【記事74533】東海第二原発の再稼働に反対し地元と首都圏で行動 負担と犠牲が前提の原子力防災対策 原子力災害対策を自治体に丸投げ 原子力事業者は公衆の安全を守れ(その1)(2回の連載) 中村泰子(原子力民間規制委員会・東京)(たんぽぽ舎_中村泰子(原子力民間規制委員会・東京)2018年9月15日)
 
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東海第二原発の再稼働に反対し地元と首都圏で行動 負担と犠牲が前提の原子力防災対策 原子力災害対策を自治体に丸投げ 原子力事業者は公衆の安全を守れ(その1)(2回の連載) 中村泰子(原子力民間規制委員会・東京)

 日本原子力発電の所有する東海第二原発(茨城県東海村)は現在、原子力規制委員会の設置変更許可が下されるかどうかという段階にきている。たとえそれが許可されても、運転開始後40年となる今年11月27日までに運転延長の認可と、工事計画の認可が必要で、その後、茨城県と周辺6市村の同意も得なければならない。地元茨城県内では、すでに6割を超える自治体で運転延長に反対する意見書が採択されている。首都圏でも「とめよう!東海第二原発 首都圏連絡会」が5月に結成され、各地で活発な運動が展開されている。

1.原子力災害対策を自治体に丸投げ

 いざ原発事故発生というときに備えて、原発から30km圏内の自治体に原子力防災計画の策定が義務付けられている。
 東海第二原発は日本一人口密集度の高いところに立地している(30km圏内に100万人)。福島第一原発事故の経験から、実効性のある避難計画をつくることは、ほとんど不可能だ。
 事故が起きれば首都圏壊滅もありうる。巨大なリスクに目をつぶり、ひたすら既定路線をゆくというのは、旧日本軍と同じメンタリティなのだろう。国策という名の自滅への道を、私たちは阻止しなければならない。
 9月1日に水戸で開催された「東海第二原発再稼働STOP!茨城県大集会」で、東海村の特別養護老人ホームを経営する伏屋淑子さんは、「原発事故になったら高齢者は逃げられない。スタッフには逃げてもらう。行政は迎えに来るというが、介助者なしでは車に乗せられない。逃げられない人がいるのになぜ再稼働するのか」と訴えた。
 また、同日夜に開催された「再稼働阻止全国ネットワーク全国相談会in水戸」で、東海村村議の阿部功志さんは、「広域避難計画を自治体が作れと丸投げする政府は無責任。規制委は避難計画を再稼働の審査対象とすべき。そもそも、なんで住民が避難しなければならないのか!」と、無理難題を押し付けられる自治体側からの声をあげた。

2.原子力事業者は公衆の安全を守れ

 従来の原子炉立地審査指針には、「仮想事故の発生を仮想しても、周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないこと」という条件が明記してあった。
 しかし、新規制基準で原子炉立地審査指針は外された。都合が悪かったのであろう。だが、公衆に放射線災害を与えないことは、原子力事業者の責務であることに変わりはないはずだ。
 原子力規制委員会は、「新規制基準への適合性を審査しているだけで、審査を通ったから安全とは言えない」と逃げつつ、涼しい顔で合格証を出している。
 電力会社は、「安全とは言えない」原発を無理やり動かすというのなら、その前に住民を守る予防措置を講じるべきだ。
 なぜなら、福島第一原発事故前は、「事故は起きないので安心してください」と言い、住民はそれを信じて原発を受け入れた。それが後になって、「事故は起こりうる」に変わった。
 住民は、被ばくし、避難し、故郷を失い、生存権を奪われる危険にさらされることになった。「それは約束が違う」ということになる。危険を承知で原発を使用するのなら、住民の安全確保が必須だ。電力会社の責任で、住民が同意できる予防措置が実施されたうえでなければ、再稼働してはならない。
 例えば、少なくとも周辺50km圏内の住民に対し、「住民の皆さま全員を収容できる放射線防護施設を、当社負担で用意します。移住先についても当社で確保します」というくらいの約束をしてもらわなければ見合わない。それには何兆円もかかるので、実際には無理で、電力会社は再稼働をあきらめるしかない。

3.国民の負担と犠牲が前提の原子力災害対策

 原子力規制委員会策定の「原子力災害対策指針」では、放射能放出前に、
 イ.5km圏内の人がまず避難する、
 ロ.30km圏内の人は屋内退避で、5km圏内の避難完了後に避難を開始する、となっている。
 しかし、迅速、的確な避難指示は全く期待できないことから、住民は避難の途中で大量の放射能(特に放射性ヨウ素が危険)を浴びることになる。
 道路渋滞、避難先でも被ばくするなど福島第一の経験から大混乱と大量被ばくは目に見えている。
 避難計画の策定と実施を自治体に負わせるということは、その費用は税金、すなわち国民負担ということになる。危険物を使用する電力会社は防災費用を負担せず、無実の国民が負担せよというのは傲慢不遜な制度だ。
 原子力防災は自然災害への防災対策とは別次元の話なのに、同列にされているところにごまかしがある。
 現在の法体系では、原子力防災計画は法律上の要件となっておらず、原子力規制委員会が原発の運転を許可する際の審査対象ではない。規制委は「指針」を作っただけで何もしない。
 原子力災害避難計画を審査する機関はどこにもない。原子炉等規制法を改正して、規制委が原子力防災計画を審査し、現地検証をしたうえで合否の判定を行うこととし、合格しなければ原発の運転は認められない、とするべきである。
 新規制基準から原子力防災が外されているところに、公衆の安全より原発維持を優先する国の姿勢が現れている。

4.自治体への働きかけが必要
  住民を守れないので原発を動かすべきではないという
  意見書を国に提出してもらいたい

 規制委も電力会社も危険を住民に押し付けておきながら、原子力防災については全く当事者意識がない。
 原子力防災計画を丸投げされた30km圏内の自治体は、筋違いの任務を負わされている。地方自治体には財源がないので、国から多少の補助金があるにしても、まともな対策はできない。
 周辺自治体には、丸投げに異議をとなえ、業務を返上し、住民を守れないので原発を動かすべきではないという意見書を国に提出してもらいたいと強く思う。
 土台無理な原子力災害対策のために、無駄に人手、時間、費用、をとられるのは、自治体行政にとって大きな損失である。
 自治体には、原子力災害ではなく、自然災害への備えに注力してほしい。上からの指示に従うだけではなく、下からの声を上へぶつけるべきではないか。それが地方自治のありかたではないかと思う。
 東海第二原発廃炉の運動に関わる中で、今後自分としては、原発周辺自治体へどのような働きかけができるか、どう行動するかを、「とめよう!東海第二原発 首都圏連絡会」などの運動から学び、皆さんに相談しながら探っていきたい。

(「思想運動」2018-9-15号 No.1029 から了承を得て転載)

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