[2022_10_20_01]岸田政権の愚かな原子力政策 (下)(了) 原子力マフィアの目的は原子力にしがみついて カネ儲けを続けることと手放せない「核兵器保有能力」 小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)(たんぽぽ2022年10月20日)
 
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岸田政権の愚かな原子力政策 (下)(了) 原子力マフィアの目的は原子力にしがみついて カネ儲けを続けることと手放せない「核兵器保有能力」 小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)

 岸田首相はもともと中身のない人で、「聞く耳」を標語にしている。その彼はフクシマ事故の原子力緊急事態宣言の解除すらできないのに、今は停止している原発の再稼働、原発の寿命を80年まで延長、さらに新たに原発を作ると言い出した。
 彼の聞く耳は、自民党や財界、原子力マフィアだけに対して向いている。
 フクシマ事故が起きる前、日本の電力の30%は原発が供給しており、原発がなければ停電してしまうと国民は脅かされた。確かにフクシマ事故が起きた2010年度1年間を見ると原子力の電気は全体の30%を占めていた。
 しかし、その1年間の火力発電所の設備利用率は47%しかなかった。つまり半分以上の火力発電所を止めていたのである。
 仮にその年に、原発を全て止め、その分の電力を火力発電所を動かして供給したとしても、火力発電所の設備利用率は70%にしかならず、残り30%の火力発電所は止めておかなければならないほど日本の発電所には余裕があった。
 もちろん今書いたことは1年間を通してのことで、電気が足りるか足りないかということはピーク電力使用に関わる問題である。
 しかしフクシマ事故後、原発はほぼすべてが停止した。特に2014年度の1年間は、原発はすべて止まっていて1kWhの電気も起こさなかった。それでも、停電など起きなかったし、1年を通しての火力発電所の設備の利用率は57%にしかならなかった。
 原子力マフィアはずっと嘘をついてきた。一つの嘘がバレるとまた次の嘘をついた。
 いままた、電力がひっ迫していると彼らは言い出したが、発電設備はフクシマ事故後むしろ増えているし、電力の消費量は逆に減っている。
 ピーク電力が足りなくなると言うのは発電設備の運用を彼らが恣意的に少なくして、あたかも原発に頼らなければ停電してしまうかのように嘘をついているだけである。

 〇手放せない核兵器保有能力

 フクシマ事故により、それまでの安全基準が間違っていたことが事実として示された。それを受け、原子力規制委員会が作られ、原発の安全性を審査するための新規制基準が作られた。
 しかし、事故は規制をすり抜けて起きることは、すでにフクシマ事故が示した。そのため、原子力規制委員会は、彼らが定めた新規制基準を満足していても「安全だとはいわない」と言っている。
 つまり、今や原発の事故は前提にされてしまったのである。その上、原発の運転は原則40年だが、新規制基準に合致するならあくまで例外として60年まで運転を認めることにした。
 ところがそれは例外どころか、美浜3号機、高浜1,2号機、東海第二と40年を超えた原発に次々と運転許可が出されてきた。
 そして岸田首相は、今度は80年まで運転することを認めると言いだした。
 原発はフクシマ事故が示した通り、超巨大な危険を内包した機械である。
 厳重に整備して安全だと言われても、40年以上前に作られた飛行機に乗る人はいない。おまけに80年前の飛行機が事故を起こさないと言われても誰も乗ろうとはしないだろう。
 また、岸田首相が言い出した「新型炉」など、とうの昔から構想され、どれも実現できずに潰れてしまったものばかりである。いずれも実現の可能性はないし、仮にそれが実現できるとしても長い時間がかかる。
 現在「原子力マフィア」が言っている電力のひっ迫とはもともと何の関係もない。
 原子力マフィアの目的は原子力にしがみついてカネ儲けを続けることである。そして、より本質的には「核」と「原子力」は同じもので、原発をやめてしまうと、核兵器保有の能力を失ってしまうことである。

 こいで ひろあき 元京都大学原子炉実験所助教授。専門は原子力安全、放射性物質の環境動態。
 2015年3月に定年退職。その後、長野県松本に移住し、大量生産・大量消費社会から抜けるべく、省エネルギー生活を送る。著者に『原発事故は終わっていない』(毎日新聞出版、2021年)、『フクシマ事故と東京オリンピック−真実から目を逸らすことは犯罪である』(径書房、2019年)など。
 (発行:関西よつば連絡会、「よつばつうしん」2022年10月138号、「いりあい知」より了承を得て転載)

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