[2019_12_11_01]「このままでは原発はなくなる」 田中俊一前規制委員長、信頼回復失われた(福井新聞オンライン2019年12月11日)
 
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「このままでは原発はなくなる」 田中俊一前規制委員長、信頼回復失われた

 関西電力の役員らが、福井県高浜町元助役の森山栄治氏(故人)から計約3億2千万円相当の金品を受け取り、福井県職員の現職・OBら計109人も受領していたことが明らかになった問題で原子力規制委員会の田中俊一前委員長に思いを聞いた。田中氏は規制委員長時代に高浜3、4号機の再稼働を認可した。

 ―関西電力役員らの金品受領問題をどう受け止めたか。

 「遺憾であり残念。福島第1原発事故以降、(関電が)東京電力に代わり電力事業者のリーダーとして、信頼回復に努めるべきだとの思いを持っていたが、それが裏切られた思いだ」

⇒インタビュー連載 「関電金品受領 私はこう見る」

 ―背景をどう見る。

 「関電と高浜町の元助役のような『持ちつ持たれつ』の構造はこの問題だけに限らない。日本の原子力事業では、原発立地自治体と国、電力事業者の間によく言えば『共存共栄』、悪く言えば『もたれ合い』の構造がある。実際、福井県もこれまで関電の原発事業だけでなく『もんじゅカード』を使ってきたところがある。正当な理由があれば否定することではないが、原子力を人質のように扱ってきたところもあり、根本では今回の不祥事とつながる点がある」

 ―田中氏と高浜原発への関わりは。

 「自らが規制委員長として3、4号の再稼働を許可し、現地を視察し地元の皆さんへの説明も行った。高浜は再稼働後、緊急停止につながるような大きなトラブルを起こさずに現在に至っており、少しずつ信頼回復への実績を積んできていたと認識していたが、そうした信頼がこの問題で失われたのではと思うと、とても残念だ」

 ―関電には厳しい目が注がれている。使用済み燃料の中間貯蔵施設の立地地点の明示が困難な状況だ。

 「個人的には、海外の多くの国と同様、使用済み燃料を乾式容器に収納し、しばらくは原発敷地内で保管することがいいと思っている。敦賀地区は浦底断層があるので、原発の再稼働や増設は相当困難。中間貯蔵施設なら可能性はあるかもしれない。乾式容器であれば100〜200年は安全に保管できるので、その間に国民とじっくり議論し処分方法を決めるのがよい。急いで最終処分地を探しても見つからない」

 ―日本の原発の将来は。

 「福島第1原発事故で崩壊した信頼は、新規制基準に基づいて再稼働した原発の安全稼働により少しずつ回復していた。しかし、今回の問題で再び崩れ去った。今は与党内ですら脱原発の雰囲気が強い。このままでは、おそらく原発はすべてなくなる方向に向かうだろう」
 「ただ、この問題だけの議論とは別に、温暖化防止やエネルギーの安定供給の観点から、原子力の在り方をもう一度議論しないといけない。火力の比重が増えれば温室効果ガスが増加し、再生可能エネルギーが増えれば国民の電力料金の負担が大きくなる。中東に大きく依存している原油の確保を巡っても、中東情勢に一喜一憂することにもなる。来年は、原発の営業運転が始まってちょうど50年。この問題を機に、原子力エネルギー利用について原点に立ち返って、さまざまな観点から国民全体で議論すべきだ」

 ―福井県民は何ができる。

 「国内最大の原発立地県に住む福井県民は原発事業を左右する『キーマン』。原発の立地県、立地自治体として、改めて原子力利用について幅広い観点から議論し、考えていただきたい。原発関連の方が周囲にたくさんいる環境では、議論は難しいところもあるかもしれないが、この際、関電の本音もよく聞いて、その上で原子力との共存を図る道を探っていければ幸いだ」

 ■田中俊一(たなか・しゅんいち)氏 東北大工学部原子核工学科を卒業し1967年、日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)に入所。2004年副理事長。日本原子力学会会長、原子力委員会委員長代理を歴任。11年3月の福島第1原発事故後、福島県で除染活動に取り組む。12〜17年に原子力規制委員会の初代委員長を務め、現在は同県飯舘村の復興アドバイザー。福島市出身、74歳。


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