[2016_08_27_01]凍らぬ「凍土壁」責任は? 福島原発 国費350億円 識者は「破綻」 地下水に効果見られず・・・度重なる追加工事 「政府は東電を矢面に」(東京新聞2016年8月27日)
 
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 福島第一原発の凍土遮水壁(凍土壁)について、東京電力は七月の原子力規制委員会の検討会で、完全な凍結が困難との見解を示した。当初から成否が疑問視されていたが、地下水を遮る効果が見られず、専門家からは「破綻」との指摘がある。凍土壁にはこれまで約三百五十億円が費やされ、国費負担。原資は税金だ。責任の所在が問われている。(木村留美)
 「(凍土壁の)遮水能力が高いという主張はほとんど破綻してる」 18日に開かれた原子力規制委の検討会で、メンバーの有識者から批判の声が上がった。汚染水対策として福島第一原発の1〜4号機を囲むように地中を凍らせる凍土壁。事故で損傷した建屋に流れ込む地下水などが汚染水を増やし、貯蔵用タンクも増え続ける一方だったため、政府は2013年9月、地下水流入を防ぐために設置を決めた。
 3月末から凍結が始まったが、いまも1%が凍らない。1%といっても総延長1.5キロ、高さ25〜30メートルの凍土壁ゆえ、巨大な抜き穴になる。地F水は山測から流入し、海側に抜けるが、海側(建屋東側)付近でくみ上げている1日あたりの水量は7月も約350トン。これは事業開始当時とほぼ変わっていない。
 東電側はなお凍結していない主要な3カ所について追加工事を施すことで「しっかり閉められれば、流入量は下がる。破綻していない」と反論している。
 だが、東電は先月19日の同会合で、こんな発言もしている。「100%凍らせる、100%水が通らないような状況をつくることを考えているわけではない」。では、どんな状況を想定しているかというと、くみ上げ水量の目標値で1日70トン。現状はそれにも遠く及ばない。
 世界でも例のない大規模工事となった凍土壁は大手ゼネコン鹿島が提案し、東電とともに施工した。計画当初から、全てが凍って壁になるのかなど、実現が疑問視されながらも、汚染水対策の切り札として14年に着工した。東電側は当時「技術的な問題は何もない」と断言していた。
 事業費は当初320億円と見積もられていたが、度重なる追加工事で今年3月までに345億円まで膨張。4月以降も追加工事は発生し、完成までの総額は見通せない。ゼネコン側に流れるばかりだ。
 政府による東電支援は、現時点で原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じた無利子での貸与総額が約7兆6千億円。これに含まれない、国が実質的に負担する除染費もある。それらに加えて、凍土壁の費用も国が直接、負担している。
 貸与の返却の原資は電気料金で、国の負担分は税金と、ツケは国民に回る。
 天井が見えない事故の収束費用だが、凍土壁の失敗は誰が責任を負うのか。
 原子力規制委の田中俊一委員長は、24日の定例記者会見で「国費が出て経済産業省の所掌だが、東電が責任を持つのが基本だ。汚染水問題について、自ら判断する姿勢が欠けている」と発言している。
 しかし、慶応大の金子勝教授(財政学)は「東電は事実上国有化されており、政府に逆らえない立場。凍土壁の決定も含め、政府は東電を矢面に立たせ、あらゆる責任を押しつけている面がある」と指摘する。
 「国費を投入している以上、直接の責任は経産省。安倍政権の下、最初から難しいと分かっていた凍土壁の建設を、誰がどうやって決定したのか。責任の所在を明らかにするベきだ」
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