【記事25010】「M8級87%」確率突出だが 「浜岡」だけが特別なのか 危険性 前から指摘 福島は0.0〜0.8% 「他の原発心配ない」は暴論 未知の活断層、連動型も過去に 全国で安全性の検証を(東京新聞2011年5月10日)
 

※以下は上記本文中から重要と思われるヶ所を抜粋し、テキスト化したものである

 浜岡原発が全面停止となる。しかし菅直人首相は同原発の危険性を「特別なケース」と強調。国策として原子力を主要なエネルギーとする方針は崩しておらず、ていのいい「ガス抜き」、パフォーマンスのにおいはぬぐい切れない。浜岡原発は本当に「特別」なのか。ほかの原発は危険ではないのか。
 「三十年以内にマグニチュード(M)8程度の東海地震が発生する可能性は87%と切迫している。特別な状況を考慮した」。菅首相は」浜岡原発の停止を要請した理由について、こう述べた。
 仙谷由人官房副長官もNHKの討論番組で八日、東海地震の発生確率の高さを強調し、一方で「日本海側、瀬戸内にある原発はまず心配ない」と大見えを切った。
 だが、地震予知連絡会前会長の大竹政和東北大名誉教授は、「日本ではどこの原発にも一定のリスクがある。なぜ、浜岡だけが飛び抜けて危険性が高いのか、詳しい説明がない。専門家と検討していないのではないか。菅首相の人気取りのためのパフォーマンスのように感じる。まず、全体のエネルギー政策をどうするのか方向性を示すべきだ」と疑問を投げかけた。
 首相が挙げた数字「87%」は、政府の地震調査委島会が、過去の他震の周期などからはじき出したものだ(今年1月現在)。
 駿河湾から四国沖に延びる南海トラフ沿いでは百〜百五十年の間隔で巨大地震が起きている(1994年にM7.9の東南海地震や46年にはM8.0の南海地震が発生。しかし東海地震は、1854年の安政東海地震から150年以上発生しておらず、政府の中央防災会議は「いつ発生してもおかしくない」としている。しかも浜岡原発は、東海地震の想定震源域の真上に位置する。
 一方で、経済産業省原子力安全・保安院は、「地震調査委によると、震度6強の地震が発生する確率は、浜岡以外の原発では、0.0〜数%程度しかない」とする。
 しかし、これは一種の数字のマジック”。
 浜岡は東海地震のような海溝型地震を想定しているのに対し、他は原発に近い活断層で発生する活断層型地震を主に想定していることによる。
 海溝型地震の想定エリア内に立つ原発は浜岡以外にないからだという。
 活断層型は、数千〜1万年に一回の間隔で起きるとされておけ、計算上は極めて小さな確率になる。このため東日本大震災で震度6強に見舞われた東京電力福島第一原発(福島県)も、ほぼ0.0〜0.8%の極めて低い確率と見込まれていた。しかし、日本には未知の活断層が数え切れないほどあり、海溝型でも複数の地震が連鎖的に発生する「連動地震」の可能性も指摘されている。
 そうすれば、揺れはより広い範囲に及ぶこともあり、エリア外とされた原発に被害が出る可能性もある。
 東京大地震研究所の古村孝志教授{地震学)は「これまでは過去に起きたことが分かっている地藤の記録をもとに想定して対策を害してきた。しかし東日本大震災以降は、過去からの想定だけでは不十分だということになり、想定の再検討が始まっている」と話す。
 今回の政府首脳の発言に「どんな根拠があるのか」とあきれるのは、四国電力の伊方原発(愛媛県)から約10キロに住む近藤誠さん(64)も同じ。地元紙「南海日日新聞」記者として原発の危険に警鐘を鳴らし、2号機の設置許可取り消し訴訟(1992年敗訴確定)では原告の一人として、耐震性に疑問を投げかけてきた。
 「浜岡を止めることは評価できるが、手放しでは喜べない。『必ず起こる』巨大地震は東海地震だけではなく、危ない原発は浜岡だけではない。今回の震災では最大2000ガルの揺れが計測されているが、伊方は最大570ガルしか想定していない」と強調する。
 前出の「連動」で起きた地震には、東日本大震災が起こるまでは国内最大級だった1707年の宝永地震(M8.6)がある。九州、四国沿岸から大阪湾にまで津波が押し寄せ、死者も二万人を超えたとされる。
 南海地震に詳しい高知大の岡村真教授は「宝永地震では土佐湾の奥まったところまで津波が押し寄せた。当時の記録にも集落ごと流された『亡所』の文字がずらずら並んでいる」と被害の−端を説明する。
 東大の郡司嘉宣准教授(地震・古地震学)も「869年に東北で今回の震災そっくりの地震が起きた。その十八年後の887年に東南海なども連動した巨大南海地震が起きている。千年に一度″の地震が、千年前には立て続けに起きている」と指摘。「同じように続いてもおかしくない」
 地震発生確率だけでは、とても浜岡を特別扱い″できない。岡村教授も「浜岡原発が最も危険なのは間違いないが、他の原発が『心配ない』とは暴論」と批判する。
 伊方原発でも、九州電力の川内原発(鹿児島県)でも、すぐそばに活断層が見つかっている。日本原子力発電の敦賀原発(福井県)にいたっては、敷地内にある。電力会社側が長らく認めようとはしなかった点も同じだ。
 伊方原発沖の活断層を調査してきた岡村教授は
 「例えば、伊方原発では南海地震の影響よりも、直下型地震の危険が高い。原発では『止める、冷やす、閉じ込める』が安全の大原則だが、非常に地震波の速い直下型の場合、制御棒を入れて『止める』作業が本当に大丈夫なのか」と危ぶむ。
 「新潟中越沖地震のように知られていない活断層でも突然、M7以上の地震が起きている。どこで地震が起きてもおかしくない国で心配のない原発があると言えるのか」
 与党時代から政府の原子力政策を批判している自民党の河野太郎衆院議員は「危険性を指摘されてきた浜岡原発を停止させたことは評価したい。しかし、ほかの原発についても安全性をきちんと検査していくべきだ。今後、新規の原発建設はできないだろう。近い将来、原発は廃炉が続くことになる。自然エネルギーと省エネルギーに向けた政策の転換の流れは変えることはできない」と話す。

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