[2023_02_15_01]社説:原子力規制委 国民の信頼失う追随だ(京都新聞2023年2月15日)
 
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社説:原子力規制委 国民の信頼失う追随だ

 東京電力福島第1原発事故の教訓をないがしろにし、政府の原発回帰に追随するばかりなら、委員会の存在意義はない。
 原子力規制委員会は原発の運転期間を「原則40年、最長60年」とする現行の規制制度から、60年超運転を可能にする制度への見直し案を正式決定した。
 臨時会合の採決で委員5人のうち4人は賛成したが、石渡明委員が反対した。意見が割れたまま規制委が重要案件を決めるのは極めて異例だ。
 従来政策からの大転換なのに、政府方針と歩調を合わせた拙速ぶりである。事故を反省し、規制と推進を分離するために発足した組織の独立性が根底から疑われる。
 地質学者の石渡氏は「科学的、技術的な新知見に基づくものではない。安全側への改変とは言えない」と反対理由を述べた。8日に続いて13日の会合で、審査で停止した期間などが運転期間から除外されることに「審査を厳格にして長引くほど運転期間が延びる」などと訴えた。もっともな疑念だ。
 山中伸介委員長は見直し案の決定を一度は先送りしたが、「根本のところから食い違ってしまった」と多数決で押し切った。別の委員は「外からせかされた」との認識を示している。
 規制委が制度見直しを始める前に、事務局の原子力規制庁と、経済産業省が非公式面談をしてきたことも発覚した。規制と推進の癒着とみられても仕方あるまい。
 ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰などを理由に、岸田文雄首相は昨年8月に原発の最大限活用を表明し、わずか3カ月で60年超運転など長期利用に政策転換した。
 政府は脱炭素化への基本方針として閣議決定し、関連法の改正案を今国会に提出する。各地で基本方針に対する説明・意見交換会が続いており、原発活用への反対や懸念の声が大勢となっている。
 結論ありきの進め方は原発事故前と変わらず、「安全神話」の復活そのものである。岸田首相は「国民の声を聞く」と言いながら、最後まで聞きもしていない。こうした政権の姿勢と規制委のふるまいは通底しているのではないか。
 福島原発の廃炉作業や被災者の避難生活は今も続いている。ウクライナ危機は原発が攻撃対象となる危うさを浮き彫りにした。
 安全に絶対はなく、問題があれば必ず安全の側に軸足を置くのが事故の教訓だったはずだ。規制委は推進側と距離を置いた原点に立ち返らなければならない。
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