[2017_03_01_08]高圧電源盤における高エネルギーアーク故障(HEAF)火災評価試験_OO16001_報告書全文(電力中央研究所2017年3月1日)
 
参照元
高圧電源盤における高エネルギーアーク故障(HEAF)火災評価試験_OO16001_報告書全文

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背 景
 平成23年3月11日の東日本大震災の際に女川原子力発電所1号機で発生した高圧電源盤(高圧スイッチギア*1)の大規模な高エネルギーアーク故障による火災(以下、HEAF火災)の被害状況を踏まえ、HEAF火災によるリスク低減のための火災影響軽減対策を合理的に実施する必要がある。電源盤内でアーク放電エネルギーが発生した場合、電源盤内の空気が加熱され、その高温空気が電源盤外あるいは隣接する電源盤内へ噴出し、隣接機器へ機械的・熱的影響を及ぼすだけでなく、二次的な火災の進展に至る懸念がある。

目 的
 アーク未対策である実物大の高圧電源盤を用いた内部アーク試験を行い、アークエネルギーの発生量やアーク発生後のHEAF火災への進展の有無を評価する。さらに、内部アーク発生時の高温ガスの放出挙動に対する数値解析手法の適用性を評価する。

主な成果
 2種類の高圧電源盤(非耐震/耐震, 定格電圧7.2kV, 母線材質:銅, 発弧区画内容積1.11〜1.48m3, 開口部無)を用いた内部アーク試験を実施し、以下の知見を得た。(図1)

1.内部アーク試験
 目標短絡保持時間を0.1〜2.0秒、アーク発生(以下、発弧)箇所をケーブル室またはVCB二次側端子として、三相短絡電流条件(18.9/40.0kA)におけるアーク電圧Varcやアーク放電時に発生するエネルギー量(以下、アークエネルギーEarc)を測定した。
 Varcは、本試験の範囲では電源盤の種類や発弧箇所にかかわらずほぼ一定の値1.34kVとなる。一方、Earcは短絡保持時間が長くなるにつれて比例的に増大しHEAF火災に進展する場合があり、その最小値は27.6MJであった。なお、遮断器室内でアークを発生させた場合、Earcが40MJを超えると、消火作業が必要な火災事象が発生した。(図2)

2.内部アーク発生時の内圧と筐体の破損を考慮した高温ガスの放出解析
 高圧電源盤内に発生する圧力や筐体の破損に伴う高温ガスの放出状況を予測可能なCFD(数値流体力学)*2や衝撃解析ツール*3を用いて、内圧上昇量の推定、内圧による筐体の破損形態や周辺への機械的・熱的影響範囲を再現できることを確認し、内部アーク発生時の高温ガスの放出挙動評価に適用できる見通しを得た。(図3)

*1 電力系統を保護・制御するためのしゃ断器等の保護継電器と高圧の母線を一緒に金属製筐体に収めたもの
*2 米国ESI Group社製のCFD-ACE+
*3 米国ANSYS社製のAUTODYN


図1から図3

(中略)

2.2 女川原子力発電所におけるHEAF火災

 2011年3月11日、東日本大震災の影響により、東北電力・女川原子力発電所1号機のタービン建屋地下1階で電源盤火災が発生した。現場に急行した自衛消防隊は、発煙による視界不良のため、火災発生場所の特定ができなかった。煙による視界不良が収まった後、現場確認を行ったところ、10連の電源盤のうち、2つの電源盤内部が損傷し、加熱状態にあることを確認したため、粉末消火器(合計7本)を用いて、火災を鎮火した(9)。
 この火災では、出火源と推定される電源盤から、常用メタクラ6-1Aと呼称される電源盤(10台の高圧電源盤を一列に連なって設置していた)へ延焼し、機能喪失が引き起こされた。なお、出火原因については、「高圧電源内の遮断機は吊り下げ式であり、地震による震動で大きく揺れたため、当該遮断機の一次及び二次側断路部の接続導体、絶縁物が変形及び破損し、接続導体と周囲の構造物が接触して短絡・地絡が発生し、それに伴うアーク放電の熱によって、盤内のケーブル絶縁被膜が溶け、発煙した」(9)と推定されている。
 事故後に実施したHEAF火災試験の結果から、電源盤間の延焼経路はケーブルダクトと結論づけられている(10)。従来の火災防護誌指針(11)においては、電源盤内で油を燃焼させた試験の結果より、火災は単一の盤内に限定され、隣接する他の電源盤へは延焼しないという想定であったが、HEAF火災を想定した場合には、隣接盤への影響を考慮する必要があることがわかった。

(中略)
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