[2006_05_26_01]原発と地震 揺らぐ耐震性 見直し急 耐震指針(朝日新聞2006年5月26日)
 リアス式海岸が続く福井県敦賀市の敦賀半島。海岸線だけでなく山すそも曲がりくねっている。しかし、岬の先端にある日本原子力発電敦賀原発1号機と隣の2号機の炉心からわずか300メートルほどの山すそは、北西から南東にかけてほぼ一直線になっている。政府の地震調査研究推進本部は04年1月、航空写真などから、ここに活断層が走っている認定。一連の活断層帯が動けば「マグニチュード7.2程度の地震が推定される」と発表した。
 20数年前、2号機建設前の調査で、この断層は古いから地震を起こさないと判断した原電は「仮に、活断層であっても原発は安全と04年に数値計算で確かめた」と説明する。にもかかわらず「万全を期すため」、昨年10月、山すそを大きく削り、改めて調査を始めた。調査結果は秋ごろに報告する予定だ。

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 地球上の陸地の0・3%しかない日本の周辺で、世界の地震の約1割が起きる。そこに世界の13%にあたる55基の原発が集中している。
 「どきっとするでしょ」。元東大地震研究所長の茂木清夫・東大名誉教授が、03年に国際学会に発表した世界地図を手に説明する。1903年から2002年にマグニチュード7以上の地震が起きた場所と原発の立地場所を示してある。
 原発を103基もつ米国でも、地震が多い西海岸には4基しかない。欧州では大きな地震はほとんど起きていない。

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 「日本で原発の耐震安全性は最初から最重要課題だった」と明かすのは、敦賀1号機の耐震設計を担当した秋野金次さん(元原子力発電技術機構特別顧問)だ。
 設計は66年から始まった。新潟地震(64年)の被害状況のスライドを持って米国に渡り、原子炉を製造する米企業に耐震設計の大切さを説いた。
 設計不備を見破り、建物を強くするため1万5千立方bのコンクリートを追加させたこともあるという。「当時、耐震設計は、日本が世界を引っ張っていた」と振り返る。

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 その日本の建築物の耐震性への不信感が高まったのは95年の阪神大震災以降のことだ。ビルが次々に倒壊し、できたばかりの高速道路の橋げたまで落ちた。
 震災を契機に活断層の調査や揺れの観測態勢が充実し、地震学が急に進んだことも背景にある。
 今年3月、金沢地裁は原発に対する国の耐震指針=キーワード=が、予想される地震に対して十分ではないとして、北陸電力志賀原発2号機の運転差し止めを命じた。
 判決に遅れること約1カ月。約5年かけて指針見直しを進めていた原子力安全委員会は4月末、地震学の最新の成果を取り入れた新指針案を発表した。28年ぶりの全面改訂になる。
 「実際に起こりえないと考えられる直下型地震をも想起し、これに耐える設計を行っています」。泊原発を持つ北海道電力は、ホームページで原発の安全性をそう強調してきた。新指針案では、直下地震の想定が引き上げられており、担当者は 「起こりえないとは言えなくなる。どんな表現にするか検討中です」と戸惑いを果せた。

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 原発は地震が起きても安全なのか。関連する裁判や指針改訂が相次いでいる。気になる問題を各地の原発で探った。
 (添田孝史、林義則が担当します)

耐震指針

 「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」のこと。78年策定。@近くにある活断層やプレート境界などが起こす地震A直下地震(マグニチュード6・5、深さ10キロ)を想定して、その揺れに耐える設計を求める。新指針案は最近約30年の地震学の進歩を取り入れた。揺れを計算する方法が見直され、直下地震の想定も2〜3割大きくなる。
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