[2017_04_05_01]「事故の被災者への賠償と生活補償を中心」におくべき 依然として「絵に描いた餅」とても実現出来ない再建計画 東京電力「新新総特2017」を批判する 山崎久隆(たんぽぽ舎)(たんぽぽ舎メルマガ2017年4月5日)
 
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「事故の被災者への賠償と生活補償を中心」におくべき 依然として「絵に描いた餅」とても実現出来ない再建計画 東京電力「新新総特2017」を批判する 山崎久隆(たんぽぽ舎)

 東京電力(以下、東電)と原子力損害賠償・廃炉等支援機構(以下、機構)は3月22日に「新々総合特別事業計画」(以下、「新新総特」)の骨子を発表した。

 東電による経営改革と、それにより捻出される「利益」を福島復興や廃炉費用などに充てることを意図したものとされるが、実態は国の原子力推進政策に東電の資金を投じさせることと東電の経営破たんを回避することを目的としたものである。
 破たん処理をしないとしても、最低限「事故の被災者への賠償と生活補償を中心」におき、「脱原発経営の方針」を掲げるべきところ、依然として「絵に描いた餅」の、とても実現出来ない再建計画である。

1.柏崎刈羽原発の再稼働頼み
 これまでに柏崎刈羽原発再稼働に投じた6800億円を回収するだけでも7年かかる
 年間1000億円の利益はどのような精査をしているのか分からない計算根拠を示すべき

 全体を通して、大きな「期待感」をもって描かれているのは「柏崎刈羽原発の再稼働」と原子力への再進出だ。
 福島第一原発事故前は東電の原発は1730.8万キロワットで、おおむね全国の原発設備の3分の1を有していた。もちろん日本最大、世界でも単独の電力会社としては最大の原発保有だった。
 現在は、再稼働申請をしている原発は柏崎刈羽原発6、7号機の2基だけ。271.2万キロワットである。この2基を動かせば年間1000億円(1基500億円の2基分)の利益があるとするが、これまでに柏崎刈羽原発再稼働に投じた6800億円を回収するだけでも7年かかる計算だから、寄与できるには、計画通りに運転したとしても8年後だ。

 「新新総特」は一体何時までの経営再建計画なのか。
 当然、年間5000億円かかる(掛ける?)とする廃炉費用には8年後にならないと充当できない計算だ。
 利益を生む前提についても大きな疑問がある。年間1000億円の利益は、売り上げ電力料金から必要経費を除いたものだから、電力単価が下がる(売電価格が下がる)か、あるいは必要経費が膨らめば相対的に利益が減少する。ところが年間1000億円についてはどのような精査をしているのか分からない。計算根拠を示すべきだ。
 新総特からの大きな変化として電力小売り自由化が進む中で、経営に大きな影響が出ていることを環境変化として問題視しているのだから、原発が生むとされる利益も大きな影響を受けるはずだ。

2.安全の死角
 「再稼働3年後までにメンテナンス費用の3割削減」

 原発が従来の独占体制下のように、総括原価方式で利益を計算してきた時代とは異なり、利益が計算できない点については問題として認識をしていることが読み取れる。それへの対応が「再稼働3年後までにメンテナンス費用の3割削減」だ。しかしこれは大変大きな危険を抱えることになる。
 新造する原発ならば設計段階からメンテナンスをしやすいよう工夫をこらして、時間や経費を圧縮することは出来るかも知れないが、完成した原発でそれをすることは極めて困難で危険でもある。

 メンテナンス費用の削減をする場合、最初にメスを入れられるのは人件費だと思われる。
 しかし、被曝労働である原発の作業は「人海戦術」をするしかない場面がある。簡単に人減らしなど出来るはずはないし、強行したら労働者の危険度は急激に上がる。
 資機材の調達費用を削減する場合、往々にしてあるのは「安かろう悪かろう」製品を使うこと。ロケット開発で、仕様を細かく決めた特注品では高く付くので一般汎用品を使い失敗した例がある。原子力や軍需品に特注品を使うのは意味のあることで、簡単に汎用製品に取り替えがきくわけではない。
 費用を圧縮したいのならば、まず柏崎刈羽原発に投じてきた6800億円を精査すべきだろう。例えば免震重要棟が緊急時に使えないため、緊対所設置場所を最初は3号機に、さらにそれも使えないため5号機にと、二転三転させてきた費用など、無駄以外の何物でもない。
 最初に免震重要棟を正しく基準地震動の揺れに耐えられる設備に改築していれば良かっただけだ。
 防潮堤の液状化対策の失敗といい、東電は場当たり対応で、無駄なコストの連続だ。まずこの無駄を無くすことが先決で、次の段階のコストダウンを取り組める状況ではない。

 原子力全体についてはこのような記述となっている。
 「原子力事業の投資・費用について、その構成内容を徹底的に精査し、真に安全性の向上に資するところに集中的に配分し、安全性の確保を前提として生産性の倍増を図る。」
 生産性の倍増は、既に述べた観点から無茶な方針だが、メンテナンスを行う事業を再編合理化することとセットだと思われる。日立の会長だった人物が新しく会長として就任することが報じられていることからも、メーカーの再編と一体となったものと思われる。東芝の破たん危機が一つのきっかけとなっている。
 この方針での問題点は、無駄なコストの最たるものが原発の維持管理費用であるとの認識の欠如だ。燃料冷却だけで1600億円もの費用がかかっている福島第二、動かせるはずもない柏崎刈羽原発の再稼働費用などをまず圧縮すべきは、「新新総特」でも指摘できる。

3.「世界最高水準の安全」とは何か
  2008年頃から東電内部で15.7m級津波の襲来を予見できる状態にありながら、対策を先送り

 さらに東電は原子力事業について「原子力事業の理念は『地元本位・安全最優先』。福島原子力事故を深く反省し、安全性を絶えず問い続ける企業文化、責任感を確立する」と記述する。
 しかし、言っていることとやっていることは真逆だ。
 事故直後に当時の勝俣会長は「異常な天災地変として原子力損害責任賠償法第三条ただし書きに規定する『免責』に当たる、との認識」を持っていた。
 結果的にそれを主張するまでもなくゴルフ場経営会社から起こされた賠償請求訴訟において「免責」条項適用を裁判所に却下されており、いまさらそんな主張は出来ない。

 実際には2008年頃から東電内部で15.7メートル級津波の襲来を予見できる状態にありながら、対策を先送りし続けたことに対し「深く反省」どころか開き直った主張を繰り返しており、株主代表訴訟でも、建設時点から福島第一原発事故が発生するまでのあいだ、それぞれの時点において津波対策を行ってきたと主張し続けている。
 これに対しては、別の訴訟ではあるが、事故被災者の損害賠償請求訴訟の前橋地方裁判所判決では「十分な対策が成されてきたとは認めがたい」とし、「東電は15.7mの津波の到来を遅くとも2002年には予見できた。2008年には実際に予見していた。東電が津波対策を講じていれば、原発事故は発生しなかった。国も津波到来を予見できる状況であったのに、事故を未然に防ぐための命令を東電に出さなかった。」と、国と東電の責任を認定している。

 反省がカタチばかりなのは、その後の補償打ち切りや区域外避難者への賠償拒否、原発ADRによる仲裁裁定さえ拒否する姿勢からも明らかだ。
 その上で「世界最高水準の安全」と言われても、何を言っているのか不明と言わなければならない。
 では、柏崎刈羽原発の対策はどうか。

4.免震重要棟問題の本質
 緊急時に使い物にならない免震重要棟をそのままにして再稼働申請をしたことだけで地元への背信行為

 免震棟に正規の耐震性がないことが明らかになった事件について、「新新総特」では以下のように記述している。
 「免震重要棟の耐震性に関し、原子力規制委員会及び地元への説明が至らず信頼を損ねたことを反省し、組織体質・ガバナンスの向上を図る観点から、その本質的な改善を進めるとともに事実を丁寧に説明していくことで、信頼の回復に努めていく。」

 緊急時に使い物にならない免震重要棟をそのままにして再稼働申請をしたことだけで地元への背信行為であり、規制逃れといった動機も見えてくる。
 規制庁の審査中に免震棟の性能アップを図り、結果として基準地震動に耐えうる免震装置に取り替えて規制基準をクリアすれば良いと考えたのであろう。
 しかし失敗したために「実は免震棟は使えない」と言い出すこともできず、途中から3号機、後に5号機の建屋に緊対所を設けることでごまかそうとした。
 説明の不自然さは「隠ぺい」と捉えると実にわかりやすい。「事実を丁寧に説明」するというのは、事実(情報)を隠さず明らかにする(公開)ことでしかない。「白抜き黒枠」文書を公開しているうちは、全く信用できない。

 また、「本質的改善」するには、基準地震動に基づき全ての構造物を(いわゆる耐震Bクラス設備も含め)耐震性のある構造にする必要がある。
 地震で破壊された外部電源の脆弱性について震災前から繰り返し市民が指摘したのに、これを受け入れてこなかった姿勢を改めることが先だ。

5.パワーグリッドから利益を生む?
 送電網から得られる利益は本来設備の更新など必要な部門に振り向けるべき利益が出るのならば託送料金の値下げに充てるのが本来

 分社化した東電の中で送配電設備を保有するのは東電パワーグリッドである。
 この会社は送配電システムを管理しているので、新電力など他電力の電気を送る際に徴収する「託送料金」が主たる収入だ。一見すると巨額の利益を上げているように見えて、実際は、その経営は火の車といって良い。

 実態が露呈したのは昨年10月12日に発生したケーブル火災事故だ。新座市の地下に埋設されていた275キロボルトの高圧送電線が火を噴き、鎮火までに4時間を要し広域に停電も発生した。この事故で驚くのは燃えたケーブルの使用年数だ。
 火災を起こしたのは「OFケーブル」と呼ばれる、絶縁に紙、冷却に油を使うタイプのもの。現在はほとんど製造されていない。
 電気設備使用の目安20年を大幅に超え、35年も使ってきた古いタイプで、原因は「劣化」。原発事故と同じ構造がここにもあった。
 使用年数を大幅に超えて使い続ける理由は「資金不足」。
 東電管内でも特に東京周辺は電線の地中化が進んでいる。総延長は1543キロにも及ぶ。そのうち1027キロが火災を起こしたタイプと同じものが敷設されており、これらの多くで35年以上の時間がたっている。
 東電によると、ケーブルの交換は巨額の費用が掛かる上、効率よく交換作業が出来ない敷設方法になっているところが随所にあるという。単に古くなったというだけでは短期間に大量交換作業が発生することや交換するための数千億円もの資金が足りないので、点検して危険と見なしたもの取り替えている。結果的にこれが裏目に出て、新座市でケーブル火災を引き起こし58万6千軒もの広域停電を引き起こした。
 送電網から得られる利益は、本来設備の更新など必要な部門に振り向けるべきだし、その上で利益が出るのならば託送料金の値下げに充てるのが本来の姿だ。廃炉費用や、まして「過去分の補償」の原資にすることは認められない。
 最後の規制部門である送配電システムは、2020年まで総括原価方式が認められている。その間に会社を売却して分離独立させることこそが電力システム改革にとって最も良い方法である。
 それが成されなければ「国内トップレベルの託送原価(2016年度比500億円以上削減)を実現」や「事業構造改革により2025年度までに世界水準の託送原価(2016年度比1500億円程度削減)を実現」(新新総特の送配電事業の項目)することは難しい。

6.電力再編と脱国有化
 唯一の方法は東京電力を売却すること

 東電は現在国有化された状態だ。株式の過半数を保有するのは国の機関である「機構」なので、経営方針は常に国の監理下にある。これをそのままにしていては他電力や会社との事業統合や再編は困難だ。(19億4千万株、54.69%)
 これまでに大規模な統合が行われたのは、火力発電用のガスを調達するために中部電力との合弁で立ち上げた「JERA」だけ。
 今後は保有する火力発電所をここに移管する計画だが、例えば原発の保守管理を共同で行うなどの新たな計画は進んでいない。
 日立や東芝などのメーカーはコストダウンのために統合を望んでいるが電力会社が二の足を踏んでいるという。背景には国の強い管理を嫌ったからだとされる。
 東電は「脱国有化」を掲げるが、株式の過半数を国が保有してきた理由は東電の救済と共に福島の復興資金、具体的には除染費用4兆円の調達を東電株の売却により行う計画だったからだ。
 しかし、現在の保有株式数から割り出すと株価が2800円を遙かに超えない限り、売却益から除染費用と汚染廃棄物の中間貯蔵費用合わせて5.6兆円を調達することは出来ない。
 市場で東電株の大規模な売却を行えば一般的に株価は暴落する。そのため売却そのものも現実的ではない。
 現在の株価の5倍にも達する「価値」を株の売却で生み出すことは不可能なので、唯一の方法は東電を売却することだ。特にパワーグリッドと火力設備は大きな資金源になり得るだろう。

7.廃炉は可能か
 福島第一原発の廃炉とは汚染水とデブリによる事故や環境汚染を防止しつつ、原発を撤去すること

 最も先行きが見えないのは「廃炉」である。
 福島第一原発の廃炉とは、単に原発を解体することではなく、汚染水とデブリによる事故や環境汚染を防止しつつ、原発を撤去することだ。はじめから使用済燃料を撤去している他の原発の廃炉とは次元の異なる問題を抱え、先行する事例も存在しない過酷な事業だ。
 費用の見積もりは東電により最初2兆円とされたが、既にそのうちの1兆円は汚染水対策などで使っている。
 試算結果が「有識者ヒアリング」と呼ばれる意見聴取会において「スリーマイル島原発事故では当時約1000億円かかった」から、それを50〜60倍した数値」とされる金額6兆円を、これまでに東電が見積もった費用2兆円に上乗せして8兆円になると示された。しかし真に受ける人はほとんどいない。
 まず、燃料の位置と量を把握するだけでも何年もかかるであろう。最終的にはわからないものも出るかもしれない。
 しかし東電は今年の夏に取り出し方法を決めるという。無理な相談である。
 第一に、本来ならば取り出せるかどうかを検討課題とするべきだ。1号機から3号機まで状況は全く異なるので、方法どころか取り出せない可能性が高い。
 第二に、40年後と仮置きした廃炉完了予定は大きく揺らいでいる。一方で、これが、東電と国の「公約」になっている。できないことを約束するのは、特に地元に対して大変失礼だし犯罪的だ。
 第三に、その無理が新たな危険性を作り出す。福島第一原発は依然として津波災害に極めて脆弱であることを忘れていては困る。放射性物質の拡散防止、特に再度の津波災害を防止する対策が最重要課題だ。石棺方式も検討すべきだ。
 第四に、優先順位を見誤っている。汚染水対策とともに重要なのは放射性物質の拡散防止対策だが、デブリ取り出しを優先すれば拡散防止は疎かになる。
 また、使用済燃料対策も遅々として進んでいない。使用済み燃料プールから取り出すだけでなく乾式貯蔵への早期移動も重要課題だ。
 第五に、福島第二原発を廃炉にすること。宙ぶらりんの状態のまま6年も過ぎてしまった。地元が廃炉を要求しているのに放置していることが大きな不安材料になっている。安心・安全とは正反対の行動では信用を得ることなどできるわけがない。
 福島第二原発は第一原発の南約10キロ。いわき市など人口密集地帯により近い。

8.原発抜きで考えよ
 東電は原発に依存せず追加資金を投じない計画を立てるべき

 「新新総特」に破たん処理がないことは、東電と最大株主の国(機構)が作る計画であるからだとしても、柏崎刈羽原発を(明記はされないものの)2018年度までの再稼働を前提となっている計画自体が、地元はもちろん、市民の意志とかけ離れた荒唐無稽なものとなっている。
 柏崎刈羽原発につぎ込んだ6800億円の資金に加え、これからも発生する維持管理費用を考えれば、再稼働こそ利益を食いつぶしていることが分かるだろうと思う。
 新潟県は再稼働を論ずる前提として福島第一原発事故の原因究明を挙げている。
 しかし、東電も国もそれを放棄した。事故原因を津波で電源を失ったこととして単純化し、従来の過酷事故対策を多少書き換えただけで新規制基準を作った。これでは新たな事故を招き寄せる。
 「世界最高水準の安全の実現に向け、「原子力安全改革プラン」を着実に推進する。」と「新新総特」に記述しているが、原発事故の防災体制にさえ責任を負わないのにどうして世界最高水準と言えるだろうか。
 少なくても東電は、原発に依存せず追加資金を投じない計画を立てるべきである。それが最低限の要求だ。(了)


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