[2020_05_21_05]曲折の6年 再処理「合格」 (7)激変 核燃サイクル混迷 稼働制限の可能性も(東奥日報2020年5月21日)
 
 「私に託された使命は、各施設を審査に合格させ、工事を安全、確実に進めること」。2019年1月に就任した日本原燃の増田尚宏社長は、就任前の会見でこう決意を語った。
 東京電力の総務・企画部門出身者が社長を務めることが多い原燃の中で、増田氏は異例の技術畑出身だ。11年の東電福島第1原発事故発生時、増田氏は第2原発所長として同原発の復旧を指揮、その後は第1原発の廃炉に最前線で当たった。増田氏の起用は技術への精通はもちろん、安全意識の高さを買った原燃上層部の意向で実現した。
 原燃施設の要である再処理工場はようやく、審査の「事実上合格」を得て、増田氏の決意は形になりつつある。だが皮肉なことに、原発事故の影響に加え、審査に費やした6年余の歳月で、核燃料サイクル事業を取り巻く環境は激変した。
 日本は、原発で使い終え.た燃料を再処理してプルトニウムとウランを取り出し、MOX燃料に加工後、高速増殖炉と、一般の原発で燃やすプルサーマルの二つの輪(サイクル)で再利用する政策を掲げてきた。
 MOX燃料を使う大本命だった高速増殖炉は、16年に原型炉「もんじゅ」(福井県)の廃炉決定で、国と電力業界の描いた構想は崩れた。国は高速炉開発の旗を降ろしていないが、日仏で共同研究を進める実証炉を巡りフランス側が規模縮小の方針を示すなど、先行きは不透明だ。
 サイクルの停滞で、日本は約45・7トン(18年末)のプルトニウムを抱える。英仏への再処理委託や六ヶ所工場の試運転で発生したものだ。フルトニウムは核兵器へ転用できるため、国際社会は多くの在庫を保有する日本に厳しい視線を注ぐ。
 再処理工場は、フル稼働で年間800トンの燃料を処理し、約7トンのプルトニウムを生み出す。新たに生産される分を含め、ブルトニウム消費の使命は、プルサーマルに託されている。
 現時点で再稼働に至ったプルサーマル炉は4基のみ。経済産業省によると、4基で年間2・3トンのプルトニウムを消費する一方、審査中の6基が稼働すれば計6トンに増える。また、電気事業連合会が計画する「16〜18基」まで稼働が進めば8・5〜10トンを使用でき、経産省幹部は「今あるストックも時間をかけて消費できる」と説明する。
 だが、プルサーマルを検討中の原発で審査が未申請のものもあり、試算が実現するかは見通せない。全炉心でMOX燃料を燃やし、より多くのブルトニウム消費が期待できる大間原発(大間町)は、審査の序盤で足踏みが続いている。
 電事連は、再処理工場の完成時に、プルサーマル発電について新たな利用計画を公表するとしている。
 エネルギー政策にも揺らぎが垣間見える。国の中長期的な指針となる「エネルギー基本計画」は原発事故後の14年、「中長期的な対応の柔軟性」を従来以上に強調、18年には初めてプルトニウムの削減方針を盛り込んだ。国の原子力委員会も「必要な量だけ再処理されるよう認可する」との考え方を決定。再処理工場の稼働が制限される可能性が出てきた。
 激変する環境の中で変わらないこともある。工場から発生するガラス固化体(高レベル放射性廃棄物)の最終処分場は、候補地の選定作業が難航し、議論は遅々として進んでいない。なし崩しで本県が最終処分地となる懸念は消えない。
 「核燃サイクル阻止1万人訴訟原告団」の浅石紘爾代表は「工場の稼働が大幅に縮小すれば、結局、六ヶ所は使用済み核燃料などの廃棄物の捨て場と化す。地元と取り交わした基本協定の精神に背き、信頼関係を破るものだ」と指摘する。
 梶山弘志経産相は15日、「直面する課題を解決しながら核燃料サイクル政策を推進していく」と強調したが、その足元は揺らぐ。着工から四半世紀以上たった今も完成に至っていない再処理工場と、数々のほころびをみせるサイクル政策は、地元の不実も抱えて混迷の中を進む。(加藤景子、佐々木大輔)
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