【記事10222】社説 新潟地震に万全の対策を(毎日新聞1964年6月17日)
 
 

※以下は上記本文中から重要と思われるヶ所を抜粋し、テキスト化したものである

 新潟地震の被害は、予想外に大きいようである。交通機関や電信電話などの通信機関が途絶しているため、正確な被害集計はまだわかろうはずもないが、新潟市内の建物の三割は傾き、鉄筋コンクリートの建物はほとんどヒビ割れを生じ、さきごろの新潟国体を前に完工したばかりの昭和大橋も損壊した。また、新潟市内を?流して海にそそぐ信濃川は、地震のために逆流して市内のいたるところが浸水しているという。周知のように、新潟は石油工業地帯だが、この地にある石油工場のいくつかが地震と同時に出火し、石油タンクがつぎつぎに爆発した。予知できなかった地震とはいえ、この地方にいる被害者には同情を禁じえない。
 この地震は震度5で、地震の規模は関東大震災よりやや小さく、福井地震よりやや大きいという。戦後のわが国では、これが最大の地震であるが、それにしては死傷者の数が少なかったことは、なによりだった。もし、この地域に大きな都市や工業地帯があったとしたら、おそらく被害はさらに大きいものになったであろう。これは不幸中の幸いというべきだ。
 日本は有名な地震国だ。それは避けることはできない宿命だが、幸か不幸か、そのことが日本における地震学、耐震工学の発達をうながし、地震に強い建築の研究では世界的な水準に達している。常識で考えれば、高層建築は地震に弱く、低い建物ほど地震に対して安全と思われる。しかし、超高層建築にしても、設計に特殊な工法をこらせば、地震によって受ける下からの力の波が順次上層にのぼって、また下方へはね返るというように、地震のショックをある程度緩和することができることがわかったのも、最近における耐震工学の成果である。このような成果を取り入れて、今日では大都市における高層耐震建築がかなり広範囲に普及している。
 しかし、多くの地方都市ではまだまだこの域には達せず、いたるところに地震に弱い建築物が残っている。とくに、こんどの新潟地震でも、学校をはじめ公共のコンクリート建築に大きな被害を出したことは、まことに遺憾というほかはない。
 地震には火事がつきものである。過去の地震でも、地震の被害よりは火事による被害が大きかった。こんどの新潟地震では、石油タンクの爆発事故を生じたが、この地の特殊事情とはいえ、あらかじめ、こういう事態に処する万全の予防措置がなかったのは残念である。
 地震の災害として恐るべきものに、津波、洪水がある。こんどの新潟地震では、新潟港の港湾設備に大きな被害があった。また、市内は泥流におおわれ、多くの人家が水びたしになった。文字どおり人と水の責め苦とはこのことであろう。しかし、これとてこのような天災に備えて、被害を最小にとどめる工夫はあったはずと思う。
 今日の発達した地震学をもってしても、地震を予知することはできない。しかし、だからといって、いつ訪れるかわからない地震に対する備えを十分にすることは、できるはずであり、やらなければならない。今回の被害は、おそらく大変な額に達するであろう。これを復旧するには、官民ともに大変な努力を必要とするものと思われる。政府、地方自治体ともに、災害の復旧に全力をつくすべきはもとより、なによりもまず、人心の安定に万全を期すべきである。

KEY_WORD:NIIGATA1964_:新潟国体:昭和大橋:信濃川:予知できなかった地震:関東大震災:福井地震:耐震工学:超高層建築: