[2020_12_04_07]福井県の大飯原発3・4号機 国の設置許可取り消す判決 大阪地裁(NHK2020年12月4日)
 
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福井県の大飯原発3・4号機 国の設置許可取り消す判決 大阪地裁

2020年12月4日 21時55分
 福井県にある大飯原子力発電所の3号機と4号機をめぐる裁判で、大阪地方裁判所は、国の原子力規制委員会の審査の過程に看過しがたい誤りや欠落があるとして、原発の設置許可を取り消す判決を言い渡しました。
 福島第一原発事故を教訓にした新たな規制基準が設けられてから、原発の設置許可を取り消す司法判断は初めてです。
 関西電力 大飯原子力発電所の3号機と4号機について、関西や福井県などに住むおよそ130人は「大地震への耐震性が不十分だ」と主張して訴えを起こし、設置を許可した原子力規制委員会の決定を取り消すよう求めていました。
 原発はその周辺で想定される最大規模の地震の揺れ、「基準地震動」を算出し、それに耐えられる設計になっていることが必要です。
 裁判では、大飯原発の「基準地震動」を原子力規制委員会が福島第一原発事故を教訓に設けられた新しい規制基準に適合していると審査で判断したことの是非が争われていました。
 4日の判決で大阪地方裁判所の森鍵一裁判長は、「審査のガイドラインには、基準地震動の設定にあたっては過去に起きた地震の規模の平均値より大きな規模の地震が起きることも想定し、そうした『ばらつき』を考慮する必要があると書かれている。しかし、原子力規制委員会は『ばらつき』を考慮する場合、平均値に何らかの上乗せをする必要があるかどうかすら検討していない。審査の過程には看過しがたい誤りや欠落があり、違法だ」という判断を示し、大飯原発3号機と4号機の設置許可を取り消しました。
 この2基は現在、定期検査のため稼働を停止していて、判決の効力は国側が控訴すれば生じません。
 しかし、福島第一原発事故のあと原発の設置許可を取り消した司法判断は初めてです。
 万一、事故が起きると甚大な被害が出ることを踏まえ、審査に丁寧さが欠けていると指摘した4日の判決は、規制の在り方を大きく見直してきた国に対して厳しい判断を突きつけた形となりました。

法廷内 どよめきと拍手

 判決の言い渡しは午後3時から始まり、森鍵一裁判長が冒頭に「3号機と4号機の設置許可を取り消す」と主文を述べると、法廷に詰めかけた原告や支援者から「おー」というどよめきが起こりました。
 そして、5分ほどの判決要旨の読み上げが終わると、大きな拍手がわき起こりました。

大阪地裁 正門前の支援者からは歓声

 判決の直後、原告の人たちが大阪地方裁判所の正門前に集まった支援者らに向かって「勝訴。大飯原発3・4号機の設置許可取り消しを命ずる」「すべての原発の地震動評価をやり直せ」などと書かれた紙を掲げると大きな歓声があがりました。
 原告側で中心的に活動してきた冠木克彦弁護士は「全国の原発に大きな影響を与える判決だ」と話していました。
 原告の一人、石地優さんは「主文を読み上げているとき、涙がこみ上げてきた。理屈抜きでうれしく感じた。今後につながる希望がある判決だ」と話していました。

原告側会見「すばらしい勝訴判決だ」

 判決のあと裁判を起こしていた原告の市民グループが会見を開きました。 このうち、共同代表のアイリーン・美緒子・スミスさんは「判決は地震国の日本で、原発事故から市民や環境、経済を守るための最後の警告だ。これを機に原発を動かさないでほしい」と述べました。
 また、同じく共同代表の小山英之さんは「すばらしい勝訴判決だ。来週には原子力規制委員会に行って全国すべての原発に、判決で指摘された『ばらつき』を考慮するよう申し入れたい」と話していました。
 そして、弁護団長の冠木克彦弁護士は「国側は裁判の中で、『専門的な知見に司法は口出しをするな』という主張もしていて、判決はそうした不誠実な姿勢を糾弾したものとも考えられる。判決によって全国の原発訴訟でも、『ばらつき』を考慮した基準地震動の議論を始めることが必要となり、本当に大きな影響力を及ぼすものだ」と述べました。

原子力規制委「十分な理解得られなかった」

 大阪地方裁判所が福井県にある大飯原子力発電所の設置を許可した、国の決定を取り消す判決を言い渡したことについて、原子力規制委員会は「国の主張について裁判所の十分な理解が得られなかったものと考えている。今後については関係省庁と協議の上、適切に対応して参りたい」とするコメントを出しました。

梶山経産相「判決内容を精査したうえで対応」

 今回の判決について、原子力政策を所管する梶山経済産業大臣は記者団の取材に対し、「今後、関係省庁で判決の内容を精査したうえで適切に対応していくものと承知している」と述べました。

関西電力「極めて遺憾、承服できない」

 福井県にある大飯原発の設置を許可した国の決定を取り消す判決が出たことについて、関西電力は「裁判所に対し大飯原発の安全性について丁寧に説明を行い、理解してもらえるよう真摯(しんし)に対応してきた。今回の判決については、主張を裁判所に理解してもらえず極めて遺憾で、到底承服できるものではない。今後、判決内容の詳細を確認し、速やかに国と協議の上、適切に対応していく」とするコメントを出しました。

原発立地する福井県おおい町 中塚町長「住民 翻弄され憂慮」

 判決を受けて大飯原発が立地する福井県おおい町の中塚寛町長は、「判決の詳細を把握しておらず、司法の判断について申し上げる立場にはない」としたうえで、「原子力規制委員会の判断と司法の判断が逆転することは国民や立地地域の住民が翻弄され憂慮すべきと考える」とするコメントを発表しました。

おおい町などの住民は…

 大阪地方裁判所が、大飯原発の設置を許可した国の決定を取り消す判決を言い渡したことを受けて、地元の住民からは原発の稼働は必要だという声や、判決は仕方がないといった声が聞かれました。
 このうち大飯原発が立地する福井県おおい町に住む80代の女性は、「地震への対策は必要だとは思いますが、町にとって原発は必要なので原発が動かせなくなったら困ると思います」と話していました。
 一方、70代の男性は、「東日本大震災の前に国は原発は安全だと言っていましたが、結果的に事故が起こりました。判決の結果は仕方がないことだと思います」と話していました。
 このほか、おおい町の隣の小浜市に住む80代の男性は、「原発は必要だと思います。地震はいつ起こるかわからないので電力会社には、対策をしたうえで動かしてもらいたいです」と話していました。

福井県知事「国が責任を持って対応を」

 大阪地方裁判所が大飯原発の設置を許可した国の決定を取り消す判決を言い渡したことについて、福井県の杉本達治知事は「当事者である国が責任を持って対応していくものであると思う。原子力発電については、今後とも県民の安全を最優先に考えて対処していく」というコメントを発表しました。

司法が原発規制の在り方に疑問を呈す

 今回の判決は、原子力規制委員会が行う原発の耐震性をめぐる審査で、判断にあたって必要な検討をせず、欠落があったとし、司法として原発の規制の在り方に疑問を呈しました。
 現在の原発の規制は、福島第一原発の事故で大きく見直されたものです。
 事故の前まで原子力規制を担ってきた国の規制機関である「原子力安全・保安院」が事故を防げず、推進官庁である経済産業省の中にあるなど多くの課題が浮き彫りになって廃止になり、平成24年に独立性の強い三条委員会として「原子力規制委員会」が新たに発足、原発事故を教訓にした新たな規制基準がつくられました。
 原発の稼働を目指す電力各社は、この基準を満たすため地震の想定や重大事故対策を取りまとめ、審査に合格すると許可が出されます。
 国は、新しい規制基準は「世界最高水準」の内容になったと説明し、審査では、電力会社に対して想定を厳しく見直すよう迫る姿も見られ、地震などの想定が引き上げられることもあり、関係者は「事故のあと、原子力規制は大きく変わった」としていました。
 国が出した設置許可をめぐる裁判では原発事故が起きる前の平成15年に、名古屋高等裁判所金沢支部が高速増殖炉「もんじゅ」で「国の審査には重大な誤りがあった」と指摘し、許可を無効とする判決を言い渡しましたが、原発の事故で規制が見直されて以降は、今回の判決が初めてです。
 高速増殖炉「もんじゅ」の高裁の判決はその後、最高裁判所が取り消しています。

原発の「設置許可」とは

 電力事業者は、国から原子炉の規制に関する法律に基づく「設置許可」を受けなければ、原子力発電所を運転することができません。
 原発の安全性を確認する国の審査を受け、原発を設置しても問題ないと判断されると、設置許可が出されることになります。
 この国の審査の時に用いられるのが規制基準です。
 地震や津波といった自然災害や、核燃料が冷却できないような重大事故などへの、対策を取ることが定められています。
 福島第一原発の事故のあと、規制基準はより厳しくなり、新しい知見を取り入れながら地震に対しても、原発周辺にある活断層の影響などをチェックしてきました。
 この新しい基準に基づいて原子力規制委員会は、原発の再稼働を求める電力事業者の対策を評価し、問題がないと判断した場合には審査に合格、つまり設置を許可することになります。
 大飯原発3号機と4号機は平成29年5月に審査に合格し、規制委員会から許可を得ていました。

最大の争点は「基準地震動」が十分な数値に設定されているのか

 今回の裁判で問われたのは関西電力に対し、原子力発電所の設置を許可した、原子力規制委員会の決定の是非です。
 原発は、その周辺で将来起こりうる最大規模の地震の揺れを、過去の地震データや地質構造などをもとに算出し、それに耐えられる設計になっていることが必要です。
 この想定の揺れは「基準地震動」と呼ばれ、数値は加速度の単位「ガル」で表されます。
 関西電力は大飯原発の基準地震動を「856ガル」と設定し、この大きさの揺れへの耐震性を満たす施設にしているとしています。
 原子力規制委員会は審査で数値の設定を妥当と評価し、安全性も確保されているとして、平成29年5月に3号機と4号機の設置を許可していました。
 裁判では基準地震動が十分な数値に設定されているのかどうかが最大の争点になりました。
 原告側は原子力規制委員会が福島第一原発事故のあと、みずから見直した審査のガイドラインに反していると主張していました。
 注目したのが基準地震動に関し「ばらつきも考慮されている必要がある」と、新たに書き加えられたガイドラインの記述です。
 「ばらつき」とは過去に起きた地震の中には、その規模が基準地震動の算出に用いられる平均値に近いものだけではなく、大きくかい離したものがあることです。
 原告側は「ばらつき」を反映させて計算すると、基準地震動は少なくとも「1150ガル」になると主張しました。
 これに対して国側は「ばらつき」をどう考慮するかについて、原告側の解釈には誤りがあると主張しました。
 そのうえで「856ガル」は過去に起きた地震の規模や、断層の長さや幅、震源の深さなどをもとに、不確かな部分があることも踏まえて、より安全になるよう大きめに計算されているので妥当な数値だとしていました。

大飯原発の運転への影響は?

 大飯原発3号機と4号機は、現在、定期検査のため運転を停止しています。
 今回の判決は仮処分ではなく、国側が控訴すればすぐに効力が生じることはなく、直ちに原発の運転に影響がでる訳ではありません。
 4号機は来年1月に運転を再開する計画で、3号機は配管に傷が見つかった影響で現在、再開の見通しはたっていません。
 一方、判決が確定すれば設置許可が取り消されるため、運転できなくなります。
 原子力規制委員会は「国の主張について裁判所の十分な理解が得られなかったものと考えている。今後については関係省庁と協議の上、適切に対応して参りたい」とするコメントを出しました。

ほかの原発への影響は?

 今回の判決が確定すれば、想定される地震の揺れ「基準地震動」は、ほかの原発でも見直しが求められる可能性があります。
 例えば、福井県にある関西電力の美浜原発3号機は、大飯原発と同様の算出方法で基準地震動を導き出していて、住民側によりますと、基準地震動の算出に「ばらつき」を考慮すれば、現在の最大993ガルを上回って「1330ガル」になるということです。
 また、基準地震動は、すべての原発で算出する必要があり、今回の判決が今後、各地で行われている原発をめぐる裁判に影響する可能性もあります。
 佐賀県にある九州電力の玄海原発3号機と4号機をめぐり、住民が設置許可の取り消しなどを求めて起こした裁判でも、今回と同様に住民側は基準地震動の評価にばらつきを考慮すべきだと主張しています。
 この裁判は、来年3月12日に判決が出る見通しです。

関西電力の原発めぐる司法判断

 関西電力が福井県に設置している大飯、高浜、美浜の3つの原発に対しては、平成23年の福島第一原発の事故以降、原発に反対する地元の住民などから、運転をしないよう求める訴えや仮処分の申し立てが相次ぎました。
 その多くは退けられていますが、大飯と高浜については運転を認めない司法判断も出ています。
 このうち大飯原発の3号機と4号機をめぐっては、平成26年5月に福井地方裁判所が「地震の揺れの想定が楽観的だ」と指摘して、当時、運転を停止していた原発の再稼働を認めない判決を言い渡しました。
 これは原発事故後に全国各地で起こされた裁判の中で最初の判決で、その結果が運転を認めないものだったことから、原発を推進してきた国や電力会社に衝撃が走りました。
 ただ、仮処分ではないためすぐに効力が生じることなく、関西電力が控訴して行われた2審で平成30年7月、名古屋高等裁判所金沢支部が「原子力規制委員会の審査に不合理な点は認められない」と判断して、福井地裁の判決を取り消し、そのまま確定しました。
 一方、高浜原発3号機と4号機をめぐっては、運転を停止していた平成27年4月に福井地方裁判所が「国の新しい規制基準は緩やかすぎて、原発の安全性は確保されていない」という判断を示し、再稼働を認めない仮処分の決定を出しました。
 その後、福井地裁の別の裁判長が決定を取り消したことから、翌年1月に、3号機が再稼働しました。
 しかし、その2か月後、今度は大津地方裁判所が「事故対策や緊急時の対応方法に危惧すべき点がある」として、運転停止を命じる仮処分の決定を出しました。
 この決定により、3号機は運転中の原発で初めて司法の判断によって停止しました。
 この決定は1年後の平成29年3月に大阪高等裁判所が取り消したため、3号機は4号機とともに再び運転を始め、高裁の判断も最高裁判所への抗告が行われなかったため、確定しました。
 これらの裁判や仮処分はいずれも関西電力に運転をしないよう求めるものでしたが、今回の裁判は国が行った設置許可自体を取り消すよう求めるものでした。

原発訴訟 これまでの司法判断

 原子力発電所をめぐる裁判で住民側の訴えが認められたケースは、これで9件目となり、設置許可を無効とする判決は、平成15年の高速増殖炉「もんじゅ」をめぐる判決以来、2件目です。
 原子力発電所の運転停止や設置許可の取り消しを求める訴えは、昭和40年代後半から各地の裁判所に起こされましたが「具体的な危険があるとはいえない」などとして、退けられてきました。
 平成15年に福井県の高速増殖炉「もんじゅ」をめぐる裁判で、名古屋高裁金沢支部が国の設置許可を無効とする判決を言い渡し、これが住民側の訴えを認めた初めての判決でしたが、最高裁で取り消されました。
 平成18年には金沢地裁が石川県の志賀原発2号機の運転停止を命じる判決を言い渡しましたが、高裁で取り消されました。
 こうした中、平成23年に福島第一原発の事故が起き、改めて安全性を問う動きが広がり、住民側の訴えを認める司法判断が増えました。
 平成26年に福井地裁が福井県の大飯原発3号機と4号機の運転停止を命じる判決を言い渡しましたが、2審で取り消されました。
 また、運転停止を命じる仮処分の決定も相次ぎ、福井県の高浜原発3号機と4号機では、平成27年に福井地裁、平成28年に大津地裁が2度、運転停止を命じました。
 関西電力は平成28年3月、大津地裁の1回目の決定が出た際に運転中だった3号機の原子炉を停止させ、司法の判断で運転中の原発が停止した初めてのケースとなりました。
 運転停止の決定は高裁で取り消され、高浜原発3・4号機は再び運転を始めました。
 また、愛媛県の伊方原発3号機では平成29年と、ことし1月に広島高裁が2度、運転停止を命じる決定を出しました。
 平成29年の決定はその後、取り消されましたが、ことし1月の決定については広島高裁の別の部で審理され、伊方原発3号機は運転できない状態が続いています。
 原子力発電所をめぐる裁判で住民側の訴えが認められたケースは、これで9件目となり、設置許可を無効とする判決は、平成15年の高速増殖炉「もんじゅ」をめぐる判決以来で、2件目です。

専門家「判決確定なら他原発でも地震の揺れの評価変わることも」

 今回の判決について、原発の耐震性に詳しい京都大学の釜江克宏特任教授は「原子力規制委員会が評価した基準地震動は活断層の調査や地盤の固さなどさまざまな要素を踏まえているので、今回の判決は規制委員会にとっては厳しい内容だったといえる。しかし、一方で、規制委員会が作った審査に使うガイドでは、地震の大きさの『ばらつき』を考慮する必要があるといった趣旨の記載があり、ある意味、規制委員会がこのガイドを守ることができていないと裁判所が指摘したともいえる」と話しています。
 そして、この判決がおよぼす影響については、仮に判決の内容が確定した場合と前置きしたうえで「ほかの原発でも基準地震動の評価が十分に対応できていない可能性があるということになるので、地震の揺れの評価が変わることも考えられる」と話しています。
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