[2020_07_20_01]ナゴルノ・カラバフ自治州の帰属を巡る紛争続く アゼルバイジャンとアルメニア(注)で武力衝突 原発攻撃をも示唆 タブーを破る原子力施設攻撃が通常の武力行使の手段と化しつつあることは極めて危険 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ舎2020年7月20日)
 
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ナゴルノ・カラバフ自治州の帰属を巡る紛争続く アゼルバイジャンとアルメニア(注)で武力衝突 原発攻撃をも示唆 タブーを破る原子力施設攻撃が通常の武力行使の手段と化しつつあることは極めて危険 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

◎背景にあるナゴルノ・カラバフ帰属問題
 (アゼルバイジャン:カスピ海の西側 コーカサス山脈の南に位置するコーカサス3か国の1つ コーカサス3か国:ジョージア(旧グルジア)・アルメニア・アゼルバイジャン。)

 アゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフ自治州をアルメニア人勢力が実効支配しているのに対して、独立を巡り繰り返し武力衝突が続いている。
 アゼルバイジャンは自国内の自治領の独立やアルメニアへの帰属には断固拒否の姿勢を続け、国内問題であるとの立場を取る。
 一方アルメニア側は人口の8割を占めるアルメニア人が、駐留するアゼルバイジャン軍などから非人道的扱いを受けており、民族自決とアルメニアへの帰属又は独立を求めるとしている。
 今年2月にアゼルバイジャンのアリエフ大統領とアルメニアのパシニャン首相がウィーンでナゴルノカラバフ紛争について議論したが、両首脳の主張はかみ合うことはなく解決の糸口は見えず、平行線に終わったと報じられている。(日経新聞2月17日)

◎アルメニアの原発と地震
 (アルメニア:アゼルバイジャンの西側、トルコの東側)

 首都エレバンから西に約30キロ離れたところに、メツァモール原発がある。ここにはソ連が開発した軽水炉(VVER−440)が2基あったが、現在は1基のみ運転している。出力40.8万キロワットで1977年に1号機、1980年に2号機が運転を開始していた。
 アルメニアも日本同様地震国で、この原発はVVER−440の耐震型、V−270型である。
 ソ連時代に4基体制となる予定で建設が始まったが、1986年のチェルノブイリ原発事故と1988年のアルメニア地震により3,4号機の計画は放棄され、2基体制で稼働していた。
 1988年12月7日に発生したアルメニア北部スピタクを震源とする地震では、25000人の犠牲者を出す大惨事となった。
 地震の規模はMSK震度階(ロシア等で採用されている震度階級の呼称*)で10を超えた。(アトミカより)
 この原発は震度階6以上の地震で緊急防護装置(スクラムに相当)が作動して自動的に停止する設計となっており、震度8までの地震には耐久できるように建設されていた。
 なお、ソ連政府は、震度9以上の地震が想定される場所での原子力発電所の建設を禁じていた。
 この地震の際、震源地から75キロメートルのメツァモール原発では、5.5の揺れを観測したが、上述のように、震度6以上で自動停止するように設計されていたため、地震が起きても原発は正常に運転していた。
 つまり、地震による被害はなかったと思われる。
 しかし、じつはその地震の際に、メツァモール原発からスタッフが逃げてしまい、原子炉加熱の危機も生じていたのである。
(シノドス2011.05.03 Tue世界でもっとも危険な原発、アルメニア原発 廣瀬陽子/旧ソ連地域研究より)

◎EUから廃止要求を突きつけられる

 EUはチェルノブイリ原発事故の際に原子力災害の危険性について検討しているが、特にソ連製旧型炉、RBMKとVVER440について欧州の安全基準に適合していないとして廃炉を求めた。
 アルメニアは1988年に一端原発を停止、廃炉になる予定だった。しかし電力不足が生じて国の経済にも大きな影響が出た。
 1989年にソ連崩壊、1991年に独立したアルメニアでは、原発の再稼働を求める動きが強まり、2基のうち1号機は廃炉になったが、1基でもアルメニアの電力の4割近くを賄うこともあり、電力不足解消のため2号機が耐震補強の後に1995年に再稼働した。
 EUは危険な原発を差し止めようと、何度もアルメニアに働きかけ、何度か廃炉時期について合意しながらも延期を続け、現在は2026年までの稼働を予定している。

◎原発攻撃で脅し

 「12日から断続的に軍事衝突が続き、両国から少なくとも16人が死亡する事態となっている。衝突の原因は不明だが、両国とも相手側の攻撃によって始まったと主張。非難の応酬が続く中、アゼルバイジャン側がアルメニアの原子力発電所を攻撃する可能性まで示唆しており、関係国が自制を求めている。」(毎日新聞7月20日)
 原因がはっきりしないまま続く武力衝突と、これに対して双方が原発やダムへの攻撃(いずれも明白な国際法違反)を示唆するなど、関係悪化は急激に進んでいる。
 背景には米国とロシアの対立、さらには地域大国のトルコやイランの介在があるのだが、核施設への武力行使は、また別の様相も呈しはじめている。
 近年、武力やサイバーを使う核施設攻撃は、たがが外れたように多発している。その起点は湾岸戦争だが、タブーを破る原子力施設攻撃が、通常の武力行使の手段と化しつつあることは極めて危険だ。
 今進行中のイラン核施設の「不審火」など、武力行使を窺わせる事例もある。
 原子力施設が、各国に埋め込まれた核地雷の様相を呈しはじめているとしたら、その矛先が日本にも向けられている危険性をも考えなければならない。

(注):[事故情報編集部]より豆知識
・アゼルバイジャン(カスピ海の西側)
 コーカサス山脈の南に位置するコーカサス3か国の1つ コーカサス3か国:ジョージア(旧グルジア)・アルメニア・アゼルバイジャン。
 アゼルバイジャンの人口:1,000万人(2019年:国連人口基金)
・アルメニア(アゼルバイジャンの西側、トルコの東側) アルメニアの人口:290万人(2019年:国連人口基金)
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