[2022_08_30_08]岸田総理の暴走「原発政策」が始まった! 東京駅から120qしか離れていない「首都圏の原発」まで再稼働へ…!(現代ビジネス2022年8月30日)
 
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岸田総理の暴走「原発政策」が始まった! 東京駅から120qしか離れていない「首都圏の原発」まで再稼働へ…!

 半径30キロメートル圏内に約94万人
 岸田総理は8月24日、第2回GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議にオンライン出席し、各方面に原発の積極活用策に舵を切るよう指示した。
 驚くべきことに、その中には、半径30キロメートル圏内におよそ94万人が住んでおり、地元の同意の取り付けが事実上困難と見られており「首都圏の原発」の異名を持つ「日本原子力発電・東海第2発電所」(以下、東海第2)や、福島第一原子力発電所の大事故の教訓を活かせない「トラブル続きの原発」の「東京電力・柏崎刈羽原子力発電所」(同、柏崎刈羽原発)を再稼働する方針まで盛り込まれている。
 加えて、先週の本コラムで疑問を呈した「次世代原発の開発・運用」にも前のめりなのだ。
 今回は、この岸田総理の原発積極活用策が出てきた背景と、本当に採るべき方策がそれしかないのか、さらに、やるならやるで、その前にやっておくべきことがないのかなどを考えてみたい。
 まずは、岸田総理のGX実行会議での発言に沿って原発積極活用策の概要を説明しよう。総理はこの日、自身が新型コロナウイルスに感染してリモートでしか参加できないことを謝罪したうえで、原発政策の見直しを口にした。
 第一に、足もとの電力需給ひっ迫に対応するため、「今年の冬のみならず今後数年間を見据えてあらゆる施策を総動員して不測の事態にも備えて万全を期す」として、「特に、原子力発電所については、再稼働済みの10基の稼働確保に加え設置許可済みの原発再稼働に向け、国が前面に立ってあらゆる対応を採ってまいります」と言い放ったのだ。

 原発を巡る中長期政策の変更

 この「設置許可済みの原発」というのは、7基ある。原発の即時廃止論者ではない筆者から見れば、「東北電力・女川原発 2号機」、「関西電力・高浜原発1、2号機」、「中国電力・島根原発2号機」などが、その中に含まれたことに違和感はない。
 だが、「東京電力 柏崎刈羽原発6、7号機」と「日本原子力発電(以下、日本原電)・ 東海第2原発」まで盛り込んだことには首を傾げざるを得ない。これらが、なぜ問題なのかは、あとで詳しく説明するとして、ここは総理発言のフォーローを続けたい。
 もう一つのポイントは、原発を巡る中長期政策の変更だ。岸田総理は、2050年にカーボン・ニュートラル(脱炭素)を実現するという視点に立って、「GXを進める上でも、エネルギー政策の遅滞の解消は急務です」「本日、再エネの導入拡大に向けて、思い切った系統整備の加速、定置用蓄電池の導入加速や洋上風力等電源の推進など、政治の決断が必要な項目が示されました」と述べたうえで、次世代の原子力について言及した。
 「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設など、今後の政治判断を必要とする項目が示されました」と言い、「年末に具体的な結論を出せるよう、検討を加速してください」と関係各方面に前のめりの指示を出したのだ。
 紙幅があまりないので、この次世代原発について、興味のある人は先週の本コラムを参照してほしい。矛盾だらけだという見解を紹介してある。ちなみに、総理はこの日、ロシア軍のウクライナ侵攻を引き合いに出して、「岸田内閣の至上命題として、あらゆる方策を講じていきます」と大見得を切り原発推進を唱えた。
 だが、客観的にみれば、日本政府はまだ、その福島第一原発事故の後始末すら終えていない段階だ。そんな日本政府が大胆なことを言っても説得力があるとは考えにくい。国民から見れば、また原発が大きな事故を起こすかもしれないし、起こしても、政府はいい加減な対応しかしてくれないに決まっているなどと不信を持たれても何ら不思議のない状況であることを補足しておく。
 話を、東海第2原発に戻そう。
 この原発を保有している日本原電は1957年に原子力開発を巡る政府と電力9社の主導権争いの妥協の産物として設立された経緯がある。その名残で今年3月末の株主構成も、東電、関電など電力9社が全体の85.04%、政府主導の電力会社Jパワーが全体の5.37%を出資する状態が続いている。残りは原子力関連メーカーや銀行の出資だ。資本金は1200億円となっている。

 日本原電が保有する3つの原発

 日本原電は現在、原子力発電事業として、東海、敦賀の2つの発電所に3基の原子炉を保有している。ところが、原電の原発3基はそろって稼働していないばかりか、いずれも運転を再開するめどが立っていない。このため、原発を維持する基本料の名目で東電、東北電など一部電力会社から事実上の支援を受けて、これまでなんとか延命してきた経緯がある。
 3基について順に見ていくと、福井県敦賀市にある「敦賀第1」は、2011年1月の定期点検に伴い運転を停止した。「敦賀第1」は1970年3月に営業運転を開始したもので、今となっては建設から50年を超す歳月が経過した基本設計の古い原発だ。それゆえ、2011年3月に起きた東日本大震災に対する原発の設置基準の強化への対応なども難しく、2015年に日本原電自ら廃炉を決定した。
 「敦賀第1」と同じ敷地内にある「敦賀第2」は、原子力規制委員会が「重要施設の下を活断層が走っている」と判断しており、こちらも再稼働がほぼ不可能とみられている。
 補足しておくと、日本原電は東日本大震災以前、会社存続を懸けて「敦賀第3、第4」の新設を計画していたが、こうした構想は、完全に宙ぶらりんになっている。
つまり、日本原電は、自社の生き残りのためには、何が何でも残りの1基、つまり「東海第2」を再稼働させる必要がある、会社として、この原発が最後の頼みの綱だという意識が働く状況になっているわけだ。

 信頼できない安全対策

 ところが、「東海第2」も再稼働は難しい。
 「東海第2」は茨城県の那珂郡東海村にあり、1978年に日本最初の100万kW級の原発として運転を開始したプラントだ。何と言っても、東電・福島第一原発と同様に、東日本大震災に被災したことが影を落す。
 「東海第2」は地震の激しい揺れで原子炉が自動停止したものの、想定外の津波で残った非常用電源の一部を失ったのだ。その結果、福島第一のようなメルトダウンや水素爆発には至らなかったが、冷温停止を実現して安定させるのに3日と9時間54分を要する綱渡りだったのである。
 津波対策を講じていなかった東電の福島第一とは違い、2008年ごろ、日本原電は「東海第2」の津波想定を海抜5.7メートルに引き上げていたというが、その対策工事は完了していなかった。結果として、津波が押し寄せた際、側溝から海水が入り込んで非常用ディーゼル発電機を冷やす3台の海水ポンプのうち1台が水没して発電機が停まってしまったというのである。そうした経緯を知っている地元などからすれば、日本原電の安全対策は決して信頼できるレベルにない。
 しかも、その後の対策が遅れている。「東海第2」は2018年9月に原子力規制委員会の安全審査に合格し、それに基づく津波対策の防潮堤の建設工事に着手した。この中には地上20メートルの高さになる杭を地下60メートルの岩盤に打ち込む作業なども含まれているという。が、日本原電は、当初は今年12月の予定だった完成を2024年9月に延ばすと発表している。
 加えて、問題を深刻にしているのは、半径30km圏内におよそ94万人が住んでいることだ。つまり、全国の原発で、周辺住民の人口が最も多い原発なのである。再稼働には、この住民全員について広域避難計画を作る必要や、地元自治体の再稼働への同意を取り付ける必要がある。しかし、計画の策定を終えた市町村は30キロ圏内にある14自治体のうち5市町村にとどまっている。
 そもそも、水戸地裁は昨年3月の判決で、この広域避難計画の策定の遅れなどを理由に東海第2原発の運転差し止めを命じた状態だ。
 極め付きが、「東海第2」が首都圏から近いことである。実は、東京駅からおよそ120キロメートルしか離れていない。福島第一原発事故の時には、在日の外資系金融機関の幹部らは大挙して香港などに避難。スーパーやホームセンターの飲料水などが瞬間蒸発した。万が一、「東海第2」が福島第一原発のような事故を起こせば、あの時とは比較にならない混乱を引き起こしかねない「首都圏の原発」なのだ。
 仮に、再稼働の条件となっている地元の14自治体すべてが同意したとしても、いざ再稼働となれば、首都圏全体で猛烈な反対運動が起こり、社会的な混乱に繋がる懸念がある。はっきり言って、内閣のひとつやふたつ吹き飛んでもおかしくない問題を秘めていると言わざるを得ないのが、この原発の再稼働問題なのである。

 トラブル続きの原発

 東京電力の柏崎刈羽原発6、7号機についても簡単に触れておく。岸田総理は、この2機を再稼働候補に含めたが、この原発はテロ対策などの不備が繰り返し露呈して、今なお東京電力という会社には福島第一原発事故の反省がないことが明らかになっている。この問題では、原子力規制委員会が再稼働を禁止したうえで、年末まで再発防止策などの検査を続けることにもなっている。
 規制委の更田豊志委員長は総理の会見と同じ8月24日の午後の記者会見で、「検査は政府の再稼働方針によって影響を受けるものではない」と、引き続き厳しい姿勢で臨む姿勢を明らかにした。柏崎刈羽原発だけでなく、規制委には、総理の肝入りの案件だからと言って決して変な忖度をせず、しっかり安全を追求してもらう。そのことは原発が存続する以上、大前提の条件である。
 筆者はここ数年、何度も繰り返して主張してきたが、柏崎刈羽原発6、7号機を政府が本気で再稼働させたいのならば、もっと真摯な抜本策が必要だ。東電に柏崎刈羽原発を手放させて、他の運営主体を構築し、管理・運転を任せるといった措置でも取らない限り、国民から運転再開に理解を得ることは難しい。
 この運営主体に、例えば日本原電を加えれば、原電の破綻を防ぐ飯のタネを与えることも可能だ。福島第一原発事故から11年以上の歳月が過ぎたのだから、今こそ、政府は小手先対応でお茶を濁す姿勢や問題を先送りする姿勢を改めるべきだろう。
 今回、総理が突如、歴代政権の方針を翻した背景としては、自民党が先の参院選に勝利し「黄金の3年」を手にしたことに着目、経済産業省がごり押しをしているとの見方が強い。
 しかし、次世代原発の開発、活用も含めて同じことが言えるが、原発を再活用していくのならば、まずは福島第一原発の事故処理をほぼ終えたとか、完全に軌道に乗ったという状況にする必要がある。処理済み汚染水の海洋放出すら開始できないような状況は論外なのだ。
 加えて、使用済み核燃料の問題もある。各地の原発は、すでに中間貯蔵のスペースが限界に近づきつつあるし、最終処分地がいまだに決定できていないことも、速やかに解決する必要がある。
 このように、山積みの懸案が片付いていない以上、原発の積極的な活用という方策は、GXやカーボン・ニュートラル実現のための選択肢にはなりえない。岸田総理には、そのことを肝に銘じてもらいたいところである。

町田徹(経済ジャーナリスト)
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