[2021_03_17_07]3.放射性廃棄物の地層処分について(16回の連載) 原発の解体に反対する理由 原子炉本体が含む放射性核種の量を開示していない 平宮康広(信州大学工学部元講師)(たんぽぽ舎2021年3月17日)
 
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3.放射性廃棄物の地層処分について(16回の連載) 原発の解体に反対する理由 原子炉本体が含む放射性核種の量を開示していない 平宮康広(信州大学工学部元講師)

◎ 2月16日に共同通信社が配信した記事によれば、廃炉=解体埋設処分が決まった国内の老朽商用原発は18基である。
 16万トン以上の低レベル放射性廃棄物が生じるとの予想であるが、「低レベル」は「安全レベル」なのか。
 共同通信社の記事からは、「低レベル」の基準や低レベル放射性廃棄物の中身が分からない。

◎ 1986年、日本原子力研究所(現在の日本原子力研究開発機構)は茨城県東海村にある動力試験炉=JPDR(出力1万2500kWの沸騰水型原子炉)の解体埋設処分に着手した。同年4月にチェルノブイリ原発事故が勃発したが、日本原子力研究所は解体作業を進行し、1995年に埋設処分を完了した。
 解体埋設処分後、日本原子力研究所はJPDRのコンクリート床とコンクリート遮蔽壁が含んでいた9種類の放射性核種の濃度、具体的にはコンクリート1トンあたりのトリチウムと炭素14、カルシウム41、コバルト60、ニッケル63、ストロンチウム90、セシウム137、ユウロピウム152、およびアルファ崩壊放射性核種の量=ベクレルを開示した。
 そして、9種類の放射性核種の濃度はすべて法律が定める範囲内にある、と豪語した。
 だが、コンクリートの総量は約1670トンである。日本原子力研究所がいう「法律」とやらは、放射性核種の総量を規制していない。

◎ より大きな問題が他にある。日本原子力研究所は、コンクリート床とコンクリート遮蔽壁が含んでいた放射性核種の量を開示したが、原子炉本体が含んでいた放射性核種の量を開示していない。放射性核種の量があまりに多いため、開示できなかったように思う。
 100万kW級の老朽商用原発を解体した場合、放射性核種の総量がどれくらいになるかは想像を絶する。
 それでも経産省と電力資本は、コンクリート床とコンクリート遮蔽壁が含む放射性核種の濃度を開示しつつ、原子炉本体が含む放射性核種の濃度および総量を隠蔽して老朽商用原発の解体埋設処分を強行すると思う。

◎ ところで、原発の稼働に反対する学者の中に、廃炉を主張する人がいる。さすがに、ただちに解体埋設処分しろとは言わない。放射線を帯びた鉄がコバルト60に変化すること、コバルト60の半減期が約5.7年であることを根拠にして、停止してからコバルト60の放射能が1000分の1以下になる約60年後に解体しろ、と言う。
 だが、原子炉の鉄は多量のニッケルを含むステンレス鋼である。
 ニッケル63の放射能半減期は約100年で、放射能が1000分の1以下になるのは1000年後である。廃炉を主張する学者は、1000年後に解体しろ、と言うべきだ。

 原発の稼働に反対しながら老朽商用原発の廃炉=解体を主張する学者は、解体した後の埋設処分を憂慮していない。
 日本原子力研究所は、解体した原発を敷地内の地下数m地点に溝を掘り埋設した。原子力ムラの住人たちが「トレンチ処分」と呼ぶこの埋設処分は、軽微な雨水浸水対策等を施しただけの「低地層処分」である。
 しかし、原子力ムラの住人たちは、解体した原発を「低レベル放射性廃棄物」と呼び、50年後に埋設した場所で家屋の建設や農耕が可能になる、と述べている。彼らにとって、50年後の低レベル放射性廃棄物は「安全レベル放射性廃棄物」である。
 だが、日本原子力研究所が開示した9種類の放射性核種の放射能半減期は、トリチウムが約12年、炭素14が約5730年、カルシウム41が約10万年、コバルト60が約5.7年、ニッケル63が約100年、ストロンチウム90が約28.8年、セシウム137が約30年、ユウロピウム152が約13.5年である。そしてアルファ崩壊放射性核種の中に、放射能半減期が非常に長い放射性核種が混ざっている。解体してトレンチ処分した原発が、50年後に「安全レベル放射性廃棄物」になるとはとても思えない。
 トレンチ処分でもっとも問題になる放射性核種はおそらく炭素14である。炭素は水によく溶ける。解体してトレンチ処分した原発は、雨水浸水対策等を施したとしても、地下水を放射能汚染する。
 現実に、福島の放射能汚染水でもっとも多量のベータ線を放出している放射性核種は炭素14である。トリチウム同様、多核種除去設備=ALPSで炭素14を除去することはできない。
 アメリカでは、放射能汚染水からトリチウムを除去する研究が進んでいる。日本でも、放射能汚染水からトリチウムを除去する研究がはじまっている。
 そのため、原発の稼働に反対していながら、トリチウムの除去が可能になれば福島の放射能汚染水の海洋投棄が可能になるかのような発言をする人がいる。
 だが、不勉強な彼は炭素14を見ていない。原発の稼働に反対しながら老朽商用原発の廃炉=解体を主張する学者も同様である。
 むろん「廃炉」という言葉が、原発の永久停止を意味するのであれば、廃炉はまったく正しい。
 永久停止した原発は、石材で密閉=石棺化すればよい。
 石棺化については後述するが、経産省と電力資本は老朽商用原発の解体と埋設処分を推進している。そしてリベラルな人々の一部が、経産省と電力資本の悪行に賛同している。 (その4につづく)

◎ 9種類の放射性核種について述べたが、原発の稼働により生じる放射性核種の種類は1000種類以上で、総量は想像を絶する。
 しかし経産省と電力資本は、解体した原発を「低レベル放射性廃棄物」と呼び、トレンチ処分を推進している。
 他方、原発の稼働で使用した核燃料=使用済み核燃料を「高レベル放射性廃棄物」と呼び、再処理=再加工してウランとプルトニウムを抽出した後、地層処分しようとしている。

◎ 再処理=再加工は、使用済み核燃料をせん断して硝酸で溶かし、溶けなかった不溶解残渣(ざんさ)を遠心分離機で分離する作業からはじまる。その後、硝酸液にリン酸化合物を注入し、ウランとプルトニウムを抽出する。そして硝酸液を蒸発缶で濃縮し、不溶解残渣を混ぜ合わせて溶融炉で溶かし、水分を除去してガラス固化する。経産省と電力資本は、このガラス固化体も「高レベル放射性廃棄物」と呼んでいる。
 せん断した使用済み核燃料を硝酸で溶かす場面で、多量の放射性希ガスが生じる。放射性希ガスが含むヨウ素129等は銀製フィルタで除去できるが、クリプトン85は除去できない。
 また、濃縮する場面で生じる水分や、ガラス固化する場面で除去する水分も多量の放射性核種を含んでいるが、福島の「ALPS」から察するに、トリチウムと炭素14を除去できない。

◎ 再処理=再加工は使用済み核燃料再処理工場でおこなう。使用済み核燃料再処理工場は多量のクリプトン85を大気中に放出し、多量のトリチウムと炭素14を海洋に放出する。
 クリプトン85の放射能半減期は11年弱である。使用済み核燃料再処理工場が放出するクリプトン85の量は、商用原発の200万倍との説もあるが、いわゆる「法律」は総量を規制していない。
 同じことがトリチウムと炭素14についても言える。

◎ 経産省と電力資本=NUMOは、使用済み核燃料再処理工場が「製造」したガラス固化体を地下300m以深の岩盤層に地層処分するつもりでいる。
 また、銀製フィルタの残渣、蒸発缶で硝酸液を濃縮する場面で生じる放射性核種の残渣、硝酸液からウランとプルトニウムを抽出する場面で生じる残渣も原発同様「低レベル放射性廃棄物」と呼び、ドラム缶に詰めて地下300m以深の岩盤層に地層処分するつもりでいる。

◎ 放射性廃棄物の地層処分は本連載の執筆目的であるが、ここでは上の低レベル放射性廃棄物が原発同様「安全レベル放射性廃棄物」でないことを強調したい。
 当然のことながら、銀製フィルタの残渣は多量のヨウ素129を含んでいる。ヨウ素129の放射能半減期は約1570万年である。蒸発缶で硝酸液を濃縮する場面で生じる放射性核種の残渣は、洗浄剤として炭酸塩を使用する場面があるため、多量の炭素14を含んでいる。
 ヨウ素129と炭素14は水に溶ける。硝酸液からウランとプルトニウムを抽出する場面で生じる残渣はアルファ崩壊放射性核種を含んでいる。 (その5)につづく

◎ 現在、イギリスとフランスで使用済み核燃料再処理工場が稼働している。日本では、小さな事故が多発して何度も稼働を延期した青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場が、2022年に稼働する予定である。
 使用済み核燃料再処理工場が多量の放射性核種を放出することはすでに述べたが、憂慮すべきことが他にもある。
 多量の硝酸を使用するため、使用済み核燃料再処理工場の稼働は常に不安定で、大事故が勃発する危険がきわめて高い。
 また、建屋内に多量の使用済み核燃料を保管しているため、大事故が勃発した場合、放射能被害は3.11東電福島第一原発事故をおそらく凌駕する。それでも経産省と電力資本は、使用済み核燃料再処理工場の稼働を強行しそうだ。

◎ そして経産省と電力資本=NUMOは、使用済み核燃料再処理工場で「製造」したガラス固化体=高レベル放射性廃棄物をステンレス製キャニスタに実装し、粘土製の緩衝材=人工バリアで保護して地下300m以深の岩盤層に地層処分=埋設するつもりでいる。
 経産省とNUMOは、ステンレス製キャニスタの耐用年数は1000年以上、人工バリアはガラス固化体を1万年以上保護する、と豪語している。
 だが、人工バリアがガラス固化体を保護する期間は数年かもしれない。
 ステンレス製キャニスタの耐用年数も数年〜十数年であると考えるが、それについては後述する。ここでは、人工バリアがガラス固化体を数年程度しか保護できないと考える理由を述べたい。

◎ 人工バリアは、水を含むと固まる砂状の粘土=ベントナイトでつくる。水分が蒸発すると、ベントナイトは砂に戻る。
 すなわち、ガラス固化体を埋設する地下300m以深の地温、およびガラス固化体そのものの温度が高ければ、ベントナイトの水分が蒸発し、人工バリアは「バリア」の機能を喪失する。
 地層は、深ければ深いほど地温が上昇する。
 当初、経産省とNUMOは、地下100mあたりの地温上昇温度=地温勾配を15度Cに想定し、ガラス固化体を埋設する地下300m以深の地温の上限を60度C前後に想定していた。
 だが、日本の地層は、立坑を1000m掘っても岩盤に届かない場合が多い。当然、地温勾配が15度Cの場合、地下1000mの地温は150度Cになり、ベントナイトの水分が急速に蒸発する。
 私見であるが、地温が60度C前後の場合でも、ベントナイトは数年後に砂に戻る。そして人工バリアが「バリア」の機能を喪失する。
 おそらくそのため、15度Cでさえ一般基準より低いというのに、経産省とNUMOは地温勾配の想定温度を3〜5度Cに急遽変更した。
 彼らは、地温勾配3〜5度Cの地域を見つけ出して地層処分するという。
 だが、どのようにして見つけ出すのか。彼らは説明しない。
                (その6)につづく
KEY_WORD:地層処分_:ROKKA_:FUKU1_:TOUKAI_KAKU_:NUMO_:汚染水_: