[1981_07_20_01]発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針について(原子力安全委員会1981年7月20日)
 
参照元
発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針について

                             原子力安全委員会決定
                             昭和五六年七月二〇日

 当委員会は、昭和五六年六月一二日付けで、原子炉安全基準専門部会から提出のあった標記指針に関する報告書について、その内容を検討した結果、別添のとおり、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」を定める。
 従来、当委員会は、発電用原子炉施設の耐震設計に関する安全審査を行うに当たって、昭和五三年一一月八日の決定に基づき、昭和五三年九月二九日に原子力委員会が策定した「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」を用いてきたところであるが、今後は、これに代えて、別添の「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」を用いることとする。
〔別添〕
発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針

1 はしがき
 本指針は、発電用原子炉施設の耐震設計に関する安全審査を行うに当たって、その設計方針の妥当性を評価するため、昭和53年9月、当時の原子力委員会が、安全審査の経験をふまえ、地震学、地質学等の知見を工学的に判断して定めたものである。 このたびは、静的地震力の算定法等について、新たな知見により見直すことが妥当であると考えられたため、静的地震力の算定法等について見直しを行ったものである。なお、本指針は、今後さらに新たな知見と経験の蓄積によって、必要に応じて見直される必要がある。
2 適用範囲
 本指針は陸上の発電用原子炉施設に適用される。しかし、これ以外の原子炉施設にも本指針の基本的考え方は参考となるものである。なお、本指針に適合しない場合があってもその理由が妥当であればこれを排除するものではない。
3 基本方針
 発電用原子炉施設は想定されるいかなる地震力に対してもこれが大きな事故の誘因とならないよう十分な耐震性を有していなければならない。また、建物・構築物は原則として剛構造にするとともに、重要な建物・構築物は岩盤に支持させなければならない。
4 耐震設計上の重要度分類
 原子炉施設の耐震設計上の施設別重要度を、地震により発生する可能性のある放射線による環境への影響の観点から、次のように分類する。
(1) 機能上の分類
Aクラス……
 自ら放射性物質を内蔵しているか又は内蔵している施設に直接関係しており、その機能そう失により放射性物質を外部に放散する可能性のあるもの、及びこれらの事態を防止するために必要なもの並びにこれら事故発生の際に、外部に放散される放射性物質による影響を低減させるために必要なものであって、その影響、効果の大きいもの
Bクラス……
上記において、影響、効果が比較的小さいもの
Cクラス……
Aクラス、Bクラス以外であって、一般産業施設と同等の安全性を保持すればよいもの
(2) クラス別施設
上記耐震設計上の重要度分類によるクラス別施設を以下に示す。
[cir1 ] Aクラスの施設……
[Roman1 ])「原子炉冷却材圧力バウンダリ」(軽水炉についての安全設計に関する審査指針について記載されている定義に同じ。)を構成する機器・配管系
[Roman2 ])使用済燃料を貯蔵するための施設
[Roman3 ])原子炉の緊急停止のために急激に負の反応度を付加するための施設及び原子炉の停止状態を維持するための施設
[Roman4 ])原子炉停止後、炉心から崩壊熱を除去するための施設
[Roman5 ])原子炉冷却材圧力バウンダリ破損事故後、炉心から崩壊熱を除去するために必要な施設
[Roman6 ])原子炉冷却材圧力バウンダリ破損事故の際に圧力障壁となり放射性物質の拡散を直接防ぐための施設
[Roman7 ])放射性物質の放出を伴うような事故の際にその外部放散を抑制するための施設で上記[Roman6 ])以外の施設
なお、上記Aクラスの施設中特に[Roman1 ])、[Roman2 ])、[Roman3 ])、[Roman4 ])及び[Roman6 ])に示す施設を限定してASクラスの施設と呼称する。
[cir2 ] Bクラスの施設……
[Roman1 ])原子炉冷却材圧力バウンダリに直接接続されていて一次冷却材を内蔵しているか又は内蔵しうる施設
[Roman2 ])放射性廃棄物を内蔵している施設、ただし内蔵量が少ないか又は貯蔵方式によりその破損によって公衆に与える放射線の影響が年間の周辺監視区域外の許容被曝線量に比べ十分小さいものは除く
[Roman3 ])放射性廃棄物以外の放射性物質に関連した施設で、その破損により公衆及び従業員に過大な放射線被曝を与える可能性のある施設
[Roman4 ])使用済燃料を冷却するための施設
[Roman5 ])放射性物質の放出を伴うような場合、その外部放散を抑制するための施設でAクラスに属さない施設
[cir3 ] Cクラスの施設…………
上記A、Bクラスに属さない施設
5 耐震設計評価法
(1) 方針
発電用原子炉施設は各クラス別に次に示す耐震設計に関する基本的な方針を満足していなければならない。
[cir1 ] Aクラスの各施設は、以下に示す設計用最強地震による地震力又は静的地震力のいずれか大きい方の地震力に耐えること。さらに、ASクラスの各施設は、以下に示す設計用限界地震による地震力に対してその安全機能が保持できること。
[cir2 ] Bクラスの各施設は、以下に示す静的地震力に耐えること。また共振のおそれのある施設については、その影響の検討をも行うこと。
[cir3 ] Cクラスの各施設は、以下に示す静的地震力に耐えること。
[cir4 ] 上記各号において、上位の分類に属するものは、下位の分類に属するものの破損によって波及的破損が生じないこと。
(2) 地震力の算定法
5.(1)で述べた設計用最強地震及び設計用限界地震による地震力並びに静的地震力の算定は以下に示す方法によらなければならない。
[cir1 ] 設計用最強地震及び設計用限界地震による地震力
設計用最強地震及び設計用限界地震による水平地震力は5(3)の「基準地震動の評価法」に定める基準地震動より算定するものとする。
なお、水平地震力は、基準地震動の最大加速度振幅の1/2の値を鉛直震度として求めた鉛直地震力と同時に不利な方向の組合せで作用するものとする。ただし、鉛直震度は高さ方向に一定とする。
[cir2 ] 静的地震力
(1) 建物・構築物
水平地震力は、原子炉施設の重要度分類に応じて以下にのべる層せん断力係数に当該層以上の重量を乗じて算定するものとする。
Aクラス 層せん断力係数 3.0C1
Bクラス 層せん断力係数 1.5C1
Cクラス 層せん断力係数 1.0C1
ここに、層せん断力係数のC1は、標準せん断力係数を0.2とし、建物・構築物の振動特性、地盤の種類等を考慮して求められる値とする。
Aクラスの施設については、鉛直地震力をも考慮することとし、水平地震力と鉛直地震力は、同時に不利な方向の組合せで作用するものとする。鉛直地震力は、震度0.3を基準とし、建物・構築物の振動特性、地盤の種類等を考慮して求めた鉛直震度より算定するものとする。ただし、鉛直震度は高さ方向に一定とする。
(2) 機器・配管系
各クラスの地震力は、上記(i)の層せん断力係数の値を水平震度とし、当該水平震度及び上記(i)の鉛直震度をそれぞれ20%増しとした震度より求めるものとする。
なお、水平地震力と鉛直地震力とは同時に不利な方向の組合せで作用するものとする。
ただし、鉛直震度は高さ方向に一定とする。

(3) 基準地震動の評価法
原子炉施設の耐震設計に用いる地震動は、敷地の解放基盤表面における地震動に基づいて評価しなければならない。
敷地の解放基盤表面において考慮する地震動(以下「基準地震動」という。)は、次の各号に定める考え方により策定されていなければならない。
[cir1 ] 基準地震動は、その強さの程度に応じ2種類の地震動S1及びS2を選定するものとする。
(1) 上記基準地震動S1をもたらす地震(「設計用最強地震」という。)としては、歴史的資料から過去において敷地又はその近傍に影響を与えたと考えられる地震が再び起こり、敷地及びその周辺に同様の影響を与えるおそれのある地震及び近い将来敷地に影響を与えるおそれのある活動度の高い活断層による地震のうちから最も影響の大きいものを想定する。
(2) 上記基準地震動S2をもたらず地震(「設計用限界地震」という。)としては、地震学的見地に立脚し設計用最強地震を上回る地震について、過去の地震の発生状況、敷地周辺の活断層の性質及び地震地体構造に基づき工学的見地からの検討を加え、最も影響の大きいものを想定する。
[cir2 ] 基準地震動S1、S2を生起する地震については、近距離及び遠距離地震を考慮するものとする。なお、基準地震動S2には、直下地震によるものもこれに含む。
[cir3 ] 基準地震動の策定に当たっては以下の各項を十分に考慮するものとする。
(1) 敷地及びその周辺地域に影響を与えた過去の地震について、そのマグニチュード、震央、震源、余震域及びその時の地震動の最大強さ(またはその推定値)と震害状況(構造物の被害率、墓石の転倒等を含む。)
(2) 過去の破壊的地震動の強さの統計的期待値
(3) 地震のマグニチュード及びエネルギー放出の中心から敷地までの距離
(4) 過去の観測例、敷地における観測結果及び基盤の岩質調査結果
[cir4 ] 上記により、基準地震動は、次のそれぞれが適切であると評価できるものでなければならない。
(1) 地震動の最大振幅
(2) 地震動の周波数特性
(3) 地震動の継続時間及び振幅包絡線の経時的変化
6 荷重の組合せと許容限界
 耐震安全性の設計方針の妥当性を評価するに際して検討すべき耐震設計に関する荷重の組合せと許容限界の基本的考え方は以下によらなければならない。
(1) 建物・構築物
[cir1 ] ASクラスの建物・構築物
(1) 基本地震動S1等との組合せと許容限界
 常時作用している荷重及び運転時に施設に作用する荷重と、基準地震動S1による地震力又は静的地震力とを組み合わせ、その結果発生する応力に対して、安全上適切と認められる規格及び基準による許容応力度を許容限界とする。
(2) 基準地震動S2との組合せと許容限界
 常時作用している荷重及び運転時に施設に作用する荷重と基準地震動S2による地震力との組合せに対して、当該建物・構築物が構造物全体として十分変形能力(ねばり)の余裕を有し、建物・構築物の終局耐力に対し妥当な安全余裕を有していること。
[cir2 ] Aクラス(ASクラスを除く。)の建物・構築物
上記[cir1 ](i)「基準地震動S1等との組合せと許容限界」を適用する。
[cir3 ] B、Cクラスの建物・構築物
常時作用している荷重及び運転時に施設に作用する荷重と、静的地震力を組み合わせ、その結果発生する応力に対して、上記[cir1 ](i)の許容応力度を許容限界とする。
(2) 機器・配管系
[cir1 ] ASクラスの機器・配管
(1) 基準地震動S1等との組合せと許容限界
 通常運転時、運転時の異常な過渡変化時、及び事故時に生じるそれぞれの荷重と基準地震動S1による地震力又は静的地震力とを組み合わせ、その結果発生する応力に対して、降伏応力又はこれと同等な安全性を有する応力を許容限界とする。
(2) 基準地震動S2との組合せと許容限界
 通常運転時、運転時の異常な過渡変化時、及び事故時に生じるそれぞれの荷重と基準地震動S2による地震力とを組み合わせ、その結果発生する応力に対して、構造物の相当部分が降伏し、塑性変形する場合でも過大な変形、亀裂、破損等が生じ、その施設の機能に影響を及ぼすことがないこと。
[cir2 ] Aクラス(ASクラスを除く。)の機器・配管
上記[cir1 ](i)「基準地震動S1等との組合せと許容限界」を適用する。
[cir3 ] B、Cクラスの機器・配管
 通常運転時、運転時の異常な過渡変化時の荷重と静的地震力とを組み合わせ、その結果発生する応力に対して、降伏応力又はこれと同等な安全性を有する応力を許容限界とする。
解説
 動的解析に係る「基準地震動の評価」、「活断層の評価」、「静的地震力」及び「地震力と他の荷重との組合せと許容限界」について以下に説明する。
[Roman1 ] 基準地震動の評価について
1 基準地震動に関して使用する用語の意味解釈は次による。
(1) 「解放基盤表面」とは基盤(概ね第三紀層及びそれ以前の堅牢な岩盤であって、著しい風化を受けていないもの)面上の表層や構造物がないものと仮定した上で、基盤面に著しい高低差がなく、ほぼ水平であって相当な拡がりのある基盤の表面をいう。
(2) 「活断層」とは第四紀(約180万年前以降)に活動した断層であって、将来も活動する可能性のある断層をいう。活断層の認定は地形学的及び地質学的調査並びに地震観測資料等によって求めるものとする。
(3) 「地震地体構造」とは地震規模、震源深さ、発震機構、地震発生頻度等に着目するとき、地震の発生の仕方に共通の性質をもっているある拡がりをもった一定の地域の地質構造をいう。
2 基準地震動は、原子炉施設の建物・構築物及び機器・配管の重要度に相応した地震動として、その強さの程度に応じS1、S2の二種に区分することとした。
(1) 基準地震動S1の決定に際して考慮すべき地震は、工学的見地から起こることを予期することが適切と考えられる地震である。すなわち、歴史的証拠から過去において敷地又はその近傍に影響を与えたと考えられる地震が、近い将来再び起こり敷地及びその周辺に同様の影響を与えるおそれがあると考えることは妥当であると思われる。また近い将来敷地に影響を与えるおそれのある活動度の高い活断層による地震を考慮することも必要である。これらのうち敷地の基盤に最大の地震動を与える地震を設計用最強地震といい、これが現実に起こることを仮定して建物・構築物及び機器・配管に基準地震動S1を与えるものとしたのである。
(2) 基準地震動S2の決定に際して考慮すべき地震は、地震学的見地に立てば設計用最強地震を超える地震の発生が否定できない場合があるので地震学上設計用最強地震を上回る地震が比較的近い時代に発生したことがあると判断される場合、さらに工学的見地からの検討を加えて、これが将来再び起こると仮定したものである。しかし地震地体構造の見地及び過去の地震の発生状況からすると、それぞれの地震発生区域ごとに地震の上限があるとみなすことができるのでそのような地震の規模と発生域を敷地周辺の活断層及び地震地体構造に基づいて考えることは可能である。これら地震のうち敷地の基盤に最大の地震動を与える地震を設計用限界地震とし、それが起こると仮定して建物・構築物及び機器・配管の基準地震動S2を与えたのである。
また解放基盤表面におえる地震動の諸特性は震源距離によって異なるので、設計用最強地震及び設計用限界地震の策定において近距離及び遠距離の地震を考慮することとした。
3 基準地震動を評価するに当たって考慮すべき事項を以下に示す。
(1) 評価に際して考慮すべき過去の地震の範囲は敷地の基盤の地震動を策定する上で考慮に含めることが望ましいと考えられる地震、たとえば敷地又はその周辺地域に気象庁震度階震度[Roman5 ]以上の地震動を与えたか又は与えたと推定される地震とする。過去の地震ではできる限り多くの資料について調査されなければならない。資料にマグニチュード、震央位置、震源深さ、余震域、被害状況等可能な限りの情報が網羅されていなければならない。また地震の被害状況と地形又は地盤との関係についても調査することが望ましい。なお、地域によっては歴史地震の空白地帯が存在することが認められている。このような場合には、周辺領域の地震について十分な調査を行うものとする。
(2) 「地震動の強さの統計的期待値」とは、たとえば河角マップあるいは金井マップのような統計的な研究成果に基づいて、敷地の基盤に起こると推定される震度、最大加速度又は速度をいう。これらの値は破壊的地震のマグニチュードと震源の見直しや、対象とする地震の範囲あるいは調査期間によって異なるので、最近までに得られた知見に基づき要すれば改めて統計的期待値を算出するものとする。
(3)
1)設計用最強地震のマグニチュードは、敷地に影響を与えた過去の地震の生起状況を主体として、近距離に存在する活断層の状況などを考慮して定め、また、設計用限界地震のマグニチュードは、地震地体構造及び近距離に存在する活断層の規模等を考慮して定めなければならない。
 大地震は一般に同一地域でくり返し起こると認められているので、基本的には設計用最強地震のマグニチュードは敷地あるいはその近傍に影響を与えた過去の地震によって定められるものと考えられる。なお古い地震資料には不備があるかもしれないことを考慮し、また、有史期間にはたまたま発生しなかったくり返し期間の長い地震の生起を看過することがないよう、確実な地質学的証拠と工学的判断に基づいて近い将来敷地に影響を与えるおそれのある活動度の高い活断層による地震を考慮に入れることとする。
 設計用限界地震のマグニチュードは、地震地体構造及び歴史地震の分布等を地域ごとに考慮して定めることができるが、近距離に存在する活断層にも着目することとしている。しかし活断層の性質(発生する地震の規模や頻度等)は断層ごとに著しい差異があり、すべての活断層を等しく考慮に入れることは実際的でない。たとえば今後活動する可能性があるとはいえ、大地震発生の可能性が極めて低い活断層に対して、再びそれが発生することを予期するのは、工学的見地からは必ずしも適切とはいえない。したがって活断層を考慮する場合には、その活動度を評価しその大小に応じた考慮を行うものとする。
2)設計用最強地震あるいは設計用限界地震のエネルギー放出の中心から敷地までの距離は、過去の地震エネルギー放出の中心、近距離に存在する活断層の位置、及び地震地体構造を考慮して定めなければならない。
 地震と敷地の相互関係は地震のエネルギー放出の中心から敷地までの距離で表わすものとする。ただし、地震のエネルギー放出中心が敷地から十分な距離だけ隔たっている場合は震央距離をもってかえることができる。
3)なお、基準地震動の策定に当たって基準地震動S2として考慮する近距離地震にはM=6.5の直下地震を想定するものとする。
4)地震動の最大振幅、周波数特性、継続時間、振幅包絡線の経時的変化等と、地震のマグニチュード、震源距離あるいは基盤の岩質等、それぞれの間には、過去の観測結果に基づいて相関関係を求めた研究成果がかなりあり、必要に応じて参考とすべきである。しかし、これらの成果を参照する場合には、基礎となった観測資料について十分吟味する必要がある。
 敷地における観測結果は、有力な資料となる。しかし、微小な地震動の観測記録しか得られない場合が多く、このような記録を参照する場合には、強い地震動との諸性状の差異に十分留意することが必要である。
4 基準地震動の策定は最大振幅、周波数特性、継続時間及び振幅包絡線の経時的変化の三要素に基づいて定めることとした。これは基準地震動がこの三要素によって適切に表現できることを踏まえたものである。
(1) 地震動の最大振幅
 地震動の振幅は速度で表わすことを原則とする。しかし、一般に短周期領域においては加速度振幅が大となり、建物・構築物及び機器・配管の設計に支配的な影響を与える傾向があるので、この点に関して注意する必要がある。
 解放基盤表面の地震動の水平方向における最大速度振幅は、地震動の実測結果に基づいた経験式あるいは適切な断層モデルに基づいた理論値を参照して定めることができる。なお、実測結果に基づいた経験式は、地震のマグニチュードに応じた震源域の外ではその適用性も実証されているが、一般に震源域内では大き目の値を与えることもあり、震源域内では震源近傍の地震動の諸特性を考慮して補正あるいは震害状況から地震の強さを推測する等の方法によることは差し支えない。
(2) 地震動の周波数特性
 基盤における地震動の周波数特性は、地震のマグニチュード、エネルギー放出の中心からの距離及び基盤の振動特性等に支配されることから、これら因子について考察するほか、敷地の基盤における地震動、常時微動観測結果、又は類似の基盤における既往の測定資料等を参考として定めるものとする。
(3) 地震動の継続時間及び振幅包絡線の経時的変化
 継続時間としては、地震動の開始からそれが実効上消滅するとみなされるまでの時間を考慮する。また地震動の継続時間及び振幅包絡線と地震のマグニチュードとの間には密接な相関があると考えられるので、それぞれ設計用最強地震及び設計用限界地震のマグニチュードに応じて定めるものとする。
[Roman2 ] 活断層の評価について
活断層によって発生すると考える地震は活断層の活動度によって、基準地震動S1又は基準地震動S2を敷地基盤に与える地震に分類されるが、それぞれ活断層を評価するに際しての判断の基準のめやすは、以下による。
1 基準地震動S1の発生源としては、以下の事項を評価上考慮する。
(1) 歴史資料により、過去に地震を発生したと推定されるもの
(2) A級活断層に属し、10,000年前以降活動したもの、又は地震の再来期間が10,000年未満のもの
(3) 微小地震の観測により、断層の現在の活動性が顕著に認められるもの
2 基準地震動S2の発生源としては、以下の事項を評価上考慮する。
(1) 上記1(2)を除きA級活断層に属するもの
(2) B及びC級活断層に属し、50,000年前以降活動したもの、又は地震の再来期間が50,000年未満のもの
3
(1) 地震の再来期間(R年)は、歴史資料及び地震地体構造的な考慮に基づいて推定するが、わが国の内陸における活断層については、
R=10(0.6M-1)/S
R:再来期間(年)
M:マグニチュード
S:平均変位速度(mm/年)
によって推定することができる。
(2) 上記A、B及びC級活断層の分類は、次の平均変位速度により判断する。
A級 1≦S S:平均変位速度(mm/年)
B〃 0.1≦S<1
C〃 S<0.1
[Roman3 ] 静的地震力について
静的地震力の算定は以下による。
1 水平地震力
(1) 水平地震力については、建物・構築物の各部分の高さに応じ、当該部分に作用する全体の地震力として算定するものとし、次の式による。
Q1=n・z・C1・W1
C1=Rt・AI・CO
この式において
Q1:水平地震力
n :重要度に応じた係数(Aクラス3.0、Bクラス1.5、Cクラス1.0)
z :地震地域係数(1.0とする。)
C1:せん断力係数
W1:当該部分が支える重量
Rt:振動特性係数で、次の表によって算出するものとする。
ただし、特別の調査又は研究の結果に基づき、建物・構築物の振動特性を表わす数値が同表の式によって算出した数値を下回ることが確かめられた場合においては、当該調査又は研究の結果に基づく値(0.7を限度とする。)まで減じたものとすることができる。

【表は省略】

Ai:せん断力係数の分布係数で、次式によって算出する。
ただし、建物・構築物の振動特性について特別な調査又は研究の結果に基づいて算出する場合においては、当該算出によることができる。
Ai=1+((1/(αi))-αi)(2T/(1+3T))
この式において、
αi:建物・構築物のAiを計算しようとする高さの部分が支える部分の固定荷重と積載荷重との和を当該建物・構築物の固定荷重と積載荷重との和で除した数値
T:建物・構築物の設計用一次固有周期(単位 秒)
CO:標準せん断力係数で0.2とする。
(2) 建物・構築物の地下部分に作用する地震力は、当該部分の固定荷重と積載荷重との和に、次式による水平震度を乗じて算定することができる。
 ただし、建物・構築物の当該部分の外周側面の一部が、地盤と接していない場合にあっては、特別な調査又は研究に基づいて、当該地下部分の地震力算定の規定を適用できることの妥当性を示さなければならない。
K≧0.1・n・(1-H/40)・Z
この次において、
K:水平震度
n:重要度に応じた係数(Aクラス3.0、Bクラス1.5、Cクラス1.0)
H:地下部分の各部分の地盤面からの深さ(20を超えるときは20とする。)(単位 メートル)
z:地震地域係数(1.0とする。)
なお、地震時における建物・構築物の振動の性状を適切に評価して計算することができる場合には、当該計算によってもよい。
2 鉛直地震力
Aクラスの静的地震力算定における鉛直地震力は、次式による鉛直震度から算定する。
CV=RV・0.3
この次において、
CV:鉛直震度
RV:鉛直方向振動特性係数で1.0とする。ただし、特別の調査又は研究の結果に基づき、1.0を下回ることが確かめられた場合においては、当該調査又は研究の結果に基づく数値(0.7を限度とする。)また減じたものとすることができる。
3 なお、建物・構築物については、当該建物・構築物の保有水平耐力が必要保有水平耐力に対して重要度に応じた妥当な安全余裕を有していることを確認するものとする。
必要保有耐力を計算する場合には次の式による。
Qun=Ds・Fes・Qud
この式において
Qun:各層の必要保有水平耐力(単位 トン)
Ds:各層の構造特性係数
Fes:各層の形状特性係数
Qud:地震力によって各層に生ずる水平力(単位トン)で、解説の[Roman3 ]、1水平地震力の算定方法による。ただし、この場合、重要度に応じた係数及び標準せん断力係数は1.0とする。
ここで、Dsは当該建物・構築物の振動に関する減衰性及び当該層の靭性を適切に評価して算出する値とする。また、Fesは、当該層の剛性及び偏心率と形状特性との関係を適切に評価して算出する値とする。
[Roman4 ] 地震力と他の荷重との組合せと許容限界について
耐震安全性の設計方針の妥当性を評価するに際して考慮すべき荷重の組合せについては、「6 荷重の組合せと許容限界」に示すとおりであるが、荷重の組合せ方等についての解釈は以下による。
(1) 「運転時の異常な過渡変化時及び事故時に生じるそれぞれの荷重」については、いずれも地震によって引き起こされるおそれのある事象によって作用する荷重について考察すればよいことを意味する。
また、「事故時に生じる荷重」であっても、その事故の発生事象が極めて稀であり、かつその事故事象が極めて短期に終結するものであれば、そのような事象によって発生する荷重までも地震力と組み合わせて考慮する必要はない。
上記にかかわらず、地震動によって引き起こされるおそれのない事象であっても、一たん事故が発生した場合は長時間事象が継続するものであれば、そのような事故事象によって発生する荷重は地震力と組み合わせて考慮しなければならない。
(2) 建物・構築物の基準地震動S1等との組合せに対する許容限界については「安全上適切と認められる規格及び基準による許容応力度」としたが、具体的には「建築基準法」等がこれに対応する。
(3) 建物・構築物の基準地震動S2との組合せに対する項目中「終局耐力」とは構造物に対する荷重を漸次増大した際、構造物の変形又は歪みが著しく増加する状態を構造物を終局状態と考え、この状態に至る限界の最大荷重負荷を意味する。
(4) 機器・配管系の許容限界については、「発生する応力に対して降伏応力又はこれと同等な安全性」を有することを基本的な考え方としたが、具体的には、電気事業法に定める「発電用原子力設備に関する技術基準」等がこれに対応する。

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