【記事69700】原子力規制庁はいつから「社会通念」を論ずる組織になったのか  自ら作った「火山ガイド」を無効化 原子力規制庁の推進庁ぶりますます 山崎久隆(たんぽぽ2018年4月27日)
 
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原子力規制庁はいつから「社会通念」を論ずる組織になったのか  自ら作った「火山ガイド」を無効化 原子力規制庁の推進庁ぶりますます 山崎久隆

 12月13日に広島高裁が原発差止仮処分決定において日本で初めて規制庁の作った「火山ガイド」に基づき、阿蘇第四噴火規模のカルデラ噴火が起きた場合、伊方原発敷地にも大きな影響を与えることに着目した「運転差止決定」を出した。
 すなわち広島高裁決定は、火山ガイドの本来の適用結果を明確に示したものだ。
 伊方原発から約130キロ離れた阿蘇カルデラで約9万年前に発生した過去最大の噴火で「火砕流が原発敷地に到達した可能性が十分小さいとは評価できない」と指摘し、規定に沿って「立地不適だ」と結論付けたのである。
 これにショックを受けたのが規制委員会だった。
 自ら制定した火山評価ガイドが運転差止の根拠とされたため、これを無化しようと、3月7日に巨大噴火についての「見解」を出し、破局カルデラ噴火を「低頻度な事象」と位置付け、巨大噴火に伴う原子力災害のリスクを「社会通念上容認される水準」としてしまった。
 この見解を出したことで、原子力規制庁が行う規制そのものが、法律や規則に則ったものではなく、恣意的、政治的に決定されてきたものであり、今後もそのような観点で評価されうることを名実ともに示してしまった。
 規制委員会の規制基準破壊というほかない。

◇火山と地震と津波

 東海第二原発を所有する日本原電にとって心穏やかではなかろう。
 この原発の基準津波は17.1メートルであり、対策上海抜20メートルの防潮堤を建設することとされている。ところが規制庁の審査会合では、東海第二原発を襲う津波に「超過津波」という概念を導入し30メートル超級をも想定した。
 その結果、敷地の水没は前提となり防潮堤内の海水排出設備の整備、建屋の水密化、代替電源の確保、代替冷却設備の整備などが要求された。
 超過津波はフラクタイル・ハザード曲線上では1000万年に一回以下の確率である。しかしそれでも想定することは必要だから規制庁は規制基準に加えた。
 そのこと自体はもちろん間違ったことではない。むしろ超過津波として確率的安全性評価で基準津波を超える規制を行うのだから、例えば55メートル級などともっと高い津波を想定して良いはずであり、これでも過小評価の批判を免れないと思う。(東海第二原発差し止め訴訟原告側書証)
 ところが火山について規制委は全く逆の判断をした。
 津波や地震は実際に起き、福島第一原発事故を引き起こしたため、例え1000万年に一度という確率であっても無視することは出来ないが、火山は最近は破局噴火が起きていないから「無視して良い」とはならない。
 阿蘇第四噴火が起きたのは約9万年前、この確率はかなり高い。鬼界カルデラ(鹿児島県薩摩半島沖約50キロの海底火山で、最近噴火した口永良部島の近傍)の噴火となるとわずか7300年前、火山学的な時間としては、つい最近のことだ。
 基準津波と火山ガイドで、全く異なる考え方を持ち込んでしまったことで、自然災害への備えの基準はますます曖昧になった。
 津波と同様に、地震についても所によっては厳しい想定をしておきながら、一方では依然として甘い基準のままで放置されているところも多々ある。

◇耐震性にも重大な欠陥

 耐震評価についても極めて危険な事態が進行中だ。
 東海第二原発は、建設時270ガルの地震想定が、累次にわたり想定変更が行われた結果、現在は1009ガルとなっている。4倍ちかい増大だが、建屋の耐震壁が4倍の厚さになったわけではないし、圧力容器を支えるボルトの直径が4倍の太さになったわけでもない。
 これまで使ってきた設備、装置類はそのままで、地震の想定だけがかさ上げされた。耐震設備例えば防振装置などは強化されたところもあるが、基本構造はそのままである。
 結果、クリフエッジ(破壊される力の掛かる点)までの余裕が食い潰されてきた。
 事業者も規制庁も「まだ裕度があるから持つ」というが、最初のころは3倍以上の裕度が、現在は1.何倍と、微妙な余裕。計算を少し変えれば簡単に覆る程度が残っているだけである。
 圧力容器を下で支えるボルト、原子炉圧力容器の基礎ボルトは、規制基準改定前の保安院によるバックチェック時点と1009ガルまで基準地震動がかさ上げされた現在とでは大きく余裕を食い潰し、ギリギリになっている。
 また、圧力容器を上部で支え、水平方向の揺れを吸収する役割を持つ圧力容器スタビライザは、もはや限界を超えている。
 原電は自らのホームページで次のように主張する。『安全裕度評価結果の概要』『設計上で想定している地震(基準地震動600ガル)の1.73倍大きい地震(約1038ガル相当)に耐えられることを確認。
 安全対策の強化前と変わらず、耐えられる地震の大きさは「原子炉圧力容器スタビライザ」が損傷するまでの地震の大きさであり、想定の1.73倍です。』これはストレステストでの評価だ。
 クリフエッジが1038ガルで、基準地震動が1009ガルに引き上げられた結果、裕度が1.03倍にまで食い潰されてしまった。実際に地震が起きたら、基準地震動を超える地震に遭遇しなくても圧力容器スタビライザは破損するだろう。基準地震動を下回っても揺れの評価が誤っていれば同じことが起きるからだ。
 東海第二とは、そんな原発である。
<火山影響評価ガイド>
 原子力規制委員会が策定した審査の内規。(1)原発から160キロ圏内にあり、将来の活動可能性がある火山について、原発運用期間(原則40年)に活動する可能性が十分小さいかどうかを判断する(2)判断できない場合は運用期間に発生する噴火規模を推定する(3)推定できない場合は、対象火山の過去最大の噴火規模を想定し、火砕流が原発に到達する可能性が十分小さいかどうかを評価する―と定めている。火砕流到達の可能性が十分小さいと評価できない場合は「立地不適」となる。
(大分合同新聞3月30日より)
            (月刊たんぽぽニュース4月号より)

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