[2024_09_12_01]MOX燃料の価格は極めて高い 再処理に経済性はない 使用済燃料の行き場はない 核燃料サイクル政策を終了させよう (上)(2回の連載) 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2024年9月12日)
 
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MOX燃料の価格は極めて高い 再処理に経済性はない 使用済燃料の行き場はない 核燃料サイクル政策を終了させよう 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

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◎ 六ヶ所再処理工場の操業開始は、これまでの目標「2024年度の早い時期」から「2026年12月まで」と、27回目の延期を発表した。
 「見通しの立て方が甘かった」。日本原燃の増田尚宏社長は8月29日の記者会見でこう述べた。
 9月完工などあり得ないと誰もが感じていた矢先の遅すぎる発表には、背後に「核燃料サイクル政策からの撤退を絶対阻止」したい経産省など国の圧力が重くのしかかっていたと感じる。

◎ 現実には、審査を受ける日本原燃の「おそまつ」さが際立つが、これは同時に「絶対運転させてはならない」ことも意味している。
 たかだか「新規制基準適合性審査」を受審するためだけに、いったいどれほどの「苦労」をしているのだろう。
 言うなれば、シミュレーションを行うだけでやっとのパイロットを、大量の乗客を乗せる航路に就航させようとするレベルだ。
 「飛ばそうとする」ものは「新規制基準適合性審査」さえ通過しないレベルの再処理工場である。
 こんなものに誰が乗るか。
 しかし世界中の人々は否応なしにこの再処理工場の影響を受けるのである。

1.使用済燃料の行き場はない

◇ 再処理事業は日本では事実上「強制」である。原発事業者に対して義務づけられているのに等しい。
 使用済燃料を再処理してプルトニウムとウランを取り出し、再び燃料として使う計画を「核燃料サイクル政策」というが、これは事業者の選択ではなく国策として進められていて、法律で決められている。

◇ 費用を管理するのは「使用済燃料再処理・廃炉推進機構*」(以下、機構)という国の機関だ。
 適用される法律は「原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施及び廃炉の推進に関する法律」という。
 だが、実際に再処理工場を建設し運営するのは今まで通り日本原燃((株))であり、これらの「立て付け」は結構ややこしい。

◇ さらに「再処理が義務」の意味は、原発を有する会社は使用済燃料を「再処理」しなければ、そもそも「処分」できない仕組みだからだ。
 使用済燃料は約4年ほど原発で燃やし終えた後は、使用済燃料プールで冷却される。
 その後は、再処理工場に運んでプルトニウムとウランに分離した後に、残った廃棄物を高レベル放射性廃棄物などのレベルに分類し処分する。
 再処理工場で発生した廃棄物は日本原燃、加えて原発から出た廃棄物も日本原電が運営する六ヶ所村の「低レベル放射性廃棄物埋設センター」で「処分」する。いずれも電力会社からは離れる。

◇ しかし使用済燃料は、そのままでは処理処分の方法がない。
 海外では乾式貯蔵などの方法で廃炉になった原発敷地で保管、管理する例はあるが、日本ではそういうことは今の法律の下では、できない。
 原子炉を設置する際の許可条件に、使用済燃料について全て再処理工場に運び、再処理することが前提となっているからである。

◇ なお、最近は「中間貯蔵」と称して、再処理工場に運ぶ「中間」の位置づけで保管する施設を許可するケースがあるが、これも結局は再処理工場を終着点としているので実質大きな変更ではない。
 使用済燃料をそのまま地下に埋める処分方法を検討している国はあるが、実行しているところはない。
 日本も使用済燃料をそのまま埋め捨てにできる法律ではないから、現状では不可能である。

◇ つまり、法令上は再処理しない限り処分方法が「存在しない」ため、全ての事業者は再処理前提で原発を稼働させ、使用済燃料を「保管」しているに過ぎない。
 立地自治体と事業者の間での協定で、使用済燃料は原発敷地外に搬出することを前提としている根拠はここにある。
 しかし現在は、その前提条件が再処理工場の事実上の「破綻」で崩れている。
 仮に2026年末に稼働したとしても、今も再処理工場の3000トンのプールは一杯で、稼働しても再処理は始まらない。

◇ まず、過去に実際の使用済燃料を使用して行った「アクティブ試験」(2006年から2008年)で発生している高レベル放射性廃棄物のガラス固化が失敗した状態なので、これをガラス固化することから始まる。
 しかし、これがうまくいくとは思えない。
 そのため、今後も使用済燃料は原発に貯まり続ける。特に再稼働した原発は、背に腹はかえられないとして、原発敷地に次々と「中間貯蔵施設」を造ろうとしているが、約束違反である。

*「使用済燃料再処理・廃炉推進機構」:核燃料サイクル政策を推進することを目的に2016年10月に設立、当初は使用済燃料再処理事業およびMOX燃料加工事業を推進する事業体だった。2023年の岸田政権による
「GX脱炭素電源法」の制定により原発等の廃炉事業推進も事業目的に加えられ名称に「廃炉」が加わっている。

2.経済性のないプルサーマル

◇ 再処理には巨額の費用がかかる。
 日本原燃によると本体の建設費用などの再処理事業とMOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料加工事業の総事業費も2024年6月には15兆1千億円と、前年より4千億円増加した。
 今回、2年余りの「遅れ」で、さらに費用はかさむ。
 再処理について義務化されているという「根拠」のもう一つは、「再処理拠出金」が原発事業者に義務づけられていることだ。
 再処理にあたり、機構は各原子力事業者から使用済燃料に再処理拠出金を賦課している。

◇ 金額は、使用済燃料1グラム当たり約680円。
 BWRの燃料集合体一体の重量は約300キログラムある。
 そのうち燃料材質量は概算171キログラムと仮定する(女川の燃料体検査申請書から)。これを単価680円で再処理した場合の費用は「1億1628万円」になる。
 これで取り出せるプルトニウムの量は、重量当たり1%とすると、1710グラムだ。グラム当たりでは68000円に相当する。

◇ MOX燃料には4〜9%のプルトニウムを入れるから、BWR燃料(8×8型)では最大で15.4キログラムのプルトニウムが入る。
 単純計算でMOX燃料の価格は10億4720万円という途方もない金額になってしまう。
 これは通常のウラン燃料の18から30倍の価格だ。大間原発のABWRの燃料は872体だから、9兆1316億円というあり得ない金額になる。

◇ こんな原発に経済性はない。
 そもそも計算していてばかばかしくなる金額である。本気でこんなMOX燃料を使う原発が存在し得ると考えるのか。
 東電にこの計算を示すと、結論としてMOXの価格はこの計算の約70分の1になると回答した。

◇ 言い換えると、プルトニウムの単価はグラム当たり96円と考えるというのだ。それで計算した大間の全炉心燃料価格でも「1440億円」である。
 これでもウラン燃料体の3倍から5倍に相当する。
 そのうえMOX燃料は性能が悪く、通常のウラン燃料体ならば4年燃やせるが、MOXは3年しか燃やせない。これで75%に落ちるので、これで比較すれば3.7から6.3倍である。

◇ 加圧水型軽水炉である高浜原発のMOX燃料体を輸入した際の価格について朝日新聞は1体約12億400万円との記事を掲載している。
                      (2023年7月8日)
 これは既に大量のMOX燃料を製造しているフランスのアレバ社が製造したものだから、価格は比較的安く抑えられていると考えられる。

◇ 加圧水型軽水炉と沸騰水型軽水炉では燃料の構造や炉心燃料の数がかなり異なる。117万キロワットの大飯原発4号機は燃料体は193体、一方、110万キロワットの東海第二などは764体だ。

 この発電量と燃料体の数の比率でMOX燃料の沸騰水型軽水炉の価格を割り出すと、3億415万円である。
 東電の計算では54%にしかならない。従って、東電の計算は実勢価格の半分程度しか想定していないと思われる。(他に輸送費や関税などが含まれる可能性はある)

◇ 結論として、ウラン燃料に対してMOX燃料価格は少なく見積もっても10倍以上になる。
 そのうえ国内再処理は日米原子力協定により上限が決められているため、経済性を追求できる状況にはない。
 取り出すウラン(回収ウラン)を使うあてもない。
 高レベル放射性廃棄物の行き先も決まらず、処理処分費用も全くの想定でしかない。
 こうした核燃料サイクル政策を進める合理的理由はない。

 もちろん、二酸化炭素削減効果など期待すべくもないこと、はいうまでもない。
 これに、大量の放射性物質の海洋、大気放出と、事故時の極めて巨大な放射能災害を考慮する必要があることも付け加えておく。
 核燃料サイクル政策は、成り立たない政策である。

           (初出:9月5日「金曜ビラ」たんぽぽ舎発行)

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