[2023_07_28_01]福島第一原発の汚染水と原発(大事故を起こしていない)廃液は同じか? 原発から大量のトリチウムを放出するのも問題 全ての放射性物質の排出を止めることが重要 (上) 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2023年7月28日)
 
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福島第一原発の汚染水と原発(大事故を起こしていない)廃液は同じか? 原発から大量のトリチウムを放出するのも問題 全ての放射性物質の排出を止めることが重要 (上) 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 
 汚染水の学習会やレポートに関連して何度か質問を受けた「(大事故を起こしていない)原発廃液と福島第一原発の汚染水の違い」について文章化しました。

◎ 最初に断っておきますが、原発や再処理工場など原子力施設からの排水には放射性物質が含まれます。これらは人体や環境に影響を及ぼしており、その土台の上に「福島第一原発の汚染水排出」が積み重なります。
 日本以外の国でも、原発などから放射性物質を排出する行為は、人体や環境になにがしかの悪影響を与えるものであり、認められるものではありません。
 しかし原発からの排出は問題にしないが、「福島第一原発の汚染水は問題だ」という論理も成り立ち得ます。そこには福島第一原発の汚染水と原発(大事故を起こしていない)排出水の発生源の違い、管理の違い、含まれる放射性物質の違いなどがあるからです。
 これらを一緒くたにするべきではないことは、そのとおりです。

◎ 私は個人的に、どっちも反対ですから、結論は原発処理水、福島汚染水、再処理工場廃液のいずれも海や大気に捨てるな、という立場です。
 しかしそれぞれが発生原因や管理状態、更に物理的にも異なることを十分認識した上でのことです。
 それらを認識せず「原発と同じ排水なのに、何に反対しているのか分からない」という人にこそ、読んでいただきたいと思います。
 そのうえで、海や大気に放射性物質を事実上無限に放出し続ける原子力産業こそが、問題の根幹にあることを理解し、福島汚染水に加え、計画されている六ヶ所再処理工場の運転開始を何としても止める必要があることを理解してほしいのです。

1.原発の廃液は、いきなり海に放出することはありません

◎ 廃液の発生地点により、処理系は複数系統に分かれていて、ドレン系などの廃液や床の洗浄廃液や作業服の洗濯廃水などの液体廃棄物は、ろ過、イオン交換樹脂による処理に加えて一部は蒸留処理を行い、その処理済み水は回収して再利用し、さらに余剰になった水は放射能濃度が規制値を十分下回っていることを確認してから海洋に放出することになっています。
 また蒸留処理に伴い発生した濃縮廃液や使用済みイオン交換樹脂は、ドラム缶で固化処理を行い保管されます。これは後日、六ケ所村の低レベル放射性廃棄物処分場に送られるものがかなりあります。

◎ 元の廃液中に含まれる放射性物質は、その多くは燃料棒から漏れる、あるいは燃料棒の外で生じる核分裂に伴う希ガス、ヨウ素類ですが、これらの多くは処理系で分離し、気体成分の多くは排気筒から排出され、ヨウ素系はフィルターやイオン交換樹脂などで補修され、さらにさびなどに由来する鉄系(鉄、ニッケル、コバルトなど)はフィルターや濃縮廃液に残り、排水には出ません。
 もう少し詳しく、原子力百科事典 ATOMICA等を参考にして説明します。

◎ 放射性物質を含む廃液は、次の三つに分類されます。
 低電導度系、高電導度系、その他洗濯廃液系です。これらに分けられたのちにそれぞれの処理系で処理されます。

(a)低電導度廃液は、原子炉水や復水等を取り扱う機器から発生する機器ドレン水等で、比較的高い廃液です。この廃液は、収集槽に集められ、ろ過および脱塩処理された後、その処理水は発電所内へ回収され冷却系統で再使用されます。放射能濃度は他の廃液に比べやや高い水準ですから、濾過脱塩系統の廃棄物は放射性廃棄物として処理され、水は外部にはほとんど出さないようです。

(b)高電導度廃液は、復水廃液等の化学廃液や床ドレン等で比較的低い濃度の廃液です。この廃液も収集槽に集められ、濃縮蒸留および脱塩処理した後、この処理水も発電所内へ回収され、再使用されますが、発電所内で使い切れない廃水が生じた場合には放射性物質濃度を測定したうえで海に放出されます。

(c)洗濯廃液は汚染管理区域内で装着する衣服等の専用洗濯設備から発生しますが、放射能濃度は極めて低いと考えられています。そこで、ろ過後、逆浸透膜処理装置等で処理し、再使用したり放射能濃度を測定した後に海に放出されます。

2.複雑な処理の中でも独特の性質を有するのが加圧水型軽水炉の一次系廃液処理系です

◎ それは、一次系廃液にはトリチウムを多く含むからです。
 加圧水型軽水炉の場合、一次冷却材には、ほう酸とリチウムが添加されており、これが原子炉中でトリチウムを生成する大きな原因になっています。いずれの元素も中性子を吸収するとトリチウムを生成します。
 ウランやプルトニウムが核分裂した際にもトリチウムは生成します。
 ただし、燃料棒が破損していない限り冷却材中にはあまり出ませんから、これらは核燃料中に封じられます。核燃料の外側に存在する微量のウランやプルトニウムが分裂する際には分裂片のトリチウムが冷却材中に出ることになります。

◎ しかし圧倒的な量はホウ素とリチウムから生成されるトリチウムです。再処理工場で膨大な量のトリチウムが発生するのは、核燃料を細断し硝酸溶液に溶かすからです。燃料ペレットなどに封じられていたトリチウムも全部溶解液の中に出てしまい、最終的には環境中にほとんど出ていきます。

◎ 沸騰水型軽水炉では、ほう酸やリチウムは添加しませんので、発生するトリチウムは水中に含まれる微量の重水から生成されるものと、核燃料外部のウランやプルトニウムから生成されるものと、燃料棒の微細な穴や金属の格子隙間(水素原子は十分小さいので金属原子間からも出ます)から出るものがあります。
 その差は、例えば2010年以前に福島第一原発全体で排出されていた通常運転時のトリチウム量が平均2兆ベクレル程度であったのに対して、大飯原発の年間放出量が平均80兆ベクレル程度で40倍だったことでも分かります。(大飯原発が4基だった時期の電気出力は471万キロワットに対して福島第一原発6基合計で469.6万キロワットの、ほぼ同規模で比較しています)

◎ なお、カナダ型重水炉(CANDU炉)は、減速材として重水を使
います。
 日本には今は存在しませんが、同種の重水炉としては原子力研究開発機構の「ふげん」がありました。
 重水は中性子を吸収して三重水素を含むトリチウム水になります。
 水からトリチウムになるよりも容易ですから、膨大な生成量です。そのためCANDU炉を多く建設したカナダでは、早くからトリチウムの汚染に見舞われてきました。周辺の健康被害などについても論文が出ています。
                 (下)に続く
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