[2022_02_17_07]「核のごみ」争点に 36年ぶり新人出馬へ 北海道・神恵内村長選(毎日新聞2022年2月17日)
 
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「核のごみ」争点に 36年ぶり新人出馬へ 北海道・神恵内村長選

 原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けた文献調査が進む北海道神恵内村で、任期満了に伴う村長選が22日に告示され、27日に投開票される。5期連続無投票当選の現職に対し、隣接する泊村で脱原発運動を続けてきた新人が立候補を表明。当初の「無風」から一転して36年ぶりの選挙戦になる見通しで、新人の動向に注目が集まっている。

 立候補予定の新人、瀬尾英幸氏(79)は小樽市出身の元会社社長。2015年に北海道電力泊原発のある泊村に移り住み、脱原発運動を行ってきた。1月16日に記者会見し、「無投票だと(原発問題を)考える機会がなくなる」などとして出馬表明した。しかし、神恵内村に足がかりは少なく、拠点となる事務所設置のメドも立っていない。このため、近隣の岩内町に「仮事務所」を置き、13日に事務所開きを行った。
 神恵内村では村商工会が文献調査の応募検討を求める請願を村議会に提出し、議会が請願を採択。これを受け、国が村に調査を申し入れ、現職の高橋昌幸氏(71)が受諾した。瀬尾氏は核のごみの受け入れ自体には反対姿勢を強調する一方で、形としては民主的な手続きを経て実施が決まった文献調査に対し、「逆にルール破りになる」として即時中止などはできないとのスタンス。会見では「核ごみ問題は争点にしない」と表明した。
 瀬尾氏のこの方針に、文献調査に反対する村民からは疑問の声が上がっている。私設博物館「銀の鈴記念館」主宰の滝本正雄さん(88)は「この問題を争点にしないのならば、選挙に出る必要はない」としたうえで、「得票が少ないと、反対住民が少ないと思われる。今後の反対運動のリスクになる可能性がある」と指摘。別の村民は「なぜ核のごみ問題を言わないのか疑問に思った。そこは議論した方がよい」と争点化を求める。瀬尾氏を支持する別の自治体の革新系議員も「反対の立場を鮮明にしなければ、選挙としては厳しい」と懸念する。
 Jパワー(電源開発)が建設している大間原発の是非が問われた17年の青森県大間町長選は、原発推進派の2候補が9割以上(3604票)を得票し、中止派の2候補はそれぞれ79票、34票しか獲得できなかった。瀬尾氏は会見で大間町長選に触れ「青森の仲間は当初、『こういう数字は困る』と言っていたが、何年かたつと『あれはあれでよかった。原発反対運動の弾みになった』と評価している。私もそうなっていきたい」と述べ、選挙を行う重要性を強調する。
 さらに、瀬尾氏は毎日新聞の取材に「(核のごみ問題を)争点にしないというのは誤解を生む。文献調査は認めざるを得ないが、(第2段階の調査の)概要調査は断固反対ということを公約に盛り込みたい」と方針転換を図る考えを示したうえで、村の有権者数721人(昨年12月1日現在)を念頭に「100票を超えれば、今後の運動への影響力が違う。支持者には『100票を取れば勝利宣言してもいいよ』と言われた」と自ら「勝敗ライン」を設定する。
 迎え撃つ形となる現職の高橋氏は、数百人の村民が加入していると言われる強固な後援会組織を持つ。町長選では02年の初当選以来、5期連続で無投票当選しており、今回は初の選挙戦となる。
 高橋氏の後援会幹部は「村内の人が立てば、150〜200票は相手方に流れると思うが、今回の相手は村に親戚もいなければ、有力支持者もいない。どれだけの得票を許すか、後援会内の考え方はまちまちだが、個人的には50票以内に収めたいと思っている」と打ち明ける。
 さらに、「100票以上行くと、相手方が何をやり出すか分からない」と村政への影響を懸念したうえで、「『(現職が)勝つだろうから投票に行かない』という人が一番困る。きちんと後援会員に投票を呼びかけたい」と組織の引き締めを図る考えを示した。【高山純二】
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