[2023_06_22_04]東海第二、事故の経済被害600兆円 環境経済研試算「再稼働 割に合わない」(東京新聞2023年6月22日)
 
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東海第二、事故の経済被害600兆円 環境経済研試算「再稼働 割に合わない」

 日本原子力発電が再稼働を目指す東海第二原発(茨城県東海村)で炉心溶融事故が起きた場合、経済的な損失は600兆円に上る−。そんな試算を環境経済研究所(東京都千代田区)の上岡(かみおか)直見代表が公表した。上岡氏は、原電の経常利益のうち東海第二の再稼働で上積みされる分は年間50億円ほどにすぎないとして、「50億円の企業利益を守るために、600兆円の損失リスクを冒すのか」と疑問を投げかける。

 上岡氏は原発事故による住民避難を巡る問題の専門家で、「原発 避難計画の検証」「原発避難はできるか」などの著書がある。2017〜22年には新潟県の「原子力災害時の避難方法に関する検証委員会」委員も務めた。

 今回の試算では、東京電力福島第一原発事故で最も多かったとされる2号機の放射性物質放出量(国の推定値)と同量が東海第二から大気中に放出され、東京方面に吹く風で拡散したと想定。原子力委員会が原発の安全解析を目的に策定した気象指針に準拠して、広がり具合をシミュレーションした。簡略化のため、地形の影響や横方向への分布は無視した。

 その上で、国の原子力災害対策指針に基づき事故発生直後から避難を始めることになる五キロ圏内に加え、五キロ以遠のうち、住民らを数時間以内に避難や屋内退避させる区域(地表面から1メートルの空間放射線量率が毎時500マイクロシーベルト)と、一週間程度以内に一時移転させる区域(地表面1メートルが毎時20マイクロシーベルト)に人が住めなくなったと仮定。県南地域の大半や、東京23区の東半分が含まれる。この範囲で全ての生産・消費活動が停止した場合の経済波及効果を、「産業連関分析」の手法を用いて分析した。

 その結果、国内総生産(GDP)の減少は十年間で265兆7000億円(うち雇用者所得は107兆7000億円)に達し、失われる不動産価値は土地が187兆2000億円、建物が141兆9000億円に上った。数値的に評価可能なこれらだけでも、総計すると594兆8000億円に及ぶ。

 上岡氏の推計によれば、太平洋戦争による国内の民間資産と軍事資産の被害額を現在価値に換算すると計750兆円ほど。東海第二の重大事故でもたらされる経済被害の規模は、これに匹敵するという。

 上岡氏は、東海第二を再稼働することで増えるGDPは十年間で650億円程度(うち雇用者所得は200億円程度)にすぎないとも指摘し、「経済的観点からも再稼働は全く割に合わない」と訴える。

 試算の詳細などについての問い合わせは上岡氏のメール(sustran-japan@nifty.ne.jp)へ。(宮尾幹成)
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