[2018_01_27_03]誰も審査しないプルサーマル原発の安全性  原子力規制委も投げ出しているプルサーマル計画 原発の安全性審査に「プルサーマル原発の安全性」はない プルサーマル計画は核のゴミ問題を深刻化させる 山崎久隆(たんぽぽ舎)(たんぽぽ舎2018年1月27日)
 
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誰も審査しないプルサーマル原発の安全性  原子力規制委も投げ出しているプルサーマル計画 原発の安全性審査に「プルサーマル原発の安全性」はない プルサーマル計画は核のゴミ問題を深刻化させる 山崎久隆(たんぽぽ舎)

目次
1.現状…燃やすあてがないプルトニウム利用計画 核燃料再処理をやめよ
2.帳尻あわせも不可能
3.原子力規制委の怠慢、過酷事故対策として追加した設備類を調査審議すべき
4.プルサーマルの安全審査をやり直せ
5.電力会社ごとのプルトニウム収支問題
6.プルサーマル計画は核のゴミ問題を深刻化させる

1.現状…燃やすあてがないプルトニウム利用計画 核燃料再処理をやめよ

 現在稼働中の原発は4基、伊方原発3号機も定期検査が終われば2018年2月に稼働する予定だったが、広島高裁の仮処分決定により9月末まで運転差止が実現した。
 伊方原発3号機を含め5基のうち3基がプルサーマル原発で、他は高浜3、4号機だ。規制委はプルサーマル原発を狙って優先審査をしたと思われる。
 日本のプルトニウム利用計画は、3.11以後に事実上破綻状態となり、再処理で取り出していたプルトニウム約48トンは使うあてがなく、それにもかかわらず六ヶ所再処理工場の建設を中止しなかったため、燃やすあてがないプルトニウム利用計画となっている。

2.帳尻あわせも不可能

 プルサーマルは100万kW前後の原発では最大で炉心の3分の1をプルトニウム燃料体(MOX燃料体)で運転する。その際に0.3〜0.4トン(核分裂性プルトニウム換算)のプルトニウムを消費する。
 電源開発が建設中の大間原発(ABWR型138.3万Kw)だけは炉心全部をMOX燃料にする計画で、約1.1トンのプルトニウムを消費する。
 3.11時点で建設中だった原発のうち、大間だけが建設を継続したのは、これが理由である。(建設中は他に島根原発3号機があり、こちらはほとんど完成しているが、島根2号機の新規制基準適合性審査が終わらず完工していない。)
 六ヶ所再処理工場が稼働すれば年間8トン程度のプルトニウムが抽出される見通しで、この量はプルサーマル原発ならば約16基分だが、大間を含めれば15基になり、条件が緩和するというわけだ。
 現在運転中のプルサーマル原発は伊方を含めても3基だから、現状は大幅な余剰である。
 そのこともあり、安全上の問題を起こし規制基準適合性審査が中断している六ヶ所再処理工場の完工時期を日本原燃は21年上期へと3年先延ばしした。23度目の延期だ。
 プルサーマルの認可は3.11以前には泊3、大間、女川3、福島1−3、柏崎刈羽3、浜岡3、高浜3、4、島根2、玄海3の10基だった。このうち規制基準適合性審査が済んでいるのは高浜3と4、伊方3のみ。審査中は泊3、浜岡3、島根2、大間の4基である。
 なお、玄海原発3号機は2018年3月に再稼働を予定している。神戸製鋼所のデータ偽造事件で調査に時間が掛かり使用前検査が遅れたためだという。それまでは2018年1月の再稼働を計画していた。同じく4号機は3月が5月に変更されている。
 電気事業連合会は2010年までにプルサーマル実施原発を16〜18基程度としてきた。海外再処理分の残り37トンと国内約10トン及び六ヶ所再処理工場からのプルトニウムを消費するために必要量を計算した。
 原発がほとんど止まっている現状では、この計画が実現される見通しは立っていない。従って国際公約でもある「可能な限り早期に受給をバランスさせる」ことは不可能だ。
 現在の規制基準適合性審査済及び申請中の原発26基のうち3分の2をプルサーマル原発にしなければ消費しきれない。

3.原子力規制委の怠慢、過酷事故対策として追加した設備類を調査審議すべき

 規制委は新規制基準適合性審査ではプルサーマルの審査をおこなっていない。
 伊方も高浜も、地震や津波など設置許可時と条件が大きく変わった点について、設置許可変更申請を事業者から提出させ、申請書類の審査と過酷事故対策として行われた工事の確認を審査したに留まる。設置許可申請やプルサーマルの審査で行われている立地評価や炉物理的な評価は、全く行われていない。
 規制委の言い分は、過去の審査で行われた評価について改めて審議調査する必要はないということらしいが、それはおかしい。条件がまるで変わった地震や津波評価、火山ガイドなどに関しては、それを個別に審査する以前に立地そのものが正しかったのかを検証すべきだし、過酷事故対策として追加設置した設備類についても原子炉設備として本当に正しいのかをプルサーマル原発の観点から調査審議すべきである。
 3.11以後に福島第一原発事故の教訓と称して緊急対応で実施された仮設の注水設備や電源車などの対策は、あくまでも応急対策であり、これを恒久的な原子炉保護設備にするべきではない。成立性に大きな疑問のある消防ポンプ車による代替注水設備(原子炉圧力容器や格納容器、使用済燃料プールに対して既存の設備が使用不能となった際に消防用ポンプ車などを動員して注水する設備)や格納容器の代替循環冷却系(サプレッションプール水を外部に引き出し循環させ除熱できる系統の設備)など、既にいくつもの原発で施工してしまっているが、これらの成立性確認のための実規模試験などは一つも行われていない。
 特に格納容器ベントは、最後の砦として放射能を封じ込めるはずだった格納容器に穴を開けてしまうのだから、その妥当性を一から問い直すべきである。
 こうした規制委の怠慢に加え、MOX燃料を使った際の核燃料の挙動やメルトダウンへの影響、溶融燃料を含む臨界や再臨界のリスク、制御棒挿入失敗(ATWS)の際の挙動の違いなど、これまでのプルサーマル原発の審査では一切「大した違いではない」から無視されてきたのである。

4.プルサーマルの安全審査をやり直せ

 MOX燃料体とウラン燃料体では融点が20度ほどMOXが低くなる。一方、運転時の燃料体中心温度はMOXのほうが高くなる。その差は合わせても200度にもならないとされる。運転時の温度は1600度だが融点は2600度ほどだ。1000度もギャップがあるから200度程度は誤差範囲と思っているのだろう。
 しかし、炉心溶融に至る場合、どこかで溶融温度と燃料温度はクロスする。MOX燃料は溶融が早く起きるのである。
 プルトニウムの含有率が高く熱中性子の吸収特性が高いMOXは、制御棒の効きが悪くなる。この現象についても炉の停止余裕は十分にあると説明されるが、過酷事故時、特に巨大地震に襲われたら大きな縦揺れや横揺れで制御棒の挿入遅れが発生する。
 MOXのほうが1割程度制御棒の効きが悪いことは分かっているから、挿入失敗や遅れに対してかなり不利である。炉内の中性子量がウランに比べて少なくなるので、炉心安定性が悪くなる。条件によっては地震の揺れなどが起因して原子炉停止以前に暴走する可能性もある。
 全電源喪失はもちろん、基準地震動や基準津波、火山ガイドの大幅な変更に対しては、」全て不利に働くのだから、再度安全性の評価をやり直す必要がある。
 ところがパブコメなどへの規制庁の回答は次の通りだ。
 『MOX燃料の使用は、既に許可されたものであり、今回の新規制基準適合性審査では、MOX燃料の使用を前提として、重大事故等への対策が、新規制基準へ適合しているか審査したものです。審査では、重大事故等の進展に影響する燃料の核的特性、物性、照射挙動等に係る諸特性を考慮し、ウラン燃料とMOX燃料を炉心へ装荷する運用などを踏まえた条件のもとで、重大事故等時における炉心損傷防止対策、格納容器破損防止対策、使用済燃料貯蔵槽における燃料損傷防止対策等が有効であることなどを確認しています。』
 確認といっても単なる机上の空論に過ぎない。

5.電力会社ごとのプルトニウム収支問題

 国は、プルサーマル計画の見通しも余剰プルトニウム対策もない中で、全電力で再処理前提の核燃料サイクル計画を進める妥当性を説明していない。
 プルトニウムの所有者である電力会社ごとの収支バランスも未知のまま。プルトニウム利用計画が事実上ない北陸電力などは、保有するプルトニウムをどこかに売却するしかない。
 また、東電を例に取れば、プルサーマル計画を予定し認可を受けている原発は柏崎刈羽原発3号機のみだが、中越沖地震により破壊されて既に10年以上たつ。再稼働の見通しどころか廃炉の第一候補と思われるほどだ。
 柏崎刈羽原発6、7号機でプルサーマル計画を進めるにはプルサーマル原発の認可を得ていないので審査が必ず必要だ。これに数年はかかる。東電の保有するプルトニウムは電力会社では最大(約9トンで31%相当)だが、これが使うあてのない最大量になる。
 各電力会社の保有するプルトニウムの一部は大間原発の稼働に際し、これまで原発を動かしたこともない電源開発に売却される。この点は大変重要な問題である。プルトニウムを売却することは安全上も、核不拡散上も問題が大きい。反対の世論形成が必要である。
 東電が発生させた核のゴミは、あくまでも東電の責任で処理すべきであり、有価物であるとの名目を付けて他に売却し責任を転嫁することは許されない。

6.プルサーマル計画は核のゴミ問題を深刻化させる

 MOX燃料体の再処理の見通しが立たないので、核のゴミ問題をより深刻化してしまう懸念がある。
 MOX使用済燃料は、第二再処理工場などで再処理する(出来る)との説明を国は行っている。しかし根拠も具体性も全くない。
 MOX使用済燃料については、世界中で商業規模の再処理をしたことがない。その計画もない。
 現状では各原発の使用済燃料プールに貯蔵することになっている。これが燃料プールの容量を大きく圧迫する。
 既に既存の使用済燃料で一杯に近い原発が各地にあるのに、そのうえ運び出す見通しの立たないMOX使用済燃料を入れておくのは困難だ。
 このため既存の使用済燃料は乾式貯蔵や中間貯蔵施設(関電や東電)に移し、プールをMOXのため空ける、などとする本末転倒な計画が進められる恐れが高いのである。
 年明け早々、関電が使用済燃料を青森県むつ市の中間貯蔵施設に搬入することを検討中との共同通信記事が各地の新聞に掲載され、むつ市はもちろん青森県で大騒ぎになっている。
 東電と日本原電が共同出資して設立した中間貯蔵施設「リサイクル燃料貯蔵」について関西電力からの使用済燃料を受け入れるとの報道に対し、「当社は、東京電力HD株式会社と日本原子力発電株式会社の共同出資により設立され、両社の使用済燃料を再処理するまでの間最大50年間貯蔵する会社であり、両社以外の使用済燃料を受け入れることはありません。」との報道発表をしているが、関電が検討をしていることは間違いないだろう。
 本来は、プール貯蔵の危険性を回避するために乾式貯蔵を原発敷地内で行うことに意味があるのであり、更に危険なMOX使用済燃料をプールに置いたまま他の燃料を乾式貯蔵に移すなどもってのほかである。
 数十年にわたりプールに貯蔵していれば、MOX使用済燃料も乾式貯蔵に移すことは可能だが、その間のリスクは遙かに大きくなる。
 プルサーマル計画は一度限りのMOX燃料の使用では高コストなうえ資源節約効果も期待できない。数次にわたる利用が大前提であるが、一回の再処理さえMOXは技術的に困難である。(了)
  (初出:月刊たんぽぽニュースNo265・2018年1月)

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