[2021_11_09_01]関電問題「幕引き許さない」 告発の団体、前会長ら不起訴に憤り(毎日新聞2021年11月9日)
 
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関電問題「幕引き許さない」 告発の団体、前会長ら不起訴に憤り

 関西電力の歴代幹部を巡る一連の問題で、大阪地検特捜部の結論は告発された八木誠前会長(72)ら9人全員の不起訴だった。電気利用者を裏切り、原発事業への信頼も揺らいだ問題の表面化から約2年。元幹部らの責任を厳しく非難した関電の外部調査とかけ離れた判断に、真相究明を求めてきた関係者らは「幕引きは許さない」と憤った。

検審に不服申し立てへ

 「強制捜査で資料を押収すれば起訴につなげられた。検察の役割を放棄する判断で本当に遺憾だ」。特捜部に告発状を出した市民団体「関電の原発マネー不正還流を告発する会」の代理人を務める河合弘之弁護士は9日、オンラインの記者会見で検察の捜査をこう批判した。近く検察審査会(検審)に不服を申し立てることも明らかにした。
 市民団体が「世間を裏切る行為で、一連の不祥事の中で悪質性が高い」としたのが、役員報酬の補てん(ほてん)問題だ。東日本大震災に伴う原発の運転停止の影響で経営が悪化し、2013年以降に2度の電気料金値上げに踏み切った関電。経営陣は役員らの報酬をカットし、負担増を迫られた消費者に理解を求めたが、その裏側で総額約2億6000万円に上る補てんを決めた。
 この問題を調査した関電のコンプライアンス委員会によると、当時会長の森詳介氏(81)が15年10月、減額分の一部について「退任後にカバーできないか」と秘書室に指示。役員退任後に嘱託として任用し、報酬を穴埋めする仕組みが発案された。当時社長の八木氏との協議を経て取締役会に諮らず運用が決まった。
 森、八木両氏が一部の退任役員に嘱託業務を委嘱する際、「世間に誤解を生む恐れもあるためご本人限りで」と「口止め」をしていたことも発覚。委員会は報告書で「(報酬減額は)『身を切る覚悟』と対外表明しており、消費者や株主らへの虚偽説明に等しい」と切り捨てた。
 関電はいびつな「原発マネー」のあり方も問われた。高浜原発のある福井県高浜町の森山栄治元助役(19年に死去)から30年以上にわたり、八木氏ら歴代幹部83人が現金や小判を忍ばせた菓子折りなどの金品を受け取っていた。
 関電の第三者委員会は、森山氏の目的は自身の関連企業に原発関連工事を発注させるためだったと認定。関電は少なくとも00年以降に120件以上、森山氏の求めに応じて工事情報の提供や発注の約束を繰り返していたとし、委員長を務めた但木(ただき)敬一元検事総長も「便宜供与があった」と踏み込んだ。
 関電が国税当局の査察を機に18年の社内調査で金品受領問題を把握していたにもかかわらず、翌19年9月に報道で表面化するまで公表を先送りにしていたことも当時明らかになった。
 一連の不祥事に世論の批判が高まり、市民団体が全国に問題の追及を呼びかけたところ、5000人以上が告発人に名を連ねた経緯がある。この日の記者会見に同席した海渡雄一弁護士は「強制起訴に追い込み、腐敗の構造を明らかにしたい」と検審の判断に期待を寄せた。【山本康介、榊原愛実、松本紫帆】

検審を意識し捜査

 大阪地検の内部では早い時期から「刑事責任を問うのは困難」との声が上がり、特捜部は当初、今春ごろに不起訴処分を出す方向で捜査を進めていた。しかし、黒川弘務・元東京高検検事長が告発された「賭けマージャン問題」などを巡り、検察の不起訴判断を相次いで否定した検察審査会(検審)を念頭に、補充捜査や上級庁との協議に時間を要したとみられる。
 特捜部は今回、「社会の耳目を引く事案」として、不起訴処分を記者発表する異例の対応を取った。村中孝一部長は「検察として個々の事実について思うところはあるが、法と証拠に基づいてきちんと精査した結果。それに尽きる」と語った。
 関係者によると、元役員らへの報酬補てんで中心的な役割を担った森詳介元会長らが、地検の聴取に一貫して違法性を否定したとされる。金品受領問題ではキーマンだった福井県高浜町の森山栄治元助役が死去して証言が得られず、地検内部ではいずれも立件のハードルが高いとの見方が根強かった。
 告発容疑は会社法の特別背任罪など六つと広範囲で、関係者の証言や収集証拠の分析、違法性の検討などに多くの時間を割く必要もあったという。こうした事情に加え、東京地検の判断が検審に覆され、再捜査を迫られる「検審バック」が相次いだことも影響した模様だ。
 東京地検は「賭けマージャン問題」で黒川氏、「現金配布問題」が浮上した菅原一秀元経済産業相をそれぞれ不起訴(起訴猶予)にしたが、検審は「起訴相当」と判断。議決後の再捜査でいずれも一転して略式起訴になった。7月には、安倍晋三元首相の後援会が主催した「桜を見る会」前夜祭の費用補てん問題で、安倍氏に対する一部の不起訴処分も不当と議決された。
 ある検察幹部は「不起訴事件でどこまで捜査を続けるのか線引きは難しいが、検審でも揺るがないよう備える必要があった」と検審を意識した捜査だったことを明かした。【山本康介、榊原愛実】
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