[2013_09_29_01]社説 原子力規制委1年 信頼回復 独立貫いてこそ(東奥日報2013年9月29日)
 
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 東京電力福島第1原発事故の反省を踏まえ、原子力の安全を受け持つ原子力規制委員会が昨年9月19日に発足して1年が過ぎた。
 規制委は独立性が保証され、強い権限も持つ。環境省外局の原子力規制庁が事務局で、原子力安全・保安院など事故を防げなかった以前の規制機関を一元化した。科学的な議論に基づく中立性、透明性を掲げ、地に落ちた規制行政への国民の信頼回復を担っている。
 この1年間、原発の規制を厳格化した新基準を策定、断層調査では厳しい姿勢で臨むなど存在感を示し、電力会社とのなれ合いが指摘された旧規制当局との違いを印象付けた。
 規制委の使命は政治からの独立を貫いてこそ達成できる。原発再稼働へ向けた新基準による安全審査が始まっており、これからが正念場だ。再稼働を急ぐ経済界や電力業界、さらに政治的な圧力が高まる中、安全優先の姿勢を徹底できるか、組織の真価が問われる。
 原発の新規制基準は地震・津波対策を大幅に強化したほか、従来は事業者の自対応に任せていた過酷事故対策を義務化した。また今後に得た知見に基づく対策も既存の原発に適用するなど厳格化は評価できる。六ヶ所再処理工場など核燃料サイクル関連の新基準も同様に厳格化される。
 新基準の成果は、その運用にかかる。田中俊一委員長が言うように、規制委が責任を持つのは原子力施設の安全性であり、再稼働の是非は政府が判断することだ。規制委は再稼働にとらわれることなく、厳正な審査に徹してほしい。
 原発の安全性を揺るがす活断層の有無を判断する調査も進んでいる。対象は6原発で、東北電力東通原発でも断層の活動性が認められるとして調査を続行中だ。日本原子力発電敦賀原発(福井県)では2号機直下の活断層存在を認定。廃炉につながるだけに同社は徹底抗戦を続けている。
 規制委の厳しい姿勢は当然だ。ただ経過や結論について説明や対話の姿勢が欠ける面もある。食い違いがあれば対話を尽くし、安全に対する電力業界の意識の転換を促すのも規制委の仕事だろう。関心の高い地元へも説明してほしい。
 断層調査で問題なのは情報収集を事業者に頼っていることだ。現状では人手や能力に限界があろう。客観性を保つ上で独自の調査体制構築が求められる。
 一方で福島原発の放射性汚染水問題では規制委の関わりが弱かった。東電の管理体制を厳しくチェック、意思疎通を確実にしていればタンクからの漏れなどを防げた可能性はある。今後は汚染水にも厳しい目配りや指導が求められる。
 原子力施設の安全性確保、第1原発の廃炉までの監視、原発立地地域の防災計画づくりなど規制委の仕事は山積している。
 国民の信頼に応える役割を果たすには人員確保や能力向上など体制強化が欠かせない。政府は規制庁への原子力安全基盤機構統合を急ぎ、予算措置を含めて規制委を支える責務がある。
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