【記事63120】<伊方運転差し止め>「火山影響評価ガイド」厳格に適用(毎日新聞2017年12月13日)
 
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<伊方運転差し止め>「火山影響評価ガイド」厳格に適用

 四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを広島、愛媛両県の住民が求めた仮処分申請の即時抗告審で、広島高裁(野々上友之裁判長)は13日、申し立てを却下した今年3月の広島地裁決定を覆し、四電に原発の運転差し止めを命じる決定を出した。野々上裁判長は「阿蘇山(熊本県)の火砕流が敷地に到達する可能性が十分小さいとはいえない。立地として不適」と断じ、重大事故で「住民の生命・身体への具体的危険がある」と認めた。差し止め期限は来年9月末とした。高裁段階の差し止め判断は初めて。
 伊方3号機は今年10月から定期検査で停止中。仮処分はすぐに効力が生じ、今後の司法手続きで決定が再び覆るまで運転できない。四電は近く保全異議、仮処分の執行停止の申し立てを同高裁にする方針だが、予定していた来年2月の営業運転再開は困難な状況だ。
 伊方3号機は2015年7月、国の原子力規制委員会が東日本大震災後に作成した新規制基準による安全審査に合格し、昨年8月に再稼働した。
 決定で野々上裁判長は、規制委の内規「火山影響評価ガイド」を厳格に適用し、半径160キロの火山で今後起こる噴火の規模が推定できない場合、過去最大の噴火を想定すべきだと指摘。伊方原発から約130キロ離れた阿蘇山について「9万年前の最大噴火で火砕流が敷地に到達した可能性が十分小さいと評価できない。原発の立地は認められない」と述べた。地質調査などを基に「火砕流は到達せず安全」としていた四電の主張を退けた。
 阿蘇山の噴火に伴う火山灰などの噴出物についても、四電が想定した九重山(大分県、伊方原発から約108キロ)の2倍近くになると指摘。「四電による降下物の厚さや大気中濃度の想定は過小」とした。
 その上で「新規制基準に適合するとした規制委の判断は不合理」と批判し、事故で放射性物質が放出され、住民の生命や身体に危険が及ぶ恐れがあると認定した。
 一方、火山災害以外は、新規制基準に基づく基準地震動(地震時に想定する最大の揺れ)の設定などを「合理的」と容認した。
 運転差し止めの期限は、広島地裁で別に審理中の差し止め訴訟の判決で「異なる判断をする可能性もある」として来年9月30日までとした。
 東日本大震災後、差し止めを認めた判決・決定(異議審含む)は、関西電力高浜原発3、4号機(福井県、3号機は当時稼働中)を巡る昨年3月の大津地裁の仮処分など過去4例。いずれも地裁の判断だった。
 伊方原発3号機を巡る仮処分申請は、高松高裁、山口地裁岩国支部、大分地裁でも係争中。【東久保逸夫】

 【ことば】伊方原発
 九州へ延びる佐田岬半島(愛媛県伊方町)の瀬戸内海側に立地する四国電力唯一の原発。3号機(出力89万キロワット)は1994年に運転を開始し、2010年から国内2例目のウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料によるプルサーマル発電を始めた。1号機(運転開始77年)は昨年5月に廃炉。2号機(同82年)は12年から停止中で四電は再稼働、廃炉の判断を示していない。

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