[2022_07_08_01]東京電力と経済産業省が停電危機を演出 「電力逼迫警報」に見る世論誘導 大規模停電の脅しで原発再稼働推進 電力逼迫危機をあおり立てる政府・電力・政治家に警戒せよ 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2022年7月8日) |
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1.6月27日、梅雨が明けきっていない東京電力管内で、電力逼迫の注意報が発令された。すぐにも警報に切り替えそうな勢いで、経済産業省の役人が記者会見をしていた。 だが、実際には90%台の後半に入るかどうかの設備利用率で、電力危機は起こらなかった。 細かくいうならば、需給逼迫のポイントは2度あり、最初は使用量のピーク点である午後2〜3時台、最大5,254万kW(以下、万kWを省略)の需要に対して設備は5,674で92%、もう一つは使用率ピークという指標で、午前9時〜10時台、最大4,669に対して4,820だった。 ◎ 6月のピークは実は、その後に来ている。 逼迫注意報は6月30日午後6時で解除したが、この日の午後2時から3時の需要量ピークでは5,487に対して、6,036が準備された。 設備利用率にして90%は、いつも通りで余裕がある水準。午前9時から10時台は4,947に対して5,145の設備で、率にして96%、こちらの方が厳しいといえば厳しいが、警報だ、注意報だという水準ではない。 つまり、6月下旬に電力が逼迫するなどは作られた危機であった。 もちろん、夏のピーク時に大型火力のいくつかが止まればたちまち逼迫するし、それは3月に発生した福島県沖の地震で経験したことでもある。 ◎ 東京では毎年夏のピークは、梅雨明けの季節に起きることが多い。 梅雨が明けて日が照り、気温が急速に上がる一方で、湿度が高いためとても蒸し暑い。 体が暑さに慣れる(暑熱順化・しょねつじゅんか)前でもあり、冷房需要が急激に高まる。 通常は、7月下旬に起きるこの「梅雨明けピーク」が、今年は気象変動で1ヶ月早まってしまった。 これがいろいろなミスマッチを生じたと考えられる。 2.「逼迫に備えて原発再稼働」は正解か? むしろ、原発で大電力を供給するほうが遥かにリスク(この場合は停電リスク)が高いことは、東日本大震災と2007年の中越沖地震で経験ずみだ。 原発も火力も海沿いに多数立地しているから、津波に襲われれば被災する。仮に発電所に大規模な破壊が生じなくても、高圧送電線や変電所が被災すれば電気はこない。 地震や津波では原発こそ停電のリスクが高い。 ◎ 自然災害に強いシステムとは、むしろ一つ一つが脆弱でも、広く分散して設置され、地産地消の仕組みができているものが有利だ。 とはいえ大都市ではそれは困難なので、その場合はできるだけ消費地に近いところに立地し、被災しても早期復旧が見込める天然ガス火力がよい。 これを補完するためには立ち上げが早くメンテナンスも容易な石油火力を待機しておくことだ。もちろん、排ガス対策は十分行い、高機能で高効率なものに置き換える必要がある。 ◎ もう多くの人は忘れてしまったのかもしれないが、東日本大震災後の電力設備の復旧も圧倒的に火力が早い。 東日本大震災で被災した原発15基は、未だに1基も再稼働していないが、火力は震災の年の7月までに全て復旧している。 また、震災直後に大量のディーゼルやガスタービン発電機を調達し、電力供給を行うことも出来た。これは原発では不可能なことだ。 柏崎刈羽原発で被災した7基も、2011年までに再稼働できたのは4基に留まっていた。 こんなものに電力を頼っていたら、近い将来発生する南海トラフ地震では、日本中がブラックアウトしたまま復旧に長期間要することになる。防災対策上も極めて危険な事態を招く。 ◎ 夏の節電要請は、東日本大震災直後の2012年以来7年ぶりと各社報じたが、ではその前はいつだったかご存じか。 2007年である。この年の7月16日に中越沖地震が発生し、柏崎刈羽原発が全部止まったため政府から節電要請が出されている。(経済産業省関東圏電力需給対策本部決定 平成19年7月20日付け) 過去の節電要請は全て原発の停止が原因といっても過言ではない。 3.なぜ原発は動かせないのか(稼働中原発は4基のみ) ◎ 現在、新規制基準適合性審査を通過した原発は17基、そのうち再稼働をした原発は10基ある。残り7基は、現在も運転できる状態にはない。 7基の内訳は、東電柏崎刈羽原発6、7号機、日本原電東海第二、東北電力女川2号機、中国電力島根原発2号機、関西電力高浜原発1、2号機。 これらは全て「安全対策工事」または「特定重大事故等対処施設」建設が終わっていないか、地元合意を得ていないか、最も悲惨な場合は電力会社の運転資格を再確認中のもの(これが東電)である。 すなわち法的にも道義的にも動かせないものばかりである。 また、再稼働したうち6基は定期検査中で、稼働しているのは4基に留まる。 夏のピークだ、電力逼迫だといっても検査中の原発を動かせるわけがない。 どうしようもない理由で4基しか稼働できていないのに、そのツケを規制のやり過ぎだとか、反原発の圧力だとか、勝手な憶測をばらまいている参議院議員選挙候補者や政党の何と多いことか、更に問題なのは、経産省はこれ幸いとばかりに訂正することもなく、むしろ助長するかのように、必要もない電力逼迫注意報だ、警報だと、電力危機をあおり立てている。 ◎ だが、電力逼迫を引き起こした最大の犯人は経済産業省だ。 そのため責任追及を逃れようとして目先、矛先も変えようとしている。 震災後11年以上経つというのに、当時から指摘されていた問題点について何ら対策を講じることなく、漫然と「敢えて」時を過ごし、再生可能エネルギーへの投資を怠り、送電網整備の責任を放棄してきた。 そのことを指摘する報道も、ほとんど見られない。 経産省は、最悪の事態、例えば全国規模のブラックアウトを敢えて起こそうとでもしているのではないか。 そんな恐怖感さえ、昨今の政府の無策ぶりには感じてしまう。 実際にコロナ対策では、それに近いこともしている。 4.東西連系線(東・西の電源周波数を変換する)を強化する ◎ 2011年の東日本大震災の直後、電力危機が顕在化したことで政府は対策として「東西連系線の強化」を打ち出した。 東日本と西日本では電源周波数が異なるため、そのまま電気を送ることが出来ない。50ヘルツの東と60ヘルツの西の間に「連系線」「周波数変換所」が必要になる。 その変換所は現在210万kW規模が存在するが、これは震災時に120万kWしかなかったものを増強した結果だ。 しかしそれでも原発2基分程度で、足りるとは誰も思わない。 最終的には300万kWにする計画だが、未だ完成していない。 この設備には1750億円かかるという。だが震災後の11年間に柏崎刈羽原発の維持管理費用に累積1兆2千億円もつぎ込んできた東京電力にとっては、大した費用ではない。 日本列島は南北に延びているから、北海道と九州では気候が違う。 夏は南(というよりは大都市)が逼迫し、冬は北海道など寒い地方が逼迫する。 ならば、日本中で連系が出来れば、どこかで逼迫が生じても必要なところに電力が送れる。 効率よく設備が使えて良いことずくめだ。 しかし今までは東と西のエリア内で需給バランスは概ね収まってきたので、莫大な資本を投入することを電力会社は嫌った。 ◎ それならば、公共事業として作れば良い。 変換所を発展させ、日本中を直流送電で繋ぐのも一つの方法だ。 直流に変換すれば周波数問題は起きない。 大動脈として東西直流送電線を引くことを公共投資として行えば、電力需給問題は解決できるうえ、南海トラフ地震のような大規模災害対策にもなるのである。 そうなると、ますます原発の出番はなくなる。 原発を推進したいが為の、電力逼迫危機をあおり立てる政府・電力・政治家に警戒せよ。 |
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