[2025_06_07_02]<社説>東電株主訴訟 原発事故の責任どこへ(東京新聞2025年6月7日)
 
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<社説>東電株主訴訟 原発事故の責任どこへ

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 東京電力福島第1原発事故を巡る株主代表訴訟で東京高裁は旧経営陣の賠償責任を認めなかった。刑事裁判の無罪確定に続き、当時の幹部が誰も法的責任を負わないことになる。到底納得できず、原発への不信は増すばかりだ。
 一審の東京地裁は、過去最高額とみられる13兆円超の賠償を命じた。正反対の判決となったのは、巨大津波を予見できたか否かの判断が分かれたためである。
 東電は2008年、国の地震予測である長期評価を基に、津波が最大約15メートルに達するとの試算を得たが、旧経営陣は原発を停止せず、津波対策を先送りした。
 高裁判決は、長期評価には積極的な根拠が示されておらず、信頼性が不十分だと結論付けた。「巨大津波は想定外」という旧経営陣の主張を丸のみした形だ。
 しかし、長期評価はトップレベルの専門家らがまとめた見解である。地震や津波の研究には未知の領域が多いとはいえ、それに基づき対策を進めるべきだった。
 原発事業者が、他企業とは比較にならないほど重い安全義務を負うことも忘れてはならない。重大事故が起きれば地域社会が崩壊し、国全体も揺るがす。
 原発事故後、福島の多くの人々が故郷を離れざるを得なかった。避難中に死亡したり、自殺した人もいる。事故処理費用の一部は電気料金に組み込まれ、全国の家庭や企業が負担している。旧経営陣を免責した今回の判決は、国民の感情を逆なでしている。
 旧経営陣が対策を先送りした背景には、目先の利益優先の姿勢がある。建屋の水密化などに相応の費用がかかり、運転停止で収入が見込めなくなるからだ。
 一方、東電が背負った事故処理費用は廃炉や除染、被災者への損害賠償などで計23兆円余と天文学的な金額に上る。経営判断を大きく誤ったのは明白だ。
 経営者が常に正しい判断ができるとは限らない。判断を誤った際に、絶対に償うことができない巨大なリスクを抱えていることが、原発の不条理の証しである。
 原発事業の未来は明るいとは言えない。安全対策費用は膨らみ、事故時の住民避難計画は実効性に乏しい。核のごみを処理する核燃料サイクル計画も破綻している。
 国は「原発回帰」に舵(かじ)を切ったが、矛盾が膨らむ現実を直視すべきである。
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