【記事63160】社説:伊方原発抗告審 懸念踏まえた差し止め(京都新聞2017年12月14日)
 
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社説:伊方原発抗告審 懸念踏まえた差し止め

 四国電力伊方原発3号機(愛媛県)の運転禁止を求め広島市の住民らが申し立てた仮処分抗告審で、広島高裁は運転を差し止める決定を出した。
 差し止め理由の柱は、火山噴火が原発に与える危険性である。
 広島高裁は、阿蘇カルデラ(熊本県)が噴火すれば火砕流が原発を直撃する可能性が小さいとはいえない、と指摘した。
 根拠として、約9万年前の最大級の噴火で火砕流が原発敷地内に届いていた可能性を挙げ、原発の立地として不適格とした。
 さらに、火山の危険性について新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断を「不合理」と断定した。
 約130キロ離れた阿蘇カルデラの火砕流が直撃するとの想定には「奇異である」という指摘もあるが、万が一、という住民の懸念を踏まえての判断ではないか。
 東京電力福島第1原発の事故後、原発の再稼働や運転を禁じる高裁段階の判断は初めてだ。
 福島原発事故の原因はいまだ解明されていない。国は原発の再稼働にかじを切ったが、多くの国民は懸念を持っている。9万年前の噴火を根拠にしたのは、住民のわずかな不安にも政府や電力会社は応えるべきという意味だろう。
 事故時に危険性が住民に及ぶかどうかの立証責任は電力会社側にある、とした点も重視したい。
 過去の原発裁判では、原告・住民側が主に立証責任を求められてきたが、情報を独占している側の責任を重視するのは、製造物責任の観点からも当然だ。
 原発から約100キロも離れた広島市の住民が訴える被害可能性を認めたことも注目すべきだろう。大津地裁が昨年3月に認めた約70キロ圏を上回る広さだ。原発から離れた自治体も被害想定や避難計画の策定が必要と読み取れよう。
 一方で広島高裁は、四国電が算出した地震の揺れ(基準地震動)の信頼性や避難計画、新規制基準による審査については合理性があると判断した。
 伊方原発は「日本一細長い」という佐田岬半島の付け根にある。中央構造線断層帯が近くを走り、南海トラフ巨大地震の震源域に入る。阿蘇の噴火が断層に影響するという指摘もある。
 計画では内陸に向かうか船で大分県に避難する。だが訓練は想定通りに進まなかった。各地でも避難計画の有効性が問われる実態があるが、政府や電力会社は改善に後ろ向きだ。高裁はこうした現実にも言及してほしかった。

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