[2022_07_16_03]島根原発2号機の再稼働同意 知事「苦渋の決断」の余波(産経新聞2022年7月16日)
 
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島根原発2号機の再稼働同意 知事「苦渋の決断」の余波

 島根県の丸山達也知事が6月、中国電力島根原発2号機(松江市)の再稼働同意を県議会で表明した。これにより、全国で唯一県庁所在地に立地する原発の再稼働へ向けた地元同意の手続きは完了した。中国電力は来年以降の再稼働を目指すが、原発の安全性に対する不安の払拭や30キロ圏内46万人の住民の避難計画など、課題も残る。同意に向け、地元ではどのような動きがあったのか。

 ■「やむを得ないと考え、容認」

 6月2日に開かれた島根県議会。丸山達也知事は議会の冒頭、緊張した面持ちで発言を求めた。「島根原子力発電所2号機の再稼働判断について、申し述べさせていただきます。現状においてはやむを得ないと考え、容認することといたします」
 丸山知事は、その後約40分間にわたり、判断に至るまでの経過や安全性や避難対策といった論点に対する認識を説明。「県民に不安や心配が残るものであり、苦渋の判断だ」「不安や心配のない生活を実現するためには、原発はない方がよく、なくしていくべきだと私も考えている」と語った。
 ただ、天候に左右される再生可能エネルギーや省エネのみによる電力供給では、供給の不安定さや国民負担の増加など、生活や地域産業に大きな負担が生じる懸念があり、「現状では原発が一定の役割を担う必要がある」と強調した。
 また、再稼働を容認する判断をした者の責任として、引き続き中国電力が安全に原子力発電所を運転するよう、動向を厳正にチェックするとともに、避難対策の向上に取り組むなど、必要な対策をとっていくと締めくくった。

 ■判断への賛否

 島根原発2号機が営業運転を始めたのは、平成元年。東日本大震災で事故が起きた東京電力福島第1原発と同じ「沸騰水型」と呼ばれるタイプで、出力は82万キロワット。24年から検査のため運転を停止しており、中国電力は25年に再稼働の前提となる審査を原子力規制委員会に申請、昨年9月に合格した。来年2月に安全対策工事を完了する予定。その後も、「使用前検査」などがある。
 島根原発2号機が動き出すためには地元の同意が必要。3月までに原発がある松江市に加え、避難計画の策定が必要な原発30キロ圏内の島根県出雲市、安来市、雲南市と鳥取県、鳥取県米子市、境港市が同意を示していた。
 残る島根県の丸山知事が今回、再稼働同意の判断を下すことは、既定路線という見方も強かったが、議会での同意表明では慎重な言い回しも目立った。
 それには、島根、鳥取両県で原発30キロ圏内には約46万人が住み、全国で3番目に多い、という事情もある。反発の声も残っているからだ。
 再稼働反対派の市民グループは、丸山知事の判断を受け島根県庁前で抗議集会を開き、メンバーの一人は「知事は、最初から市民の声を聞く気がなかった。再稼働は以前から決めていたのだろう。避難計画の内容も周知が進んでおらず、46万人の命を軽んじている」としていた。
 隣の鳥取県の平井伸治知事も、丸山知事の判断に一定の理解を示した上で、「折に触れて中国電力から報告を受け、厳しく安全性をチェックしていく」と注文をつけた。

 ■残る課題

 原発再稼働問題は、地元の政界にも影響を与えている。10日に投開票される参院選では、鳥取・島根合区に5人が立候補している。自民党現職に、立憲民主党、共産党、NHK党などの4人の新人が挑む構図だ。
 令和元年の参院選では、野党共闘として統一候補者が立ったが、今回は原発問題に対するスタンスの違いもあり、統一候補の擁立には至らなかった。
 ある陣営関係者は「原発ゼロを掲げる党と、ゼロまでは踏み込めない党では、共闘は難しい」と説明する。だが、「再稼働問題はすでに決着がついたこと」という空気もあり、論戦は深まっているとはいえないようだ。
 来春には島根県知事選と統一地方選が予定されており、ある県議は「再稼働後に向けた住民の安全・安心を守る議論が必要となるだろう。選挙は荒れるかもしれない」と話していた。(藤原由梨、松田則章)
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