【記事74380】関空孤立も北海道停電も、前から「指摘されていた弱点」だった(現代ビジネス2018年9月11日)
 
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関空孤立も北海道停電も、前から「指摘されていた弱点」だった

 強い勢力を保ったまま近畿地方を直撃した台風21号と、北海道で観測史上最大の震度を記録した北海道胆振東部地震――。
 先週、日本列島を相次いで襲った大型の自然災害は、多くの死傷者を出す一方で、西の空の玄関・関西国際空港と北のライフラインである北海道の電力ネットワークの脆弱性を浮き彫りにした。いずれも、平時の備えを怠っていた感は否めず、十分な安全マージンの確保が急務となっている。

本当の原因は…?

 まず、関空の最新状況と被害が深刻になった原因を見てみよう。
 台風21号の影響で、関空では先週火曜日(9月4日)午後、強風で流されたタンカーが激突して連絡橋が破損したのに続き、その1時間後には滑走路に茶色い濁流が流れ込んだ。すっかり冠水したA滑走路の水深は、40〜50センチ・メートルに達したという。そして、関空は午後3時に閉鎖され、約3000人の利用客が取り残される事態に陥った。
 深刻な被災状況を受けて、安倍晋三首相は翌6日午前の「豪雨非常災害対策本部会議」で、「(関空の)国内線(の運航)を明日中に再開し、国際線も準備が整い次第再開する」と復旧を急ぐ考えを表明。7日には、被害の少なかったB滑走路を使い、日本航空と関空を拠点とするLCC(格安航空会社)のピーチ・アビエーションの2社が、なんとか19便の運航に漕ぎ着けた。さらに8日になると、全日本空輸も加わって国際線を含む合計47便を運航したという。
 しかし、復旧はまだ緒に就いたばかりだ。平時には、貨物を含む1日の発着数が500回を超える関空の実情を考えると、再開分はいまだに1割に満たず、本格復旧には程遠い。
 石井啓一国土交通大臣は7日の記者会見で、被害が大きかったA滑走路の暫定運用開始は9月中旬にずれ込むとの見通しを語り、近隣空港の代替利用も模索せざるを得ないと説明している。
 これまでのところタンカーが連絡橋に激突した原因は不明だが、滑走路が冠水した原因は明らかだ。高潮・高波に伴う海水の侵入を阻む護岸対策が不足していたのだ。
 住宅街に建設したことで発着時間を制限せざるを得なかった大阪国際空港(伊丹空港)の轍を踏むまいと、関空は計画段階から1日24時間いつでも離着陸ができる空港を目指し、騒音を理由に住民から訴訟を起こされないよう、陸地から5キロ近く離れた泉南沖の海上を建設候補地とした。
 しかし、この場所は平均20メートルと海上島建設地としては水深が深いばかりか、海底の土壌も約18 メートルの粘土層など軟弱な土壌が堆積する場所だった。つまり、当初から空港の建設に不向きな立地とされていたのだ。
 実際、今回冠水がひどかったA滑走路がある1期島は、今なお1年におよそ6センチ・メートルのペースで地盤の沈下が続いており、通算の沈下はおよそ3.4メートルに達したという。
 もちろん、まったく護岸工事をやっていなかったわけではない。関空では、「50年に1度の高波にも耐えられる対策を打つ」ことを目指して、2004年から護岸を海面から約5メートルの高さまでかさ上げした。1961年の第2室戸台風の記録(最高潮位293センチ・メートル)を考慮した対策だったという。
 しかし、今回はそれを上回る329センチ・メートルの潮位に見舞われて、滑走路や駐機場が冠水する事態に見舞われてしまったのである。
 今後も地盤沈下は続くとみられるうえ、南海トラフ地震が起きれば大津波の襲来もあり得るのが関空だ。十分な安全マージンを確保する対策を講じるか、さもなければいっそ近隣空港に機能をシフトすることも視野に入れざるを得ない状況だ。

停電はまだまだ長引く可能性

 もう一つ浮き彫りになったのは、北海道全域で停電が起き、その影響が長引きそうだという電力インフラの脆弱性だ。
 北海道を先週木曜日(9月6日)午前3時過ぎに襲った北海道胆振東部地震は、南部の厚真町(あつまちょう)で観測史上最大の震度7を記録。震源近くにあった北海道電力最大の火力発電所「苫東厚真火力発電所」を運転停止に追い込んだ。被災時点で全供給力の4割前後を賄っていたとみられる大型火力発電所がダウンした結果、道内全域の電力の需給バランスが崩れた。
 このため、道内の全発電所が運転を次々と停止し、北海道電力の管内全域が停電するブラックアウトが発生。一時、全道の295万戸すべてが停電する事態に陥った。
 その後、北海道電力は復旧を急いだ。同社の発表によると、先週金曜日(9月7日)15時現在、自社の8ヵ所の火力発電所と47ヵ所の水力発電所などを稼働して合計で314万キロ・ワットを確保、155万6000戸の停電を解消したという。
 同じく7日の夕刻に記者会見した世耕弘成経済産業大臣は、「あらゆる努力を積み重ねて、明日(8日)中には最大360万キロワット程度の供給力を確保して、これによって北海道全域のほぼ295万戸へ電力供給が再開できる見通しが立った」と力説した。被災前日のピーク時の380万kWに迫る供給力を回復できると言うのである。
 しかし、これで万全とは決して言えない。
 実際、世耕大臣自身も同じ記者会見の場で、週明けの需要の上振れや老朽化した火力発電所の脱落の可能性を示唆したうえで、「再度、大規模な停電が起こるリスクもある」ため、「1割程度の節電が必須」なほか、「計画停電など、あらゆる手段の準備を進めたい」と明かした。節電目標はその後20%に引き上げられた。
 結局のところ、全道停電という異常事態から迅速に復旧したかに見えても、まだ安心できず、影響が長引く可能性があるのだ。

なぜこれほどまで長引くのか…

 では、なぜ、これほど影響が長引くのだろうか。これまでに明らかになっているだけでも、大別して2つの問題がありそうだ。
 第一は、1、2号機のボイラー損傷、4号機のタービン付近の火災と、続々と主力の苫東厚真火力が大きな被害を受けたことが明らかになる一方で、苫東厚真火力のバックアップ役を果たせる発電設備を北海道電力が保持していないことである。
 仮に、そうした設備を保持していれば、これほど影響が長引くことを懸念する必要はなかっただろうし、そもそも苫東厚真火力がダウンした際にそうした設備を速やかに運転できていれば、あのブラックアウトも避けられた可能性がある。
 第二は、本州と北海道を結ぶ送電網が「北海道・本州間連系設備」の1系統しかなく、その容量が60万kwと小さい問題だ。本州と四国を結ぶ送電網が3系統、容量にして430万kwあることと比べても、あまりにも不十分と言わざるを得ない。来年3月には、北海道と本州を結ぶ送電網が青函トンネルの空きスペースを利用する形でもう1系統新設されることになっているが、その容量も30万kwと小さく抜本的な改善策とは言い難い。
 実は、東日本と西日本では電力の周波数が異なっており、2011年の東日本大震災で関東や東北が電力不足に陥った際に、西日本から十分な電力の融通を受けられなかった反省から、本州と北海道を結ぶ送電網の整備も含めて、電力の広域融通体制の整備の必要性が幅広く指摘されてきた。
 それにもかかわらず、この程度の対策しか講じていないのはあまりにも不十分。あの震災の教訓を生かしていないと批判されても仕方がないだろう。
 関係者の中には、北海道電力が保持する泊原発が稼働していれば、こうした問題を避けられたという主張もあるかもしれない。が、泊原発は何年も運転を停止したままで、運転再開のめどはたっていないのだから、バックアップの発電設備や電力融通のパイプの強化は不可欠だったはずである。
 電力融通のための送電網拡充については、かつては地域独占体制が否定されかねないとの懸念から、現在は下手に容量を拡大すると電力自由化が加速しかねないとの懸念から、関係電力会社の間には陰に日向に反対を続けるムードが強いと聞く。
 経済産業省・資源エネルギー庁がそうした業界のエゴを黙認してきた問題も含めて、平時の備えを怠ってきたことが北海道の電力供給の危機対応力不足の根底にある。
 不十分な安全マージンしか確保していなかった関空の護岸対策も含めて、平時の対応が問われている。

町田 徹
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