[2024_01_06_01]志賀原発電源トラブルの考察_山崎久隆(たんぽぽ2024年1月6日)
 
参照元
志賀原発電源トラブルの考察_山崎久隆

 08:16
 ●山崎 久隆です。 以下、若干考察をします。

 起動変圧器の絶縁油が漏れる現象は、2007年の中越沖地震において柏崎刈羽原発3号機で発生したのと全く同じです。
 当時、柏崎刈羽原発3号機は稼働していました。(2,3,4号機が稼働)
 地震発生と同時に原子炉はスクラムしたので、発電もそこで止まりましたが、発電機は直ぐには止まりません。惰性で回り続けるときに「コーストダウン電流」が発生します。柏崎刈羽原発3号機でも、そうした電流が流れていました。
 さらに、地震により地盤が変状したため、起動変圧器の位置が原子炉建屋とずれてしまい、間をつなぐ回路が破損したため、アーク放電火災が発生しました。
 その火花は難燃性の絶縁油でも発火させ、起動変圧器が炎上しました。

 まとめると、次の三つの条件で火災は起きました。
 1.起動変圧器と変圧器接続母線部が上下にずれたこと。
 2.起動変圧器二次側から絶縁油が漏れ出したこと。
 3.起動変圧器二次側の母線接続ダクト内で回路の短絡によりアーク放電が発生したこと。

 この条件の内、志賀原発では一つが合致しました。
 1号機で約3,600リットル、2号機で約3,500リットルの絶縁油が漏れていました。
 もし原発が再稼働して発電していたならば、大電流が流れていて、アーク放電火災が起きた可能性は否定できません。その場合、かなりの確率で火災に至ったと考えられます。
 なお、絶縁油は引火点が130度、発火点が250度以上とされています。

 起動変圧器の絶縁油が漏れた際に、電源ケーブルが損傷し、アーク放電が発生、それにより絶縁油が発火して火災事故になる。原発火災の典型的なストーリーですが、有効な対策はないと思います。女川原発でも311の震災時にアーク放電火災により1号機タービン建屋内の変圧器10台が全焼しています。この時は1台の変圧器火災が可燃性ケーブルを伝って他の変圧器にも延焼しました。

 志賀原発の基礎マット上の加速度は399.3ガルです。柏崎刈羽原発3号機の基礎マット上で観測された地震動は南北308、東西384、上下311ガルですから、ほぼ同等程度と考えて差し支えないでしょう。
 今回、志賀原発は二基とも稼働していませんので、変圧器にも大電流が流れていなかったのが幸いしました。絶縁油も高温になっておらず仮に漏電していても発火は免れたのではないかと考えます。
 つまり、稼働中だったらかなりの確率で電源部が発火し、油が燃え上がる火災事故に発展したのではないでしょうか。

 この変圧器は何処にあるのでしょうか、原子炉、タービンなどの建屋内にあるのでしたら、さらに危険です。柏崎刈羽原発は屋外にありましたから、この火災は建屋内部に広がることはありませんでした。
 能登半島地震はマグニチュード7.6の巨大地震で、中越沖地震はマグニチュード6.8の地震ですが、20倍以上差があります。
 震源域が原発から離れていたため、原発で観測された揺れは基礎マット上340ガル程度で済みました。
 柏崎刈羽原発は震源がほぼ真下で、1号機解放基盤面(Vs700)で地震動は1699ガルもありましたので、建屋と変圧器が変位するほどの地盤変状の影響を受けています。建屋の基礎マット上での揺れが志賀原発と同等程度でも、地盤が破壊されるような地震ではひとたまりもないことを表しています。

 志賀原発の位置が震源域の真上だったら、柏崎刈羽原発3号機以上の大損害を出していた可能性は高いと思います。
 外部電源と地震との相性はとても悪いです。
 何しろ長大な送電経路の何処かが遮断しても喪失します。
 しかし原発の設備内で破損が起きるようでは、元も子もありません。
 福島第一原発事故では、敷地内の変電設備が潰滅しています。もちろん地震のためです。
 非常用ディーゼル発電機は構内変圧器に直結していますので、外部電源が喪失しても影響はありませんが、変圧器自体が壊れれば全電源喪失します。福島第一原発事故では津波によりそうなりました。
 すなわち、地震と津波の影響を回避するには、外部電源を強化して地震では喪失しないほどのものとすると共に、構内受電装置を地震や津波で破損しないようにし、バックアップ電源を独立して準備することです。

 このうち特定重大事故対処等施設において構内設備は増やしました。独立した発電機を増設し、電源車も用意しました。しかし外部電源系統は脆弱なままです。
 このアンバランスは、もちろんコストの問題です。
 外部電源の脆弱性は繰り返し警告してきました。2011年の震災前にも何度も問題にして東電に申し入れたりもしていましたが、非常用ディーゼル発電機があると、聞く耳を持ちませんでした。その挙げ句が311です。
 震災時に地震や津波に遭遇して生き残った5原発11原子炉は、その全てで外部電源が1系統以上生きていたか、非常用ディーゼル発電機が一基以上稼働しました。全滅したのは福島第一原発の1から4号機だけでした。
 電源こそが命綱なのだから、あらゆる電源を守る姿勢こそ必要です。しかし外部電源は何処の原発でも軽視されています。これは大問題です。

 志賀原発でもその弱点が露呈しています。
 志賀原発の地震動の大きさについて、志賀町で震度7が観測され、その強震計の揺れは2828ガルであったそうです。防災科研の強震動記録を見ても、これが最大であることは確かです。
 しかし同じ志賀町の志賀原発が、基礎マット上で399.3ガルと、かなり小さい値であったことが明らかになっています。その理由は、下記の地図で明らかです。
 https://xview.bosai.go.jp/view/index.html?appid=41a77b3dcf3846029206b86107877780

 原発の位置は「志賀町」と表記のあるところよりも更に南側ですから、震度7の区域からは離れており、概ね震度6弱か5強のエリアであることが分かります。
 基礎マット上の値が399ガルといえども、地上階では600ガル以上の揺れになっただろうと思います。
 先ほど、柏崎刈羽原発の基礎マット上の値を書きました。その値と志賀原発の値は、ほぼ同等なのですが、柏崎刈羽原発3号機は震度7の上に建っていました。
 原発の基礎マットは地下です。柏崎刈羽と志賀では深さが異なりますが、それでも地下階の方が揺れは小さくなります。また、柏崎刈羽原発の場合は地盤が大きく変状したことで、揺れが一部(高周波域)吸収されたと考えられています。
 志賀の場合はどのような地盤だったのかが分かりませんが、そういう影響も考えられます。

 また、一番大きな理由は、この地震の固有の特徴です。
 能登半島は大きく三つのセグメントに分かれるそうです。
 一番北側の「第一セグメント」珠洲、輪島地域が主な震源域になり、今回の地震で最も大きな影響を受けています。
 その南側に位置する「第二セグメント」に志賀原発は建っていますが、このエリアは福浦断層系などで区切られます。
 ちょうど、志賀町の震度7エリアの南側に1本の線のように見える震度6強のラインが、おそらく福浦断層なのでしょう。この南側は震度6弱です。
 さらに南側に下がると、羽咋市から中能登町、そして七尾市に向けて斜め右上に走る線の部分。周囲が震度5強に対して震度6弱の線ができていますが、おそらくこれが第二セグメントと第三セグメントの境目、邑知潟断層系だと思います。
 2006年3月24日、志賀原発差止訴訟では、この断層系評価ができていないことなど耐震性の問題を主な理由で差止判決が出されています。
 今回は第一セグメントの断層系が活動して起きた地震ですから、断層系で区切られている第二、第三セグメントの揺れが比較的小さく済んだわけですが、今後、第二セグメント、第三セグメントでも地震が起きる可能性が高まったと言えます。
 そうなれば、志賀原発が今度は震源域のど真ん中で揺さぶられることになるでしょう。
KEY_WORD:能登2024-志賀原発-外部電源_:NOTOHANTO-2024_:CHUETSUOKI_:FUKU1_:KASHIWA_:ONAGAWA_:SIKA_: