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「もんじゅ」廃炉を機に脱原発へ舵をきれ


火山・地震列島の日本に「第2もんじゅ」は要らない

 政府は21日午後、原子力関係閣僚会議を開き、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の廃炉を正式に決めた。廃炉の見返りとして、もんじゅの周辺地域を原子力研究や人材育成の拠点とし、敷地内での試験研究炉の新設などの地域振興策も示した。これに対し立地県である福井県や敦賀市は政府の廃炉方針に反対している。
 政府試案によると、廃炉には30年の歳月が必要になる。2017年から22年までに使用済み燃料を取り出し、30年後の47年までに施設の解体を終える作業工程を考えている。廃炉費用の内訳は、解体完了までの維持管理費に2250億円、施設解体費などに1350億円、燃料の取り出し準備費用に150億円など、最低3750億円の費用を見込んでいる。ただし使用済み燃料プールの耐震対策など新規制基準対応を見込めば、費用はさらに増える可能性もある。
 使用済み核燃料からウランやプルトニウムを取り出して再利用する「核燃料サイクル」の中核的存在だったもんじゅの廃炉は、戦後日本のエネルギー政策を根本的に見直す絶好のチャンスである。通常の原子力発電(原発)は燃料のウランが核分裂した際に発生する中性子の速度を落とし核分裂の連鎖反応を起こして発電機を回し電気をつくる。これに対し、高速増殖炉は名前の通り、中性子の速度を落とさず,「高速」の状態を維持する。ナトリウムを使い、ウランに高速の中性子があたると、使ったプルトニウム以上に多くのプルトニウムが「増殖」する。実現すれば、貴重なウラン資源を有効に使えるため、「夢の原子炉」と呼ばれ、日本では1950年代から実用化を目指して開発に取り組んできた。
 石炭、石油などのエネルギー資源の多くを海外に依存している日本にとって、自前のエネルギーを確保し、エネルギーの安全保障体制を構築することは国家的課題だった。そのため戦後の日本は、先端科学技術の賜物である原発の開発、実用化を国是として推進してきた。その中心となる考え方が「核燃料サイクル事業」である。
 核燃料サイクル事業は2つのルートで進められてきた。一つは現状のサイクルである。電力会社がウラン燃料で電気をつくる通常の原発は、電気をつくった後に大量の使用済み核燃料が発生する。この使用済み核燃料を青森県・六ヶ所村にある再処理工場に運び、燃料に使えるプルトニウムを再生する。再生したプルトニウムとウランを混ぜてつくった燃料(MOX燃料)で原発を動かす(プルサーマル発電)方法で、すでに一部で実用化されている。
 これに対し、高速増殖炉は発電しながら消費する以上のプルトニウムを生み出す原子炉だ。「もんじゅ」の建設工事は85年に始まり91年に完成した。高速増殖炉の原型炉で出力は28万キロワット(KW)。95年8月から発電を開始したが、順風満帆とはいかなかった。実用化に当たっては克服しなければならない様々な技術上の高い壁がそそり立っている。たとえば炉心を液体ナトリウムで冷やすが、ナトリウムは水に触れると爆発するため、安全に運転するための細心の注意が必要だ。
 それにもかかわらず、同年12月にナトリウム漏れ事故を起こし運転を停止した。それ以来「もんじゅ」はほとんど動いていない。これまでに建設と維持管理に1兆円以上が投入されてきた。停止中の年間の維持管理だけでも200億円の国費が投入されている。将来の見込みも立っていない。
 一方、欧米の動向を見ると、安全性と技術上の困難さから、高速増殖炉に取り組んできたドイツは91年に、英国は94年に撤退、フランスも98年に実証炉を閉鎖した。米国は元々基礎研究を止め、実証炉に取り組んでいない。
 日本は、福島原発事故以後、原発への不信感が強まっている。特に火山・地震列島の日本では、近い将来大地震が発生する可能性が大きいと多くの地震学者が警告している。第2、第3の福島原発事故を回避するためにも、今後の日本は脱原発路線をはっきり打ち出す必要がある。今回政府は、様々な技術上の問題を抱える「もんじゅ」の正式廃炉に踏み切ったことは評価できる。
 もんじゅ廃炉は「核燃料サイクル」の事実上の破綻を意味しているにもかかわらず、政府は「高速炉開発の継続」を打ち出すなど矛盾する姿勢を示しているのはいかがなものか。ある時代に鉄壁と思われた考え方が次の時代に色あせてしまうことはよくあることだ。ここに至って過去に未練を残すべきではない。もんじゅ廃炉によって、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の安全廃棄は一段と難しくなる。それを無視し、原発再稼働を拡大させれば、核のごみは増え続け、将来世代に大きな負の遺産を押し付けることになる。
 この際、脱原発、脱炭素化を大胆に推進し、新たに水素と再生可能エネルギーを軸とした脱原発、新エネルギー百年の計の構築を目指して、日本はエネルギー政策の舵を大きく切り換える時期がきているのではないだろうか。

■三橋 規宏(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B−LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)、「サステナビリティ経営」(講談社)など多数。

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