[2022_11_25_06]老朽原発の圧力容器は何時破壊されてもおかしくない 老朽原発を酷使する恐怖を電力事業者は感じないのか 一瞬で破壊される「脆性破壊」の恐ろしさ (第三弾の1) 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2022年11月25日)
 
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老朽原発の圧力容器は何時破壊されてもおかしくない 老朽原発を酷使する恐怖を電力事業者は感じないのか 一瞬で破壊される「脆性破壊」の恐ろしさ (第三弾の1) 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 老朽原発の40年超運転は、圧力容器の破壊を懸念しなければならない。
 老朽原発の危険性について、不定期での連載の「第三弾」は、圧力容器が一瞬で破壊される怖さを詳述する。

◎原発圧力容器の構造

 原発で最も堅固な装置と思われているのが、原子炉圧力容器。
 沸騰水型軽水炉(東海第二や福島第一原発など)では、通常使用圧力約70気圧、冷却材温度約280度で、加圧水型軽水炉(美浜や高浜など)の場合は更に過酷で約157気圧、約320度である。
 このうち加圧水型軽水炉では、直径3m、高さ3.6mほどの鋼鉄製圧力容器に燃料体を157(89万キロワット)体入れて運転している。圧力容器の中はほとんど燃料であり、制御棒駆動系は真上の上蓋に、中性子計測計のケーブル類やそれを通す管は真下にあり、圧力容器と燃料体の間には隙間はほとんどないので、強力な中性子がそのまま圧力容器にも当たる。
 一方、沸騰水型軽水炉では、圧力容器には再循環用ジェットポンプやポンプが取り付けられていて、圧力容器と燃料体の間には距離がある。そのため沸騰水型軽水炉では中性子の照射量が加圧水型軽水炉に比べて少ない。

◎「脆性破壊」とは何か

 金属は、大きな力を掛けると、ある程度伸びる。さらに力をかけ続けると引っぱりの力に負けて破断する。このとき金属は一定の長さに延びるが、これを延性があるといい、破断したところは「延性破断面」という。
 一方、金属にはもう一つの破壊の仕方がある。
 あたかもガラスのように割れてしまう破壊の仕方を「脆性破壊」といい、温度が低いときに起こる。
 「延性破壊」の温度範囲と、「脆性破壊」を起こす温度の境目を「脆性遷移温度」といい、この温度以下では使用しないようにすることが安全上重要だ。
 1944年の第二次世界大戦中、米国は戦時標準船として全溶接構造の輸送船などを大量に建造した。その数約5700隻。
 このうち1400隻以上で、突如船体が破断して大破したり、「脆性破壊」(損傷)が発生するという事件が発生した。
 特に、造船所の岸壁に係留され偽装工事中だったタンカーが真っ二つに割れた。これらの船のうち全溶接で建造された「リバティー船」と呼ばれる船舶に特に被害が多かった。
 溶接不良と設計の悪さが原因であると指摘されている。
 戦後も船舶の「脆性破壊」は何度か起きており、日本では「ぼりばあ丸」「かりふぉるにあ丸」が知られている。
 鋼鉄の場合、温度が低くなると「脆性破壊」を起こす危険性が高くなる。
 1912年に沈没したタイタニック号も「脆性破壊」を起こしたことが知られており、「脆性遷移温度」は27度に達していた。通常はマイナス20度などでなければならない。
 しかし鋼材の性質が悪いと、「脆性遷移温度」が高くなってしまう。
 温度が高いので、氷山が漂うような海水温では「脆性破壊」を起こしやすくなっていた。そこで氷山と衝突して衝撃力が加わったため、船体に「脆性破壊」が発生し外板が割れてしまったと考えられる。

◎原子炉圧力容器の「脆性遷移温度」

 原発の場合、圧力容器の「脆性遷移温度」は中性子の照射量で変化する。
 中性子が圧力容器鋼材を照射すると原子配列に欠陥が生じ、金属が脆くなる「脆化」を起こす。
 結晶中に欠陥クラスターができるため、これが金属特有の粘り強さ(靭性)を妨げるのである。
 中性子照射で変化するのは、「延性破壊」から「脆性破壊」に変化する「脆性遷移温度」で、これが初期値はマイナス100度などであっても、中性子を浴び続けた結果、プラス50度とか、90度などと上昇する。
 そのため常温の環境であっても「脆性破壊」を引き起こしかねないことになる。
 例えるならば、最新の設計で作る鋼鉄船がタイタニック号以上に脆くなっていくということだ。
 運転中に材料が経年変化していくため、これを監視するのは難しい。
 相手は圧力容器であり、定期検査時に切り出して検査するわけにはいかない。
 そのため、容器内部に予め「試験片」を入れておく。
 これを「シャルピー衝撃試験片」(注1)という。
 一定の時期に取り出し、衝撃を与えて割る試験を行い「脆性遷移温度」を監視している。
 これ以外にも試験片として「CT試験片」(破壊靭性値を求める。
 ただし、BWRには挿入されていない)、「引張試験片」(引張強さを求める)が入れられている。 (第三弾の2)に続く

(注1)「シャルピー衝撃試験」とは、振り子型のハンマーで監視試験片に衝撃を与え、破壊に要したエネルギーを求める試験。
 監視試験片にV型のノッチ(切り欠き)を付け、試験片の両端を支持台に置き、ノッチの背面をハンマーで打撃する。
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