[2024_01_30_05]能登半島で動いた断層は150キロ、想定は96キロなのに 北陸電力が繰り返してきた「過小評価」の歴史(東京新聞2024年1月30日)
 
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能登半島で動いた断層は150キロ、想定は96キロなのに 北陸電力が繰り返してきた「過小評価」の歴史

 12:00
 能登半島地震では半島北側の沿岸部の断層が150キロ程度にわたって動いたとみられている。では、半島の西側に志賀原発を立地させた北陸電力は、あの地域で断層活動をどう想定してきたか。原発に致命傷を与えかねないのが断層活動に伴う揺れなどだ。見立てが甘いと安全面が揺らぐ。そんな懸念から立地時以来の経過をたどってみると、不信を募らせる経過が浮かんできた。(山田祐一郎、木原育子)

 ◆「異常なし」の後からトラブルが出てくる

[図] 1987年にまとめられた志賀原発の設置許可申請書にある断層位置図。「Fu1」「Fu2」は活動性を考慮する断層という位置付けではなかった

 「早々に『異常なし』ということが強調されて、後からトラブルが出てきている。不信感ばかりが募る」
 能登半島地震で震度5強の揺れに襲われた志賀原発(石川県志賀町)。不安を口にするのは内灘町の元町議、水口裕子さん(75)。同町は原発から約40キロの距離にある。
 北電の株主として長年、株主総会で脱原発などを求めて質問に立ってきた。地震発生以降、社民党県連が志賀原発の視察を求めているのに、実現していない点に触れ「なぜ公開できないのか」といぶかしむ。
 「異常なし」とされた志賀原発だが、変圧器が損傷して油漏れが発生。外部電源の受電用系統が一部使えなくなった。放射線量を測定するモニタリングポストは116台中、最大で18台で測定値が確認できない状態になった。

 その志賀原発を動かそうとする北電には、不信を増幅させる別の問題もある。原発に影響を及ぼしうる断層活動の想定だ。
 政府の事故調査委員会は今回の震源の断層について「半島の北西部から北東沖まで長さ150キロ程度と考えられる」と評価をまとめた。かたや北電は昨年5月にあった原子力規制委員会の会合で、半島北側にある四つの断層の計96キロ区間を連動する断層帯として評価し、マグニチュード(M)8.1の地震を見立てた。

 ◆「断層が連動するのでは」促され検討

 過去にさかのぼると、さらなる疑念も浮かぶ。
 北電は東日本大震災後の2012年3月、経済産業省原子力安全・保安院(当時)の「地震・津波に関する意見聴取会」第3回会合で、四つの断層をつなぐと約95キロになると説明した一方、「一括して連動するというということは考えがたい」と見解を示していた。
 ただ委員から「多分連動するような断層の配置」「こういう部分、全部つなげていっぺんに割れたというケースが多い」と指摘が相次ぐと、北電は「そういった方向で検討する」とし、3日後の第4回会合で「約95キロの連動を考慮するとM8.1相当」と伝えた。
 「こちら特報部」が改めて尋ねると、北電は「第3回会合で4断層が連動した場合でも安全性に問題がないことを説明していた。次の会合ではより安全側の評価として4断層の連動を評価した」と釈明した。

 ◆立地時「活動性を考慮する断層」に含めず

 気になるのは、志賀原発立地時の想定もだ。1987年に北電が政府に提出した志賀原発の設置許可申請書の縮小版が国会図書館にあるので、閲覧してみた。

[図] 1987年にまとめられた志賀原発の設置許可申請書にある断層位置図

 「敷地周辺海域の主要断層位置図」を見ると、半島の北側には、東西に延びる二つの断層を記していた。「Fu1」「Fu2」という名称で、全長は約63キロと約59キロ。ただし「活動性を考慮する断層」という位置付けではなかった。
 今回動いた断層との関係はうかがいしれないが、二つの断層を将来動きうる断層に含めなかったのはなぜか。北電に質問すると「産業技術総合研究所や海上保安庁などにより音波探査が行われ、それらの結果から、活断層ではないと確認した」と回答があった。

 ◆断層を的確に想定しなければ「すべてが崩れる」

 原発を動かそうとする電力会社が断層活動を甘く想定した場合、何が問題になるのか。
 NPO法人「原子力資料情報室」の上沢(かみさわ)千尋氏は「動きうる断層を的確に想定し、検討しなければ、全てが崩れてくる」と述べる。
 原発の敷地内や周辺の環境を調べて断層の有無などを把握した上、将来にわたってどれだけの長さで活動しうるのか、その規模で断層が動くと揺れがどうなるか、施設の強度は十分か、新たな手だてが必要か-などと想定を重ね、原発の安全性を確保するのが電力会社の役目とされる。

 ◆補給手段が絶たれれば安全性そのものに直結

 しかし、断層活動の長さの想定が甘いと、揺れの見積もりや手だてなども甘くなりかねない。

[写真] 地盤が隆起し、海底があらわになった鹿磯漁港=石川県輪島市で

 想定を超えて断層が動いた場合、それに伴う揺れや地盤のずれで原子炉や建屋に影響を及ぼさないか心配な一方、上沢氏は「周辺施設の構造物のほか、道路などのへ影響が広範囲に及ぶ可能性もある。補給手段が断たれるなどすれば、原発の安全性そのものに直結する。想定が甘ければ全て狂ってくる」と続ける。
 断層活動を巡って甘い想定が浮かぶ北電には、不信が募る。過去を振り返れば、なおさらそう感じる。原発を稼働させるだけの信頼性があるか、問われるところだが、能登半島地震後の姿勢は微妙なところだ。
 北電は自社サイトで、半島の北側ではM8.1クラスの地震を想定していたと強調している一方、今回の地震がM7.6だったことから「想定内の規模」と伝えている。

 ◆今回は動いた面積が小さかったということ

 北電が想定した断層活動は約96キロ。能登半島地震で動いたとされる断層の長さは150キロ程度。それでも地震の規模が北電の想定より小さかったのはなぜか。

[写真] 富来漁港周辺の海岸(手前)と志賀原発

 新潟大の立石雅昭名誉教授(地質学)は「地震の規模は活断層の長さだけでは決まらない。長さに加え、実際に動く断層の面積やずれた量が影響する。今回は動いた面積が小さかったということだ」と解説し、「地震の規模は大きく想定したといっても、安全サイドに立てば胸を張るようなことではなく、当然の話だ」とくぎを刺す。

 ◆断層は想定を超えて活動しうる

 その上で、想定を超える長さで断層が動いたとされる事態を問題視する。「地震波として志賀原発にどのように伝わってきたか、地下構造の解明が必要だ」
 立石氏の懸念は当然とも言える。志賀原発では、観測された揺れの加速度の一部が、想定をわずかに上回った。原子炉建屋などの重要施設が影響を受けやすい周期ではないとされるが、見過ごすことはできない。
 大阪大の平川秀幸教授(科学技術社会論)は「地震規模が想定未満ゆえ大丈夫、と言うのは疑問が残る。どういう影響が原発に及んだのか、地震学や地震工学の面からも再検討しなければならない」と訴える。
 重く捉えるのがやはり、「断層は想定を超えて活動しうる」という点だ。「自然現象は人知を超える。改めてそういったことに立ち返って考えていくべきだ」

 ◆規制委の判断含め再検証が必要

 今回は北電が昨年段階で想定したより1.5倍長く断層が動いたとされる。この教訓は、各地にある原発の直下や周辺の断層を議論する際、どう扱うべきか。

[写真] 17日、原子力災害対策指針の見直しについて説明する原子力規制委員会の山中伸介委員長

 前出の上沢氏が求めているのが、断層活動を巡る従来の想定の再検証だ。「検証が終わっていない段階で、原発を稼働させようとするのであれば大問題だ」と声を大にする。
 志賀原発に関しては、原子力規制委が昨年3月、2号機の適合性審査で「敷地内に活断層はない」とする北電の主張を「妥当」と判断している。上沢氏は「規制委のこの判断も改め、しっかりと再検証する必要がある」と強調する。

 ◆デスクメモ

 断層活動の想定が甘くなるのはなぜか。耐震対策などの費用増を避け、でないなら、それはそれで重い事態だ。その時々の最善を尽くして自然環境を調べても、将来動きうる断層の長さがつかめないなら、人知の限界と自然の脅威が浮かぶ。そんな中で原発の安全性は確保できるのか。(榊)


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