[2022_05_16_01]火山の崩落が大津波を起こし、15000人の命を奪った島原大変肥後迷惑から230年_福和伸夫(ヤフーニュース2022年5月16日)
 
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火山の崩落が大津波を起こし、15000人の命を奪った島原大変肥後迷惑から230年_福和伸夫

 火山と津波

 今年の1月15日にトンガの海底火山が巨大噴火しました。噴火による空気振動が潮位変動をもたらしたとみられ、津波のような現象が日本の太平洋岸で観測されました。火山と津波は一見関係ないように見えますが、津波のうち、1割程度は火山噴火や海底の地滑りが原因しているようです。日本では、過去に火山が原因する津波が繰り返し起きています。最も有名なのは、1792年に起きた雲仙普賢岳の眉山崩壊による津波で、他にも1741年の北海道の渡島大島の崩壊による津波や、1640年に起きた北海道駒ヶ岳の山体崩壊による津波などがあります。
 津波は起きなかったものの、1888年7月15日に起きた磐梯山の噴火では、大規模な山体崩壊によって山の形が大きく変わってしまいました。アメリカでも、1980年5月18日に、セントへレンズ山が地震に続いて山体崩壊し、さらに内部のマグマが噴出して大規模な火砕流が起きています。火山噴出物は崩れやすいため、噴火だけでなく揺れによる山体崩壊も大きな災害を引き起こします。

 島原大変肥後迷惑

 今週、雲仙普賢岳の眉山崩壊から230年を迎えます。1792年5月21日の夜、島原半島にある雲仙普賢岳の眉山が、火山性の地震によって山体崩壊しました。崩落した土砂は島原城下を埋没させ、さらに有明海まで流れ込み、大津波を引き起こしました。津波は、島原に加え、対岸の肥後国(熊本県)にまで達し、島原で1万人、肥後国で5千人もの犠牲者を出しました。当時の日本の人口は今の1/4程度ですから、大変な被害だったことが分かります。この時に流れ出た土砂の跡が九十九島と呼ばれる島々です。島原での山体崩壊で、肥後が大きな迷惑をこうむったことから、島原大変、肥後迷惑と呼ばれています。
 普賢岳では、崩落の100日前の1792年2月10日から火山噴火が始まっていました。普賢岳の溶岩は粘り気が強いため溶岩ドームができやすく、これが火山性の地震の揺れで一気に崩れたようです。島原大変肥後迷惑の前には、1779年の桜島の安永大噴火や1783年の浅間山の天明大噴火もありましたが、死者の数は島原大変肥後迷惑が圧倒しています。その大きな原因が津波でした。
 雲仙普賢岳では、溶岩ドームの崩落が32年前にもありました。1990年11月17日に、約200年ぶりに噴火活動を再開し、1991年6月3日に、溶岩ドームが崩れて大規模な火砕流が発生し、死者40人、行方不明3人と、多くの犠牲者を出しました。

 南北に引っ張られてできた別府−島原地溝帯での地震

 別府から島原にかけて溝状の地形が東西に連なっています。南北に引っ張られる力によって落ち込んだ場所で、別府−島原地溝帯と呼ばれています。この地溝帯の南縁にあるひび割れ(活断層)が、6年前の2016年に熊本地震を起こした布田川帯・日奈久断層帯です。熊本地震では、2度の震度7の揺れが襲いました。この活断層の東には、1596年慶長豊後地震を起こした別府・万年山断層帯が続いています。また、地溝帯の北側にある水縄断層帯では、679年に筑紫地震が起き、5年後の684年には、歴史に残る最古の南海トラフ地震・白鳳地震が起きました。
 ちなみに、別府・万年山断層の東側には中央構造線が、さらにその東には1995年兵庫県南部地震を起こした六甲断層帯がありますが、慶長豊後地震の前後には、これらの活断層で、慶長伊予地震と慶長伏見地震が起きています。ちなみに、中央構造線には、伊方原子力発電所が、日奈久断層の南西には川内原子力発電所が立地しており、心配されています。
 ひび割れができるとマグマが貫入しやすくなりますから、地溝帯には東から、鶴見岳・伽藍岳、由布岳、九重山、阿蘇山、雲仙岳などの火山があります。ちなみに、阿蘇山は、熊本地震の半年後に爆発的な噴火をしました。
 また、火山のマグマは、周辺の地下水を温めるので、有名な温泉が沢山あります。大分県には別府、由布院の温泉群が、阿蘇には黒川温泉などの温泉群が、島原半島には雲仙温泉、島原温泉、小浜温泉などの温泉群があり、火山によってできた風光明媚な景色を眺めつつ温泉に浸かることができます。

 崩れやすい火山噴出物

 火山によって作られた九州の山々は、季節風を受け止めて、雨の恵みをもたらし、その雨水は火山灰で濾過されて、美味しい湧水となって平地に現れます。例えば熊本市は、水前寺公園をはじめ湧水や地下水に恵まれています。一方で、豪雨災害も起きやすく、2017年九州北部豪雨や2020年7月豪雨では多くの犠牲者が出ました。火山噴出物によって作られた急峻な地形が、球磨川などの急流河川を作り、急斜面は崩れやすく、地震の揺れや豪雨によって土砂災害が起きやすい場所でもあります。熊本地震の時には阿蘇大橋周辺で多くの土砂崩れがありました。
 このように、日本は素晴らしい自然に恵まれる一方で、災害とも隣りあわせでもあります。災害が起きていないときに、周年災害を思い出して少しでも備えを進め、被害を減らす努力をしておきたいと思います。

 福和伸夫
 名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
 建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。
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