマイル島事故、チェルノブイリ事故では、事態の認識に長時間を要している。不規則事態における人間能力や人為的ミスなどの要素を現実的にきびしく検討すべきだ。

(8)防災計画と住民避難計画は審査の対象外
 規制委は防災・避難計画を周辺自治体に丸投げしている。自治体は、よそで作られた既存のパターンにそって計画を作成しているため、当該自治体の地理的・人的特殊性がほとんど考慮されていない。とくに避難弱者対策の視点が欠けている。まるで「数日のピクニック」にでも出かけるような計画になっている。
 過酷事故では住民が永久に故郷を失うという危機感がない。また避難地域は100キロ圏を超える広域におよぶという認識がない。

(9)パブリックコメントの取り方に問題
 パブコメの募集期間はわずか1カ月間。しかも「科学的・技術的」部分に限って募集している。専門家でも原子力のような広範な知識を要する分野にかんするコメントを1カ月で出すのは不可能である。そのことを見越して、非科学的な審査書をつくってパブコメを求めている。これは悪質なアリバイ作りだ。
 原発再稼働は住民の生命・財産にかかわる問題である。再稼働の是非、防災・避難計画もふくめて議論すべきであるが、それにかんする意見は受け付けていない。
それでも川内原発では1万7800通、高浜原発で3600通の意見が寄せられたが、これをわずか20数日で分類・整理し、枝葉末節だけを取り入れて、基本的な部分は無視した。

 以上述べてきたことから明らかなとおり、原子力規制委員会の審査とは、電力会社にたいして、コスト的にも時間的にも可能な範囲で原発の施設と体制を変える計画(発電用原子炉設置変更許可申請書)を出させて、それを短期間で審査して許可を与えるものだ。
 まさしく国民をだまして原発を再稼働させるための「審査」である。 (終了)
       「未来」第199号(2016.5.19)より転載

 「未来」第199号(2016.5.19)より転載

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