[2004_05_02_01]原子力を問う 日本からの報告 プロローグ 逆風 進まぬ立地 稼働延期や凍結も(中国新聞2004年5月2日)
 
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原子力を問う 日本からの報告 プロローグ 逆風 進まぬ立地 稼働延期や凍結も

 逆風 進まぬ立地 稼働延期や凍結も

 1966年に日本初の商業用原子炉である東海原発(茨城県)が稼働を始めて38年。国内の原発は今や52基、出力合計4574万2千キロワットが稼働し、電力の3分の1を賄っている。だが、政府は長期エネルギー需給見通し(2001年策定)で10年度までに10〜13基を新たにつくる目標を掲げていたものの、現状では運転開始・発電するのは5基、613万キロワットと半分以下の水準にとどまり、取り巻く環境の厳しさが浮き彫りになっている。

 ■建設中

 東京、関西、中国など北海道から沖縄までの電力十社と日本原子力発電、電源開発の電力卸二社は毎年3月末までに向こう十年間の電力需要見通しと発電所の建設予定を盛り込んだ供給計画を作成している。
 資源エネルギー庁がまとめた全国の2004年度供給計画によると、政府の長期エネルギー需給見通しの区切りとなる2010年度までに運転開始・発電するのは北海道電力の泊3号機(北海道)、東北電力の東通1号機(青森県)、東京電力の福島第一7号機(福島県)、中部電力の浜岡5号機(静岡県)、北陸電力の志賀2号機(石川県)の五基である。
 前年度の供給計画では東京電力の福島第一8号機(福島県)と中国電力の島根3号機(島根県)を含む七基が予定されていたが、二基の稼働時期がそれぞれ遅れて間に合わなくなった。島根3号機の場合、運転開始は2011年3月と2010年度ぎりぎりだが、実際に発電として寄与し始めるのは2011年度からとなり、資源エネルギー庁のまとめでは2010年度までの見通しから外れた。こうした稼働時期の延期は建設中・準備中の計16基のうち12基に及んでいる。
 五基のうち、建設が始まっているのは福島第一7号機を除く四基、475万キロワットである。東京電力では2002年8月に発覚したトラブル隠し問題の影響で一時は所有する全17基が停止。既存の原発の再稼働を優先しなければならない事情を抱えるため、2010年10月運転開始予定の福島第一7号機は今後、稼働時期が遅れる可能性がある。

 ■準備中

 建設中の四基に続き、電力各社が建設を準備しているのは島根3号機や福島第一7号機を含めた12基、1631万8千キロワット。うち七基は供給計画最終年度の13年度までの運転開始を見込み、残る五基は2014年度以降の予定である。
 その中で、最多の四基の建設を予定しているのが東京電力である。東北電力が建設中の東通1号機のそばに二基を新設し、福島第一原発に二基を増設。計画通りすべて完成すれば、既存の17基と合わせて計21基体制となる。
 中国電力は島根3号機を来年3月に着工。上関1、2号機(山口県)も合わせれば、東北電力と並び東京電力に次ぐ三基の建設を準備している。ただ、上関原発は未買収の用地が残り、継続中の裁判も抱えるなど、計画通りの遂行は厳しい情勢だ。
 東北電力では浪江・小高(福島県)が1973年に計画が打ち出されて以降、運転開始時期が20回以上も延期されている。未買収用地がまだ一割程度残り、着工までこぎつけられるかどうか危ぶまれている。
 電源開発の大間(青森県)も難航を重ねてきた。当初はプルトニウムとウランを混ぜた混合酸化物(MOX)燃料を燃やす新型転換炉として計画されたが、特殊な構造で建設費が高くつくため電気事業連合会が反対し、1995年に軽水炉へと計画変更。さらに、炉心近くの用地買収ができず、炉心位置の変更も余儀なくされた。

 ■断念・凍結

 昨年12月、二カ所の原発の新設計画が相次いで撤退に追い込まれ、供給計画から消えた。一つは関西、中部、北陸の三電力が計画していた珠洲原発で、もう一つが東北電力の巻原発である。
 珠洲原発は、1975年に地元の珠洲市が誘致表明。国の要対策重要電源にも指定され、二基を建設する計画だった。
 ところが、計画発表から間もない79年に米スリーマイルアイランド原発事故、1986年には旧ソ連のチェルノブイリ原発事故が発生。地元の反対運動が高まる中で、1989年には関西電力が進めようとした立地可能性調査が阻止されるなど電力三社は身動きが取れず、28年たって地元に計画凍結を申し入れた。
 巻原発は1982年には原子炉設置許可申請が出ていたが、1996年の巻町の住民投票で反対が多数を占めて頓挫。さらに、建設予定地内の町有地が反対派住民に売却されたことについて推進派住民が提訴していたが、最高裁で推進派の敗訴が確定したため結局、東北電力は計画断念を決めた。
 このほかに計画が断念、撤回されたのはこの十年間でも、2000年の中部電力の芦浜原発(三重県)、97年の九州電力の串間原発(宮崎県)がある。中部電力は芦浜、珠洲と二カ所の原発の計画が行き詰まり、立地点は5号機が建設中の浜岡原発だけとなった。

 需要伸び悩みや自由化が背景に

 政府見通しの半分以下しか新増設計画が進んでいない原子力。背景には、地元の反対運動などのほか、電力需要の伸び悩みや電力自由化の進展など、新たな要素が加わっている。原子炉一基当たりの投資は約四千億円と巨額だ。経済性が厳しく問われる中、電力各社は計画推進に一段と慎重にならざるを得ない。
 資源エネルギー庁によると、2003年度(推定実績)の販売電力量は8337億キロワット時で前年度比0.9%減り、8月にピークを迎える最大電力も1億6398万キロワットで5.7%減少。冷夏の影響で大きくマイナスとなった。
 向こう十年間の電力需要も過去最低の伸び率だ。2002年度から2013年度までの販売電力量は年平均で1.0%増。最大電力も0.9%しか伸びないと想定している。
 電力需要の伸び悩みから、計画が進まない現状でも電力供給への不安は少ない。2013年度の供給力は2億1208万キロワットで供給予備率10.2%と余裕を持って電力供給できる見通しとなっている。
 電力自由化の影響も次第に強まっている。4月から500キロワット以上、来年度は50キロワットへ拡大し、全体のほぼ六割が自由化。全面自由化も2007年度から検討が始まる予定だ。
 このため全国で県庁舎や大学施設などが電力会社から新規参入事業者に移るケースが相次ぎ、中国地方でも広島県庁、広島市役所が中国電力から丸紅へ切り替わった。経済産業省の本庁舎も新規参入事業者が供給し、原子力推進母体である省庁が原子力を使わない皮肉な現象を生んでいる。
 こうした流れは新増設計画も直撃。昨年12月に珠洲原発が凍結された際、関西、中部、北陸の三電力は珠洲市に対し「電力自由化で経営環境が厳しい」とその影響の大きさを理由に挙げた。
 原発は地元の合意形成や用地買収などに時間がかかり、現在は計画スタートから運転開始・発電までに20年以上かかっている。巨額な初期投資を回収する時間まで含めれば半世紀に及ぶ息の長い事業となる。かつてのような右肩上がりの電力需要が期待できず、地域独占体制も崩れる中、電力会社は原発に対して厳しい経営判断を迫られる時代となった。

 52基 世界3位の「大国」

 52基が稼働する日本は世界でも米国、フランスに次ぐ世界三位の「原発大国」。フランスは現時点で具体的な建設計画がなく、十年後に60基を超す予定の日本は世界二位に躍り出る。
 日本原子力産業会議によると、2003年12月末現在、世界の原発は計434基、出力合計3億7628万6千キロワット。世界の電力供給の17%を賄っている。
 日本の電力供給に占める原子力の割合は2003年度推定実績で25.5%。東京電力のトラブル隠し問題の影響で前年度実績(31.2%)より低下し、液化天然ガス(LNG)に次いで二番目の電源となった。
 原発の建設が現行の予定で進めば、2013年度には40.4%と初めて四割を超す。先進国ではフランスが75%と飛び抜けているが、米国の20%、ドイツの30%などを上回っている。
 一方、発電コストは運転年数40年とした国の試算で一キロワット時当たり5.9円。LNGの6.4円、石炭の6.5円、水力の13.6円などと比べ最も安い電源とされる。だが、米国の原発では一円台と低く、日本の高コスト構造は課題だ。
 さらに、電気事業連合会は昨年、使用済み燃料の再処理や放射性廃棄物の最終処分など発電後にかかる「バックエンド費用」について18兆9100億円と試算した。これを発電コストに上乗せすると6円台になり、必ずしも経済性に優れているわけではないと指摘する声も多い。
 特に、使用済み燃料の再処理で生じる高レベル放射性廃棄物の最終処分は約1万年もかかり、最終的なコスト算定は難しい。「国策民営」の日本の原子力。今後、国と民間がどう費用負担するかなど、経済性をめぐる論議が活発化しそうだ。
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