[2021_12_08_12]原因と防止策、県民に示せ/米軍F16タンク投棄 (東奥日報2021年12月8日)
 
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原因と防止策、県民に示せ/米軍F16タンク投棄

 米軍三沢基地所属のF16戦闘機が、深浦町に燃料タンク2個を投棄した問題で、当の米軍や日本政府からトラブルの発生原因など地元に対する説明は、いまだ不十分なままである。
 人的被害がなかったから、被害が比較的軽微に済んだから、あるいは機体がほぼ無傷で基地に帰還したからといって済む問題ではない。米軍は詳細に原因を探り、県民が納得ゆくまで説明と謝罪をし、再発防止策を示さなければならない。県や深浦町も手をこまぬくことなく、住民の安心・安全を確保するため、引き続き米軍に対して強い怒りの気持ちを伝えるべきである。
 同時に県民は、ふだん生活する上で縁遠いはずの軍事施設が、実は身近に存在しているという現実をあらためて直視する必要があろう。
 トラブルは11月30日午後6時10分すぎ、米軍機が青森空港に緊急着陸−として日本側に伝わった。民間空港への軍用機飛来であり、緊張が走った。滑走路は閉鎖され7便が欠航に追い込まれた。
 緊急着陸の直前、深浦町内では大きな衝撃音が響いた。その後、町中心部を貫く国道101号沿いで不審物1個が見つかり、異臭がするとの情報が町内を駆け巡った。近くにはJR五能線も通る。
 タンク投棄について防衛省東北防衛局が米大使館の情報として地元に連絡を入れたのは、発生から約3時間半たってから。その間、地元では確かな情報もなく、対処に苦慮した。
 日米地位協定の実施に伴う特例法で、日本の航空法の一部規定が除外され、事故の詳細や落下物を日本側に報告する必要はない。米軍にしてみれば今回もルールに沿った対応なのだろう。だが、そこには地上に暮らすわれわれ県民、日本人に対する視線が決定的に欠けている。これまでに何度も繰り返されてきたトラブルと同様、米軍による地元軽視の姿勢が見て取れる。
 米軍のおざなりな態度は、タンク投棄地点を「岩木山近くの非居住地域」とした当初の発表内容にも表れた。
 1個目のタンクは、最も近い民家まで20〜30メートルの地点で発見。付近には家屋や商店、集会所が並ぶ。その2日後、学校や農場からさほど遠くない山林内で2個目が見つかった。容量1400リットルのタンクからは周囲に燃料が飛散。なぎ倒された木が、事故の衝撃の大きさを物語る。
 投棄されたとみられる午後6時ごろの国道101号には、仕事帰りや買い物に出歩く町民らの車両が頻繁に行き交う。学校は子どもらが下校する時間帯で、山林近くの農場にも作業中の町民がいた。
 燃料タンクを切り離すタイミングや角度が、少しでもずれていたら、風の向きや強さが違っていたら、人や車、建物への直撃など大惨事となった可能性も捨てきれない。自分が被害者になっていたかもしれない近くの住民は「ぞっとした」と声を震わせた。
 だが米軍は、安全が確認されるまで同型機の国内での飛行見合わせを日本側が要請したにもかかわらず、その翌日に訓練を再開した。地域感情をないがしろにする姿勢に対して三村申吾知事が「米軍との関係が大きく崩れかねない」と防衛相に伝えたのは当然である。
 深浦町民をはじめとする県民の受けた恐怖感や衝撃について、米軍はあらためて思いを致すべきである。
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