[2023_03_03_01]<東海第二原発 再考再稼働>(52)水戸地裁の判断維持を 東海第二原発差し止め訴訟弁護団・鈴木裕也さん(30)(東京新聞2023年3月3日)
 
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<東海第二原発 再考再稼働>(52)水戸地裁の判断維持を 東海第二原発差し止め訴訟弁護団・鈴木裕也さん(30)

 訴訟当事者には原則、裁判官を選ぶ権利はない。ただ、日本原子力発電東海第二原発(茨城県東海村)の運転差し止め訴訟の控訴審では、東京高裁の裁判長だった永谷(ながや)典雄氏が東海第二差し止めを含む過去の原発訴訟に、法務省の訟務担当として国側の立場で関与していた経歴があると分かり、公正・中立な裁判に懸念を抱かざるを得なかった。
 原告団は昨年十二月二十六日、永谷氏に自ら担当から外れるよう求める「回避」の勧告をした。その後、永谷氏が交代しない限り(今年一月三十一日に予定されていた)第一回口頭弁論の冒頭で「忌避」を申し立てると宣言し、それを伝える報道もあって、永谷氏は(裁判部を変更する形で)外れることになった。公正な判断に支障があることを理由に裁判官が交代した事例はこれまでほとんどなく、画期的な結果といえる。
 永谷氏が担当になったことに恣意(しい)的な人事介入があったかどうかは分からないが、不信感を持たれても仕方がない配置だった。近々再開される審理に向け、改めて一審の水戸地裁判決の判断が守られるよう準備していく。
 二〇二一年三月の水戸地裁判決は、「オンサイト(敷地内)で技術的な安全が確保されていれば十分」との立場だったこれまでの原発訴訟の裁判例と大きく異なる。「オフサイト(敷地外)の安全も必要だ」として、技術的な安全はもちろん、避難計画やそれを実行する体制の整備も原発の安全を構成するものだと指摘した。控訴審では、この判断が維持されるかどうかが一番の注目点になる。
 オフサイトでの安全対策が必要な理由で一番大きいのは、原発事故が起きた場合の被害の大きさだ。放射性物質が大量に放出され、被ばくした人への影響は極めて大きい。福島第一原発事故を見れば分かるように、広範囲の人がかなり過酷な避難生活を長期間にわたって強いられる。
 他方、現在の科学技術の水準では原発の絶対的な安全は確保できない。他の科学技術と違い、原発は安全確保に不確実さや困難さを伴う。万が一放射性物質が出てしまった時の安全対策は、住民にとって当然必要だ。
 原子力損害賠償法では、異常に巨大な天災地変や社会的動乱で事故が起きて被害が生じた場合、事業者は賠償責任を負わなくていい可能性がある。でも、住民からすればそんなことは関係ない。大きなリスクがあるのに安全対策が整っていない状態で稼働して、事故が起きた時は住民の負担というのは、いくらなんでもひどい話だ。
 控訴審では、こうした水戸地裁判決の本質を強調した上で、福島原発事故の教訓を改めて強調していく。政府と国会の事故調査報告書には「想定外の事象が起こらないと過信していたことこそが被害拡大を招いた」と明示されている。オンサイトの対策だけで安全だという過信は、福島の教訓を踏まえないものだと批判していきたい。(聞き手・長崎高大)

<すずき・ゆうや> 1992年、牛久市生まれ。慶応大大学院法務研究科修了。2018年1月に弁護士登録し、水戸翔(はばたき)合同法律事務所に入所。労働問題を中心に手がける。東海第二原発差し止め訴訟弁護団の一員として、東京高裁の永谷典雄裁判長に対する回避勧告書の作成を担当した。
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 次回は六月上旬に掲載予定です。
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