[2006_06_30_02]たんぽぽ舎 今月の原発 新耐震設計審査指針のどこが問題か 山崎久隆(たんぽぽ舎2006年6月30日)
 「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(案)」に対する意見募集が6月22日までの期限で行われていた。
 1年半以上の期間審議を続け、その審議委員には神戸大学の石橋教授も参加をしており、従来の原発推進および御用学者が集まって作ったものに比べ一線を画すものとなったかと思うが、既存の原発を動かし続けることを前提とし、これまでの耐震設計審査指針の認めてきた構造計算を大筋で踏襲し新指針になったからといって旧指針、もっと古くは指針のない時代に設計したものであっても運転停止に追い込まれないように「苦心し」ていることは明らかだ。そのために随所におかしなところ、整合を欠いたり最新の見解を逸脱したりする部分が見受けられ、さらに曖昧さを多く残す結果ともなっている。
 以下は、バブリックコメン卜に宛てて送った意見である。スペースの関係で一部は項目のみを掲載する。なお()で補足したところはほとんど今回のコラム用に書き足した部分であり、送った意見の本文には含まれていない。

 1 耐震クラス分類は止めるべぎであり、全ての構造物を最も強度の強いクラスTとすべきである。

 旧耐震設計審査指針において「クラスA(As)、クラスB、クラスC」という分類があり、クラスCに至っては一般の構造物と同等でよいとされていた。原発のような「潜在的危険性の高い構造物」であってさえ「一般の構造物と同等」に過ぎない耐震強度の構造物を許していた上、さらに変更案でも同様に規定しているというのは、もはや理解の限界を超える。
 もちろん現在の指針案では一定の担保をしていると主張するであろうことは、指針案6の(1)で「上位の分類に属するものは、下位の分類に属するものの破損によって波及的破損が生じないこと。」と規定していることでも分かるが、具体的にいかなる場合がこういうケースに当たるのかは見当も付かない。
 原発のように個別に独立した構造物ではなく、放射能を内蔵するという意味においては全てが連動する装置類の集合体である構造物においては、個々に重要度分類を変えて(切り下げを許して)いくことに合理性を見いだすことは出来ない。
 従って、新しい指針では全構造物に一律の強度分類を与えるべきである。

2.地震調査研究推進本部の採用している活断層評価の方法を採用し、多数断層帯の同時連動を考慮して評価すべきである。

 近年日本各地で起きた地震を見ると、単一の断層ではなく複数の断層が一体となって活動したものがいくつも見られる。
 単独断層だけを評価する方法では、敷地に影響を与える地震の姿を正確に捉えることは出来ないのである。
 兵庫県南部地震も、六甲断層帯と淡路島西岸断層帯が連動したものであるが、事前にそれを知っていたものはどれだけいただろうか。
 しかるに近年、文部科学省地震調査研究推進本部は地震調査委員会の活断層の評価を明らかにし、日本各地の危険度マップを公表している。
 特に2006年3月に運転差止判決を受けた志賀原発2号機については、邑知潟(おうちがた)断層帯の存在が大きな要因となったものであり、それは地震調査研究推進本部のホームページにもはっきりと示されているとおり、30年確率の最大値が0.1%以上ー3%未満である中程度の危険度(この断層帯は2%以下と評価)を示している。こういった最新の知見を取り入れることこそが原発のような危険な構造物の耐震設計指針に求められるのである。

 3 鉛直方向の地震力を曖昧にせず、1対1あるいは場合によっては水平地震力の1倍を超える値も適用すべきである。

 4 全ての耐震設計に於いて「弾性設計の範囲に収める」ことを求めるべきである。

 およそ溝造物や構築物の安全性を10分に担保するためには、予想される応力に対して「弾性範囲に収める」(一定の力を受け構造物が変形をしても元に戻ることが出来る取囲の強度)のが当然のことである。
 塑性変形(一定の力を受けて構造物が変形し人もはや元に戻らず変形が残ること)を起こしても破断に至らなければ内蔵された放射性物質を放出することはないというのは、一種の屁理屈であり、実際には起きてみなければ真実など分からない。
 もんじゅの配管構造が如何に強固なものであったとしても温度計のさや管が折れてしまえばナトリウムは噴出するのであり、1995年に現実に起きたが、起きるまでは誰もそんなことになると予想もしていなかった。
 このような予測不可能と言える事態を起こしたとしても、内蔵される放射性物質を放出してはならないのであるから、不測の事態に備えるという意味でも、弾性設計用地震動Sdだけでなく基準地震動Ssであっても弾性範囲に収める設計を求めるべきである。

 5 「震源を特定せず策定する地震動」では少なくてもM7.3を想定すべきである

 6 残余のリスクとは何を示すのか個別に明記すべきである。

 突如として今回の指針に現れた「残余のリスク」とは、平たく言えば「耐震設計指針において手当てしてもなお残る、想定外の地震発生や予期せぬトラブルが重なっての公衆の放射線被曝のリスク」ということである。
 要するに指針を策定してもなお、その想定が突破されてしまうことがあり得るという、制定側の「責任逃れ」といっても過言ではないだろう。
 このような「残余のリスク」などと言い出すのであれば、全原発について「残余のリスク」を計算し少なくても立地道県民に示す義務があると考える。その後、なおそれを受け入れるかどうか、住民投票なりで意志を問うほどの責任があるものと考える。そうでなければ、「残余のリスク」などと軽々しく言うべきではない。
 さらに「残余のリスク」というのならぱ、現在多発している制御棒の破損や配管のひび割れなどはまさしく想定不可能なリスクの要因となるのであり、少なくてもこういった事故力起きた原発は「残余のリスク」がいたずらに増大する結果となる。従って、このような原発の運転は認めないことを明記すべきである。

 7 原発の設置されている地盤の崩壊や変位を考慮すべきである。

 8 津波の影響を考慮すべきである。
 9 多重事故にも備えることを明記すべきである。
※上記本文に関連する長期評価のサイト

KEY_WORD:活断層_:HANSHIN_:SIKA_:MONJU_:TSUNAMI_: