[2021_03_11_09]「原発銀座」に廃炉の波 震災10年経て「第2の安全神話」懸念(毎日新聞2021年3月11日)
 
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「原発銀座」に廃炉の波 震災10年経て「第2の安全神話」懸念

 炉心溶融(メルトダウン)を伴う東京電力福島第1原発事故を引き起こした、2011年3月11日の東日本大震災。原発の「安全神話」は崩れ、かつて15基(研究炉含む)の原子炉が並び「原発銀座」と呼ばれた福井県内もこの10年で様変わりした。
 福島事故では、巨大津波に襲われて、全電源を喪失。冷却機能を失った1〜3号機は炉心溶融を起こし、水素爆発で大量の放射性物質が大気中に放出された。事故後、12年に発足した原子力規制委員会のもと、全国の原発は津波・地震対策が強化され、炉心損傷などを想定した過酷事故対策も義務化。その結果、県内に訪れたのが「廃炉の波」だった。
 1970年の大阪万博に「原子の灯」を届けた日本原子力発電敦賀原発1号機は、15年4月に廃炉となった。背景には老朽化に加えて出力規模が小さく、多額の安全対策費用を考えると、採算が取れないとの判断があった。一方、2号機は安全審査を申請したが、建屋直下に活断層があると指摘され、審査は現在も続く。3、4号機の増設計画も宙に浮き、建設予定地は一時、関西電力の資機材置き場になっていた。
 関電の高浜、大飯、美浜の3原発では、16年1、2月に高浜3、4号機が新規制基準下で最初に再稼働した。しかし、同3月には大津地裁が「福島事故を踏まえた対策や緊急時の対応などに危惧すべき点がある」として運転停止を命じる仮処分決定を出し、停止に追い込まれた。
 異議が認められ、2基はそれぞれ17年5、6月に再稼働したが、県内に限らず全国の司法の場で「3・11後の原発の安全性」に同様の疑義が付く場面が目立っている。
 大飯原発3、4号機は、12年7月、電力不足を理由に政治判断で再稼働した原発だ。それぞれ約1年2カ月後に停止するも、新規制基準下で3号機は18年3月、4号機は5月に再稼働。一方、1、2号機は事故時に氷を使う独特の構造で、関電は安全対策に多額の費用がかかるとして廃炉を決めた。
 美浜原発は15年4月に1、2号機が廃炉になった。一方で、出力が80万キロワット超の3号機は老朽化対策をすることで、規制委が20年間の運転延長を認めた。

 ◇淘汰が進んだ一方「延命」も可能に

 福島事故のような「想定外」への対応を求めた結果、安全対策とコストのはざまで電力各社がそろばんをはじいた末に原発の「淘汰(とうた)」が進んだこの10年。一方、震災後に定められた原発の寿命を「運転開始から40年」とする原則は既に骨抜きとなり、美浜3号、高浜1、2号のように、審査をクリアするのに多額の費用をかけ必要な追加の対策をしたうえで活断層などの問題さえなければ、原発の「延命」も可能なのが現状だ。
 福島事故後、確かに安全基準は引き上げられた。県内の原発の状況について、県の原子力関係者は「世界最高水準の審査で安全性は確保されている。今の福井で福島のような事故が起こるとは考えにくい」と話す。しかし、本当にそう言い切れるのか?
 20年12月に大飯原発3、4号機の耐震の基準を巡って、大阪地裁が「(審査には)看過しがたい過誤がある」として国の設置許可を取り消したことは記憶に新しい(国は控訴)。安全審査での地質のデータなどを原電が無断で書き換えた問題では国の立ち入り検査にまで発展し、テロ対策施設の完成遅れの問題もある。関電原発を巡る金品受領問題も発覚し、県内原発の安全や信頼を根幹から揺るがす問題は現在も続いている。
 思えば稼働ありきで安全をおろそかにし、トラブルなどを隠蔽(いんぺい)しようとしてきたのが原子力の歴史だった。1995年にもんじゅで起きたナトリウム漏れ事故では直後に撮影したビデオ映像を一部カットして公開。2007年には北陸電力と東電が臨界事故を隠していたことが判明した。震災10年を経ても原子力の安全追求に終わりはなく、過ちを繰り返していないか、「第2の安全神話」に陥っていないかどうかをこれからも問い続けなければならない。【岩間理紀】

 ◇原子力抜きで自立できる地域作りを 大島堅一・龍谷大教授

 震災後の10年で県内の原発事情は大きく変わった。鯖江市出身でエネルギー政策に詳しい大島堅一・龍谷大教授(環境経済学)に原発行政や廃炉後の地域のあり方など「福井への提言」をしてもらった。【聞き手・横見知佳】

 ――東京電力福島第1原発事故後の県内の原発の動きは?
 ◆10年で原子力安全規制が強まった結果、採算性がないと判断された美浜1、2号機や大飯1、2号機の他、もんじゅの廃炉が決まった。福井は原発ゼロの動きの先駆けになった。また、関西電力幹部らの金品受領が明らかになり、社会に大きな影響を与えた。電力行政の中で初めて業務改善命令が関電に出されたことは福井にとって大きな出来事だった。

 ――金品受領問題で明らかになったことは?
 ◆福島事故後の10年間で関電などの事業者は総額1兆円以上を若狭地域に投入し、原発の立地地域との一体関係がはっきりと見えてきた。
 本来は緊張関係にあるべきで、両者は同じ利害関係にない。立地地域にとっては、何よりも安全や健康が大事なはずなのに、「一緒に(原発を)動かしましょう」という緊張感のない構図が明らかになった。金銭で何もかも解決しようという手法は問題だ。

 ――再稼働の動きをどう分析する?
 ◆(新規制基準に対応するための)安全対策工事が始まり、若狭地域の10年は好景気だった。しかし、経済効果は地元の建設業など限定的で、県全体で見ると大きくない。原発の運転を延長したとしてもあと20年ほどで衰退する。地元は工事がなければ潤わない。原発が衰退するという前提の中で、地域をどう再生していくかというのがこれからの課題となる。

 ――杉本達治知事は中間貯蔵施設の問題と40年超原発の再稼働を切り離して議論する意向を示した
 ◆使用済み核燃料や廃棄物の問題は、原発の運転にあたって前提となる。そこを抜きにするのは、県民に対する裏切り行為。問題を放置して再稼働を認めることは約束違反だ。
 県知事がイエスと言えばそれで良いのかという問題もある。県は、立地行政として県民から広く意見を募り、再稼働を検討しなければならない。プロセスは工夫すればたくさんある。それをやっていないのは情けない。

 ――最後に福井への提言を
 ◆原発はどんなに頑張っても衰退していくことは避けられない。課題を県民と対話できる場を設け、次の社会を展望できるような仕組みを作らないといけない。若者にも参加してもらい、原子力抜きで自立できる地域作りをしてほしい。
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