[2019_12_20_06]<東海第二原発 再考再稼働>(5)住民意識「共存できない」 茨城大教授・渋谷敦司さん(62)(東京新聞2019年12月20日)
 
参照元
<東海第二原発 再考再稼働>(5)住民意識「共存できない」 茨城大教授・渋谷敦司さん(62)

 作業員二人が犠牲になった一九九九年のジェー・シー・オー(JCO、東海村)臨界事故から毎年、周辺住民の原子力に対する意識の変化を調査してきた。二〇一〇年以降は、東海第二原発の再稼働についての意識調査を昨年まで続けた。その途中の一一年に3・11の震災が起きた。 JCO事故の後、首長も含めた住民の意識は、従来の「原発は不安だが必要なんだろうな」から「相当なリスクを抱えているが、防災対策や安全対策を十分にやれば共存していける」に変化した。3・11を境に「やっぱり共存はできない」と大きく見方を変えた住民が多数派になった。
 国も電力会社も、最終的には地元自治体の同意を得た上で再稼働すると言っている。首長たちは、同意するかどうかは住民意思を踏まえて判断すると口をそろえている。
 私の調査については、前知事も現知事も「あくまで茨城大の調査結果にすぎない」との立場。それなら県が毎年やっている県政世論調査で質問項目に東海第二の再稼働の是非を入れればよい。一項目追加するだけだから、お金もかからない。県民レベルの意思を確認する一番簡便な方法だ。
 東海第二の三十キロ圏に入る那珂市が一六年度に取り組んだ住民意識調査では、再稼働に賛成か反対かの二択で、反対が圧倒的多数だった。他の自治体でも調査すれば、おそらく似たような結果が出るはずだ。
 むしろ原発から離れた市町村ほど、議会が再稼働反対などの意見書を可決している。福島の原発事故を経験した日本全体の世論にも近いと思う。それを踏まえた政策決定を考えれば、国のエネルギー政策は脱原発という方向に行かざるを得ない。
 選挙では、原発再稼働に対する民意はすくい切れていない。有権者は原発のことばかり考えて日常生活を送っていないし、政治家が原発を争点にしないような選挙戦略を取っている面もある。周辺自治体では、脱原発の人も当選するためには争点にしたくないという意識になりがちだ。
 ただ、今春の水戸市議選では、保守系とみられている候補者が再稼働反対を公約したケースがあった。その方が票が入ると踏んだのかもしれないが、原発に対する市民の意識変化を保守系の人たちも無視できなくなっていると思う。
 過疎地の原発なら動かして構わないということではないが、東海第二のように周辺人口が多ければ、実効性ある避難計画の立案が非常に難しいという問題がある。計画を作らされている周辺市町村の担当者が一番よく分かっている。国は全面支援すると言っているが、客観的に無理だ。 (聞き手・宮尾幹成)

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 <しぶや・あつし> 1957年、東京都板橋区生まれ。茨城大人文学部(現・人文社会科学部)講師、助教授を経て99年に教授。専門は地域社会学、家族社会学、ジェンダー論。共著に「ポスト震災社会のサステイナビリティ学」。2010〜16年度と18年度に、東海第二原発の周辺住民4000人を対象に意識調査をした。

 次回は来年二月上旬に掲載予定です。

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