[2017_12_21_04]柏崎刈羽原発の規制基準適合性審査について 本当は論じられなければならない問題の欠如 東電は巨額の費用を国民につけ回し6800億円も柏崎刈羽原発につぎ込んでいる 山崎久隆(たんぽぽ舎)(たんぽぽ舎2017年12月21日)
 
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柏崎刈羽原発の規制基準適合性審査について 本当は論じられなければならない問題の欠如 東電は巨額の費用を国民につけ回し6800億円も柏崎刈羽原発につぎ込んでいる 山崎久隆(たんぽぽ舎)

1.経理的基礎の欠如、 2.技術的能力の欠如、
3.耐震重要度分類の問題点
4.外部火災に対する設計方針とテロ対策の矛盾、
5.津波による損傷の防止は成立していない

 柏崎刈羽原発の規制基準適合性審査において、重要な要素のいくつかが全くといっていいほど論じられていない。
 これは審査以前の問題であり、再稼働どころか、電力会社として存在しつづけることに疑問が湧く問題がいくつもある。
 今回はそのうちの重要なものを取り上げる。

1.経理的基礎の欠如

 原子炉等規制法第43条の6に規定する原発の設置許可には、原発を建設する事業者の経理的基礎と技術的能力の存在が求められる。
 このうち経理的基礎については、原発の保守管理や緊急時対策などに多額の費用が掛かることから、「お金がなくて出来ませんでした」などと言われても困るわけで、重要な要素の一つである。
 実際に、東電は福島第一、第二原発の津波対策について、少なくても2008年には敷地が冠水する規模のものがあり得ることを認識し、その対策について10m盤上に10mの防潮堤を作る工事計画も策定していた。
 しかし、2002年から続く東電不祥事で原発全基停止などを経て巨額の赤字を計上してきたことなどで資金繰りに難があり、計画を先送りしているうち、2011年3月11日を迎えてしまった。
 経理的基礎が欠落していた東電が引き起こした原発震災だからこそ、厳しく審査すべきではないのか、原子力規制委員会の姿勢が問われている。
 一方、東海第二原発の規制基準適合性審査では日本原子力発電について「ほとんどの電力会社は経理的基礎がしっかりしているが、原電はほかの事業者と大きく異なる」(更田委員長)として審査が事実上止まっている。
 地震や津波に加え過酷事故対策等、災害対策に約1700億円かかる見通しだが、この費用を支出できる裏付けがないというのだ。そのため原電の株主であり、電力を買い取る契約を結んでいる東電や関電などの電力会社から債務保証を受けることが、合格の条件であるとした。
 原電に経理的基礎がないことは、そのとおりだ。では東電はどうなのか。
 柏崎刈羽原発の規制基準適合性審査の審査書(事実上の合格書)では一切触れなかった経理的基盤。
 損害賠償や廃炉に22兆円もの費用が掛かり、原子力損害の賠償に関する法律にも民法上の法理にも反して、他電力や新電力から資金を供出させる仕組みを強引に導入し、さらに税金を投入してまで東電の責任を軽減させた上で「経理的基礎」があるとしている。
 言い換えるならば、将来にわたる賠償費用や廃炉費用についても国と他の企業からの資金投入で賄い、東電の利益は温存すると言うことだ。
 そこまで手厚くする理由は唯一、被災者のため、賠償が出来なくなったら大変なことになるとして作られた制度だった。
 ところが換骨奪胎、見る間に被災者支援は弱者から打ち切られ、特に避難指示区域外から避難した人々に対しては、元々東電は賠償をしていなかった上に、一部では地方団体が訴訟を起こしてまで費用負担要求または追い出しを始めている。
 本来東電が負担すべき避難に要する費用を自治体が負担させられてきた結果がこれである。
 東電は巨額の費用を国民につけ回し、自らは6800億円もの費用を柏崎刈羽原発につぎ込んでいる。この資金があればどれほど被災者への補償が進むことか。

2.発電用原子炉の設置及び運転のための技術的能力

 「技術的能力」についても大きな問題がある。
 東京電力は他電力と異なり福島第一原発事故を引き起こした会社である。
 事故の原因究明と再発防止については他の電力会社とは異なる要求がされるべきだ。それは、事故の原因究明において、東電の技術的能力、特に福島第一原発の設備を運営する能力並びに過酷事故対策で準備された各種対応が正常に出来たかどうかが明確に調査されなければならない。
 事故については、政府の事故調査と国会の事故調査が行われたが、いずれにおいても明確に事故原因と収束作業活動の妥当性は判断されていない。せっかく収集した700人以上もの証言をほとんど活用しなかった政府事故調査委員会と東電の非協力的な態度により調査妨害を受けた国会事故調査委員会の報告書については、事故の原因究明はなされていない。結局、過酷事故対策の「技術的な能力」は、現在も大きな問題が残されているのである。
 また、経験について「技術的能力指針は、設計及び工事並びに運転及び保守に必要な経験として、本申請と同等又は類似の施設の経験を有していること又は経験を蓄積する方針を示すことを要求している。」としている。
 これも福島第一原発事故を引き起こした問題点が解明されていない以上、経験を有しているとは言えない。
 従って、技術的能力があるとする判断は誤りであるから、許可をすべきではないのだ。
 なお、更田委員長は東電について、福島第一原発事故の経験があるから他電力よりも経験値が高いという趣旨の発言をしている。

 しかし、現場を経験した電力社員や下請け従業員はどんどん退職ないし異動している。経験を蓄積しようという仕組みは見られない。当然ながら、将来的には全員いなくなる人の経験の多寡は経験値の評価対象にはならない。
 東京電力が原発事故を自己の経験として蓄積しようとするならば、事故の原因究明にもっと早くから熱心に取り組んでいるであろう。現実にはそのような姿勢は見られないのだ。  (下に続く)

3.耐震重要度分類の問題点

 耐震重要度分類について新規制基準では「耐震重要度に応じて、Sクラス、Bクラス、Cクラスに設計基準対象施設を分類すること(以下「耐震重要度分類」という。)を要求している。」としている。
 これについては、例えば圧力バウンダリについては全て耐震クラスSである。
 しかし、圧力バウンダリに冷却材を注入する系統が全てSクラスにはなっていない。これは安全上重大な問題である。
 この「耐震重要度分類の矛盾」については吉田昌郎元福島第一原発所長も次のように述べている。「シビアアクシデント上は、MUW(注:Make Up Water
System 補給水系)だとか、FP(消防用水ポンプ)を最終注水手段として、何でもいいから炉に注水するようにしましょうという概念はいいんですけれども、設計している側に、本当にそれを最終的に注水ラインとして使うんだという意思があるんだとすると、耐震クラスをAクラスにするでしょう。それ以外のラインが全部耐震クラスAだし、電源も二重化しているようなラインが全部つぶれて、一番弱いFPと、MUWは今回なかったわけですけれども、そういうものを最後に当てにしないといけない事象というのは一体何か、私にはよくわからないです。」
 この中で耐震クラスAとしているところが、現状のSクラスであるが、状況は全く同じである。
 実際に消防用水ポンプから注水された水はほとんど原子炉には入っていない。解析では1%未満とされている。
 これでは福島第一原発事故の教訓を全く生かしていないことになる。
 最終的に冷却材を圧力容器や格納容器に注入するラインについては、無条件で全てSクラスの設計とすべきであり、それが成されていないならば使用すべきではない。
 同様に新設ないし増強した注入ラインについては、全て実機で注入できることを、実際の運転圧力及び過酷事故時想定圧力に炉圧を上げて試験を行う必要がある。実証もないものに最後に当てにすることなど出来ない。
 過去の過酷事故対策は全て、その設備を設置した後に目的に沿って稼働するかどうか、成立性試験を経ていない。そのためラプチャーデスクから格納容器ベントラインが作動したか、未だに分からないという信じがたい問題が生じているのである。

4.外部火災に対する設計方針とテロ対策の矛盾

 「発電所敷地内における航空機落下等による火災」という項目と「大規模な自然災害又は故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムへの対応」との間に整合性がない。
 航空機ないし大型航空機の衝突または故意の攻撃について細かく記述しているが、前段の航空機の衝突と後段の「故意による大型航空機の衝突」については、同じ航空機の衝突なのに理解できない「使い分け」がなされている。端的に言えば、故意に航空機を突入させることや武力攻撃に耐えられるのであれば、偶発的な航空機事故にも当然耐えられるのだが。
 攻撃を前提とした航空機の衝突の場合、確率は何の意味も持たず、かつ、複数機の攻撃による損傷を考慮するならば、原発の複数面に緊急時対応用注水システムを設置していても過酷事故対策として十分とは言えないことになる。
 これらを包摂して、テロ対策あるいは武力攻撃による大規模損壊を想定して、それに対処することが出来るかどうか「大規模損壊が発生した場合における体制の整備に関して必要な手順書、体制及び資機材等が適切に整備」されているかどうかについて判断すべきだ。
 弾道ミサイル攻撃や爆撃などの攻撃を受けてさえなお、大規模損壊や大量の放射性物質の放出を招かないとの確証があるのか、問われているのはそれである。

5.津波による損傷の防止は成立していない

 「液状化評価方針の審査の過程において、申請者は、古安田層等の液状化に伴い荒浜側(1〜4号機側)防潮堤が損傷し、津波が荒浜側防潮堤内敷地に流入する可能性があるため、当初荒浜側防潮堤内敷地の3号炉原子炉建屋に設置するとしていた緊急時対策所を大湊側敷地の5号炉原子炉建屋に変更するとともに、アクセスルートを変更することを示した。」としているが、これの影響は単に荒浜側防潮堤の倒壊とそれに伴う浸水だけに留まらない。
 このような浸水が発生すれば、荒浜側4基の原発において過酷事故発生の可能性が生じるのであるから現段階から大湊側(5〜7号機側)の原発の運転を認めることは許されない。
 一方、大湊側の防潮堤が荒浜側防潮堤の倒壊時点でも健全性を有するとの立場に立つことは到底安全側とは言えない。
 日本にある原発で、地震に伴い地盤が液状化するような所に存在するものはない。そもそも立地不適当である。
 従って、地盤の安定性が確保できないところで原発を稼働させてはならないのである。本質的に欠陥源発であることを認めて、運転認可を取り消すべきである。
 その他にも審査書案には多数の問題点がある。これらについては、これからも明らかにしていきたい。(了)
   (初出:月刊「たんぽぽニュース」2017.11月号)

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