【記事26630】未熟な地震学(東奥日報2011年11月10日)
 

※以下は上記本文中から重要と思われるヶ所を抜粋し、テキスト化したものである

 マグニチュード(M)9.0の巨大地震というおおかたの予想を超える東日本大震災が発生したことを受け、地震学着から「地震学の敗北だ」との声が上がっている。
 地震学は本当に敗北したのか。過去の記録から東北沖合の地震はM8の前半までという見方はあった。だがそれは一つの仮説にすぎなかった。検証されたわけではないのだ。
 問題は仮説がいつの間にか、政府のお墨付きのもっともらしい「予測」となってしまったことにある。
 そこで異議を唱えなかった地震学者たちの責任はある。人間関係や、自らの研究分野を守ろうとするムラ意識。地震を予知できないのに、国家町研究プロジェクト「地震予知計画」や、大規模地震対策特別措置法を延命させたのと同じ構図だ。
 しかし本当に敗北したのは、まだまだ未熟な地震学を、その実力を超えるレベルで防災に使おうとした企てなのだ。その点を検証し、改めていく必要がある。
 1995年の阪神大震災を機に、政府はそれまでの地震予知推進本部を廃止して、地震調査研究推進本部をつくり、国内の地震の「長期評価」を進めてきた。
 その中で、地表近くに地震が残した傷痕″である活断層などを調べ、将来どこでどんな地震が起こるのかという予測と、その地震がこの先30年、50年といった期間に起こる確率を示している。
 だが、予測や確率を導く方法に誰もが納得しているわけではない。仮説にすぎないのだ。科学でば仮説は論文で発表し、批判を仰ぐのが普通なのに、長期評価にはそんなプロセスもない。
 さらに長期評価は東日本大震災は言うまでもなく、2008年の岩手・宮城内陸地震(M7.2)など近年の大きめの地震も予測することができず、実用性にも大いに疑問が持たれている。
 科学にも社会にもあまり役に立っていないのだから、多くの税金を投じて続ける理由はない。推進本部は長期評価から手を引くべきだ。後は普通の研究に任せればいい。
 大震災で問題となった原発の地震対策でも、耐震設計に使う地震の想定を改める必要がある。
 現在は長期評価と同様、個々の原発で周辺の活断層などを調べ、将来起こり得る地震を想定する。だが、その予測が当たる保証はない。それが地震学の今の実力なのだ。
 今回の原発事故の最大の教訓は「原発は最悪の事態に備えなければならない」ということだ。立地場所によらず、最大の揺れ、最大の地盤変形、最大の津波を全国一律で定めるのが基本だろう。
 脱原発といっても、即廃止というわけにはいかないのが現実だ。対策見直しには費用がかかるが、地震大国で運転を続ける以上、避けては通れない。政府が進める原発の耐震基準見直し作業では、.研究者も地震学が正しく使われるよう作業に参加したり、外から積極的に発言したりしてほしい。それが信頼を取り戻す道ではないか。(共同通信記者 辻村達哉)

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