[2022_11_04_04]運転期間「上限撤廃」で高まる老朽原発の“放射能漏れ”リスクを専門家が警鐘(女性自身2022年11月4日)
 
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運転期間「上限撤廃」で高まる老朽原発の“放射能漏れ”リスクを専門家が警鐘

 福島第一原発事故を機に制定された原発運転期間を原則40年・最長60年とするルール。そのわずか11年後の今、規制の撤廃が行われようとしているーー。
 「再生可能エネルギーと原子力はGX(グリーントランスフォーメーション)を進めるうえで不可欠だ」
 今年8月、GX実行会議で、電力不足への対応や脱炭素社会の実現にむけて原発の必要性をこう力説した岸田文雄首相(65)。
  会議で岸田首相は、次世代革新炉の開発・建設の推進に加え、現在「原則40年・最長60年」とされている原発の“運転期間の延長”を検討することを指示した。それを受け経済産業省は、10月5日、60年を超えて原発の運転を可能にする法整備を行うと表明。原発の稼働期限を事実上“撤廃”するとした。この方針には、政府から独立し、原発を規制する立場にある原子力規制委員会の山中伸介委員長までもが、容認する姿勢を見せている。

 ■年数を経るとともに原子炉は劣化する

「そもそも、『原則40年・最長60年』というルールは、福島第一原発事故のあと、同じような事故を繰り返さないために、安全規制の一環として原子炉等規制法を改正して定められたものです」 そう解説するのは、原子力規制を監視する市民の会代表の阪上武さん。
「ところが、規制する立場である規制委員会の山中委員長は、資源エネルギー庁が60年を超える原発の運転を可能にするよう要求したのに対し『運転期間については、利用政策側である経産省の判断だ』として、原子炉等規制法から、この条文を削除する形で容認してしまった。これは非常に問題です」 原発を推進する側の経済産業省がルールを定めるとなると、安全性よりも電力会社に都合のよいものになりかねない。
 現在国内で建設済みの原発は33基。それらのすべてが、’50年までに稼働40年を迎える。
 条文が削除されることで、老朽化した原発が日本中で当たり前に稼働するリスクは、いかほどか。
  元三菱重工の技術者で、伊方原発3号機の建設機器班長を務めた森重晴雄さんは、こう指摘する。
「第一に挙げられるのは、中性子線が照射することによる原子炉の脆化です。原子炉は、炭素鋼という200mm厚の鉄板で作られているのですが、炭素鋼は中性子線に弱い。そのため長年、照射され続けることで金属が脆くなるのです」
 加えて、ホウ酸水による腐食のリスクもあるという。
「西日本の原発に多い加圧水型という原子炉は、中性子線を吸収しやすいホウ酸水で原子炉を冷やしています。しかし、炭素鋼はホウ酸水に弱いので炭素鋼の表面にステンレスを肉盛り溶接してコーティングしていますが、どうしても隙間からホウ酸水が染みこみ、経年腐食しやくなるのです」
 このほかにも、原子炉内を毛細血管のように張り巡らされている膨大な数の電子ケーブルなども経年脆化していくが、すべて取り替えることは困難だという。
 「原子炉には蓋と胴部があり、いずれも劣化が進みます。三菱製の原子炉の蓋は劣化を理由にどの発電所も一度取り替えているのですが、原子炉胴部は即死レベルの放射線量なので取り替えが困難。現行法では40年ルールになっていますが、本来、原発の寿命と言われているのは30年くらい。炉を交換できないなら、この程度で廃炉にするのが合理的なのです」
 実際に、製造から30年を超えたころから発電所内のトラブルが急増している、というデータもある。
「圧力容器の鉄板にわずかでも腐食が生じれば、そこから一気に亀裂が広がって冷却水が漏れ、原子炉が冷やせなくなってしまいます。そうなると炉心溶融が進み、最悪の場合は原子炉が爆発して、福島第一原発事故とは比べものにならないほど大きな事故になる可能性もあるのです」
 これまでも、原発内に脆くなった部分がないかの検査は行われてきた。しかし「その検査にも限界と問題がある」と指摘するのは、「老朽原発40年廃炉・名古屋訴訟」を闘う弁護士の小島寛司さん。
 「原子炉の中に、いくつか試験片を入れておいて、10年ごとくらいにそれを取り出し、圧力をかけるなどして金属の脆性を検査し、安全性を確認しています。しかし、そのデータが圧倒的に少ないのです。すでに40年を超えて運転を続けている美浜原発3号機の場合、稼働後約40年間で得られている破壊靱性試験のデータは、わずか12回分。それも、直近の検査では溶接金属部分のみチェックし、原子炉本体の母材については検査していないなど、極めて不十分なものでした」
 本来、データを適切に提出させて審査すべき規制委員会も、それをせずに稼働を許可しているという……。
 加えて、現存する原発にはそもそも“型が古い”という根本的な問題もある。
 「’11年に事故を起こした福島第一原発は、当時、稼働から間もなく40年を迎える老朽原発でした。
  そのため型が古く、原子炉を冷却できなくなったときに作動する非常用配電盤の設置場所が、ほかの電源とすべて同じフロアに設置される設計だった。そのため津波でいっせいに機能を失ってしまったのです」

 ■甘い耐震基準で作られた原発たち

 加えて、前出の森重さんは、「型が古い原発は、耐震に関しても致命的な欠陥がある」と指摘する。
「日本は近年、地震の活動期に入っています。40〜50年前に原発が製造され始めたころは、いまほど大きな地震もなかったので、そもそも耐震基準が甘いのです」 なかでも、東日本に多い“沸騰水型”の原発は要注意だという。
 「沸騰水型は、ペデスタルと呼ばれる不安定な脚立のようなものの上に大きな原子炉を乗せているので、とくに揺れに弱い。福島原発事故のあと耐震基準が引き上げられ、新基準に合格した原発のみ再稼働されていますが、それでも加圧水型の高浜原発で、550ガルから700ガルに引き上げられたにすぎません」
 ガルとは、地震の大きさを表す単位のひとつ。最大震度6強を記録した新潟の中越沖地震では、柏崎刈羽原発3号機で設計時の想定834ガルをはるかに上回る2千58ガルの揺れを観測し、建設時の地震想定の甘さが露呈した。これらを考慮すると、700ガルというのは心もとない数字に思える。
 「さらに耐震評価では、原子炉の上部で原子炉の横ブレを止めるスタビライザーという部分についての耐震評価が公開されていません。この評価を行うと耐震基準に満たないことが明らかになってしまい、再稼働できないからです」 つまり、極めてずさんな耐震構造のまま、放射性物質が漏れ出す可能性のある老朽原発を動かそうとしているのだ。
 岸田首相は、40年ルールを取り払う理由のひとつとして「イギリスやフランスなど諸外国では運転期限がない」ことなどを挙げている。しかし、原子力規制委員会の前委員長・更田豊志氏は「地震ひとつとっても海外とは置かれている状況がまったく違う。あまり海外の状況にひきずられるべきではない」と言及していた。
 日本における原発稼働のリスクについて、結論ありきではない、真摯な議論が求められている。
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