[2018_09_05_05]「慎重議論を」強まる声 トリチウム水の処分(福島民報2018年9月5日)
 
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「慎重議論を」強まる声 トリチウム水の処分

 東京電力福島第一原発の汚染水浄化後に残る放射性物質トリチウムを含んだ水の処分を巡る初の公聴会では、政府の小委員会が示した五つの処分方法のうち海洋放出に反対の意見が集中した。小委員会は参加者の声に押される形で「タンクでの長期保管」の検討に入る。公聴会は処分の方向性を決めるための地ならし−との見方もあった。だが、処理水の一部に基準値を超えたトリチウム以外の放射性物質が含まれていた問題も重なり、慎重な議論を求める声は強まっている。

■第六の選択肢
 「タンクでの長期保管の可能性を含め、今後議論したい」。小委員会の山本一良委員長(名古屋学芸大副学長)は公聴会終了後、厳しい表情を浮かべた。
 二〇一六(平成二十八)年十一月から続く小委員会の議論は、処分が前提だ。「地層注入」「海洋放出」「水蒸気放出」「水素放出」「地下埋設」の五つの方法について、風評など社会的影響を踏まえて検討してきた。だが、八月三十日に富岡町、三十一日に郡山市と東京都で開いた公聴会では長期保管が「第六の選択肢」として急浮上した。
 原発敷地内でトリチウム水を保管するタンクは現在、約六百八十基、計約九十二万トンに上る。約百三十七万トン分まで貯蔵する見通しは立っているが、仮に長期保管する場合、タンクの設置場所の確保が課題となる。小委員会は近く会合を開き、タンクの耐用年数や長期保管に伴うリスクなども含めた議論を始める。小委員会事務局を務める経済産業省の担当者は議論の必要性は認めながらも「タンクの設置場所を確保するには原発構内にある既存施設の移設などが必要になる。廃炉作業に影響が出かねない」と消極的な姿勢だ。

■危機感
 トリチウム水は国内外の原発で発生しているが、希釈後に海洋放出されるケースが多い。福島第一原発でも事故前、法令濃度基準(一リットル当たり六万ベクレル以下)を守って放出されていた。原子力規制委員会の更田(ふけた)豊志委員長は「海洋放出が唯一の方法」と明言する。
 一方で公聴会の直前、福島第一原発で保管されているトリチウム水に他の放射性物質が残留し、一部が排水の濃度基準を上回っていた事実が明るみになった。山本委員長は再浄化で除去する必要性を示したが、政府関係者は「このままでは処分への国民の理解は得られない」と危機感を募らせる。小委員会は東電と情報発信の在り方を協議する。

■「振り出しに」
 小委員会の委員の一人は二〇一六年の初会合に臨んだ際、タンク保管を検討すべきだと意見を述べた。しかし、論点は既に処分方法に絞られており、保管について議論する余地はなかったという。「議論が振り出しに戻った。結論が出るまで余計に時間がかかるだろう」と指摘する。
 福島第一原発が立地する大熊町の渡辺利綱町長は「地域住民や漁業関係者らの合意を得ることが大切」と注文を付ける。公聴会で意見を述べた県漁連の野崎哲会長は「公聴会は、中間地点にすぎない。結論を出すには全国各地で意見を聞く場を設けるなど国民的議論が大前提」と語る。早ければ年内にも処分の方向性を取りまとめたい考えの小委員会に対し、住民の理解を得られるまで議論を尽くすようくぎを刺した。

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